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人魔都市編
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しおりを挟むレオンが学院を訪れると見知った教師が門の前で出迎えてくれた。
「おお、レオン……レオンではないか」
「こんにちわ、先生。こんな門の前で何を?」
「ああ、新入生を迎える準備だ。例年通りにはいかないことがいくつかあって、大変でな」
レオンを迎えたのはレオンが一学年の時に担任だったグラントである。
グラントのその言葉で、レオンはもう時期学院に新入生が入学する時期であったことを思い出した。
それと同時に今訪ねるのは不味かったか、と反省する。
新学期の始まるバタバタとした時期にお邪魔したのでは迷惑がかかると思ったのだ。
しかし、グラントはそんなことを全く感じさせない表情で門を開けレオンを中へ迎え入れた。
「聞いたぞ、戦いの功績が認められて晴れて貴族になったそうだな。お父上もさぞ誇らしかろう」
見知った学院の中を歩きながらグラントはそんな世間話をした。
レオンはそれに、「ええ」とか「まぁ」とか当たり障りのない答えを返している。
「お前が入学した時、その圧倒的な魔法のセンスを誰もが羨んでいたが、そこからよく慢心せずに研鑽を積んだ物だ」
グラントはそう言ってレオンを褒めながら学院長室を目指して歩いていた。
レオンは学院を訪ねた理由を特に話してはいなかったが、グラントのこの迷いのない行動から察するに、学院長が「会いたがっていた」というのは本当らしい。
大柄なグラントの一歩は成人しても尚小柄なレオンからすると遥かに大きい。
グラントが一歩歩くたびに、レオンは数歩の早足で着いていくのが大変だった。
学院長室の前まで来るとグラントはその太い拳で扉をノックした。
中から「どうぞ」と少ししゃがれた声がして、扉が一人でに開く。
久しぶりに会う学院長の姿はレオンには変わっていないように見えた。
あえていうとすれば、皺が少しだけ増えたくらいだろうか。
レイナルド・リーゲン学院長は入ってきたレオンの姿を見て一度目を細め、それからにっこりと笑った。
「お帰り、レオン」
レイナルドからそんな言葉が出てくるとは思っていなかったレオンは一瞬戸惑って、言葉をうまく出せずに飲み込む。
それから、なんとかうまく息を吐き出して
「お久しぶりです。先生」
とだけ答えた。
レイナルドは学院長室に置かれた来客用の椅子にレオンを座らせる。
扉を閉めたグラントはそのまま扉の前に立った。
「君が突然訪ねてきたということは、マグナガルが私の言葉を伝えてくれたということだな……彼には後でしっかりと礼を伝えておこう……婚姻と出産の祝いも含めて」
レイナルドはレオンの前の椅子に腰掛けて、そんな話をする。
その話に特に意味はない。本題に入る前の前置きだった。
「さて、まずは君に謝罪をせねばならない。アーサー王子とヒースクリフ王の争いについてだ。我々は中立の立場故にどちらにも与することができず、傍観するしかできなかった。許してくれ」
レイナルドはそう言って頭を下げるが、レオンはそんなことを気にしてなどいなかった。
魔法学院は魔法使いを育成するための機関であり、その所属は王国である。
アーサーとヒースクリフの戦いで、仮にどちらか一方の味方をしていれば、仮に味方をしたかった側の陣営が勝利した場合に存在が危うくなる。
そんな事情があるから、魔法学院が中立を決め込むことはわかっていた。
魔法学院だけでなく、レオンのよく知る友人達の中にも特異な能力を持った家系のために中立でいるしかない者達もいたのだ。
その者達を「なぜ味方をしてくれなかった」と責めるつもりなどレオンにはない。
「ルイズから聞きました。戦いの最中、学院は負傷した者を匿い救護所の役割をしていたと。それだけで十分です……むしろ、僕は学院を戦場にしました。お詫びするのなら僕の方です」
頭を下げ返すレオンにレイナルドはふふ、と笑った。まるでレオンがそう返すとわかっていたようだった。
「君ほどの力を持つ魔法使いが、同等の力を持つ魔法使いと戦う場所などそうはない。学院を選んだのは適当だったと理解しているよ」
レイナルドのその言葉にレオンはいくらか気持ちが軽くなった。
ディーレインとの戦いの場所に学院の競技場を選んだことを少しだけ後悔していたのだ。
もちろん、そんなことをさせるつもりは毛頭なかったが一歩間違えれば学院の生徒達に危害が及ぶ危険な行為だったと。
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