没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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閑話

0-出会い-

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少年は失意の中にいた。
原因はクラスメイトの嘲笑の眼差しにある。いや、それ自体は大したことはないのだが、その眼差しの理由には深く傷ついていた。


「おい、あんま気にすんなよ。魔法使いになれば関係ないだろ?」


友人のマルスが少年の肩を抱くように叩きながら励ましの言葉をかける。

少年は学院の広場においてあるベンチに座りながら、大きくため息を吐いた。


「俺だけならまだいいさ。……でも、父さんや母さんは?妹のルーニャはどうしたらいいんだ?」


落ち込む少年の元に一人の貴族が近寄ってくる。そのニヤけた悪童ヅラを見て少年は再び大きくため息を吐いた。


「あっちに行ってくれ、トルーディ。今はお前のバカみたいなじゃれあいすら受け流せそうにない。」


少年の言葉を聞いてトルーディと呼ばれた貴族生徒は一瞬、ムッとした顔になるが再び人をバカにしたようなニヤけヅラに戻る。


「家が潰れたんだってな、ドミニク。お前のところは元々大した稼ぎもないくせに威張ってて嫌いだったんだ。お前も平民になったんなら平民らしくしとけよな。」


宣言通り、トルーディのその言葉をドミニクは受け流せなかった。


「父さんと母さんがいつ威張ったっていうだ!!二人とも立派な貴族だ!」


ドミニクはトルーディの胸ぐらを掴み、グイッと引き寄せる。

普段であれば、トルーディの軽口など軽くあしらうか無視するくらいで相手にしない。

ドミニクのこの反応にトルーディも面食らい、呆気に取られている。


「よせよ、ドミニク。こんなやつ相手にしても仕方ないだろ。」


マルスがドミニクとトルーディの間に入り、ドミニクを嗜める。

本心であればトルーディなどぶっ飛ばしてしまえばいいと思っているのだが、今は時期が悪すぎる。

卒業まで残すところ三ヶ月となった今、学院では最終成績の判定のために様々な査定が入るのだ。

こんなくだらないことで評価を落としても仕方がない。


行くぞ、とマルスがドミニクの袖を引っ張り、仕方なくドミニクはついていく。

まだ後ろでトルーディが何やら喚いていたが、今度こそ無視を決め込んだ。



「おい、何する!」


無視を決め込んでいてのだが、トルーディのそんな声で思わず振り向いてしまう。


「失礼しました。先輩。」


見れば、喚き散らすトルーディの前に一人の女子生徒がいる。倒れた女子生徒の周りには本が散乱していた。

どうやら、本を運んでいる途中でトルーディにぶつかり、倒れてしまったらしい。

ドミニクはその生徒に見覚えがあった。面識はないが、確か魔法祭の時に魔法闘技の代表で出ていた平民の一年生だ。

派手さはないが魔力のよく練られた美しい魔法を使っていたので印象に残っている。


立ち上がり、謝る女子生徒に対しトルーディは怒りを鎮めようとしない。罵倒に「平民が…。」などと関係ないことも含まれているため、どうやら嫌がらせ目的のようだ。


止めに入るべきか、とドミニクが近づこうとした時、女子生徒が痺れを切らしたように言い返した。


「黙って聞いていればなんなんですか?私が平民かどうかは関係ありませんよね!?確かに前方不注意だった私にも非はありますが、貴方もこんな道の真ん中で突っ立って往来の邪魔をしています。お互いに頭を下げ、「次から気をつける」で済むのではないですか?」


決して怒ってはいない。女子生徒は理路整然とトルーディに対して一息で出し切るともう一度頭を下げて散らばった本を拾い始めた。


トルーディはあっけに取られているが、周りにいた生徒達は三年生が一年生に言い負かされた様子を見てクスクスと笑っている。

我にかえり、そのことに気づいたトルーディはいそいそと逃げるようにその場を後にした。


ドミニクは彼女の行動に胸のすく思いだった。


「これ。」


ドミニクは女子生徒に近寄り、落ちている本を拾うのを手伝った。
最後の一冊を手渡すと、女子生徒は恥ずかしそうにそれを受け取る。


「勘違いしないでほしいんだけど、三年生が全員ああ言う態度なわけではないから。」


助けられなかったことを悔いつつ、ドミニクはそうフォローする。

女子生徒はクスッと笑ってから


「知ってます。優しい先輩にも大勢会ってますから。」

と言った。
その笑顔にドミニクはドキッとしたが、すぐに平静を装う。


「僕はドミニク、ドミニク・ハートフィリアだ。」


差し出した右手を女子生徒が握り返す。


「レンネです。よろしくお願いします、先輩。」

ドミニクとレンネの初めての出会いだった。

二人はその先、いくつかの苦難を乗り越えて結ばれることとなるのだが、それはまたの機会に。
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