没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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人魔都市編

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王都での用事を全て済ませて、レオンは開発途中であるクルザナシュ地方へと帰還した。

再び険しい山道を超えて、目当ての盆地に辿り着くとそこにはレオンの想定しない景色が待っていた。


「なに……これ」


レオンの目に入ったのは二つの異なる情景であった。

一方は、レオンの知らない未知の建物である。
レオンが建てた仮小屋とは似ても似つかないほどに立派な石造りの家屋だ。

それが、盆地の中心部にドンと巨を構えていた。

もう一方は、その建物のななめ後方十数メートルのところに空いた大きな穴だった。

今できたばかりらしく、土煙を上げている。

盆地にはレオンの見知らぬ人間達が何人かいて、大穴の周囲で逃げ回っている。

大穴の目の前で立ち尽くし、肩で大きく息をしているのは悪魔の一人だった。

ア・ダルブだ。

ダルブの隣には人間が一人いて、ダルブに何やら声をかけている。


直感的に、レオンは何かまずいことが起こったのだと察した。

レオンは大急ぎで大穴の前まで駆け寄った。


「ごめん、今戻った。……これは、どういう状況なの?」


ア・ダルブとその隣に立つ男。その二人に聞こえるようにレオンは問う。


ダルブはちらりとレオンの方を見たが無反応。男の方はオロオロとした様子でレオンとダルブを交互に見たあと、恐る恐るといった様子で話し始めた。


「は、初めまして……ハートフィリア様。私、ウォーレンス商会の者で、ライルと申します」


その男は商人であった。
ウォーレンス商会という名前に聞き覚えがあり、レオンは記憶を遡る。

ライルはレオンが思い出そうとしていることに気づき、「ウォルス様の……」と付け加えた。

それでレオンは思い出した。ウォーレンス商会は学院時代のレオンの先輩にあたるクエンティン・ウォルスが会長を務める商人達の集まりである。

その商会に所属するライルがここにいる、ということは十中八九クエンティンの差し金であろうことはレオンには容易に想像できた。

そして、そのレオンの予想通りライルは自分がクエンティンから指示されてここに来たと説明する。


レオンの都市開発を手助けする旨の指示を受けたという。


「それで……私、僭越ながらこの土地の建物の様子を見て、新たに建物を建てました……建築士を連れてきていましたので。しかしながら、私は知らなかったのです。あ、悪魔の方々が既に地下に移住されてきたことを……それで、その作業をしていましたらこちらの方が出てきまして……」


動揺しているからか、ライルの説明は要領を得なかったがレオンは何となく状況が掴めてきた。

レオンが先程見た新しくできた立派な建物。
それはライル達が建てたものだった。

一方、地下にいたダルブは地上の物音に気付き外に出た。

すると、見知らぬ者たちが勝手に作業を初めている。

ダルブはこの土地を取られると思ったのだ。

そして、怒りのままに攻撃を仕掛け大穴を空けたのだった。


「まさか……誰かに怪我を負わせたんじゃ……」


レオンは少し青ざめた表情でダルブに聞く。

悪魔たちには事前に無闇に人間に危害を加えないようにしてほしいと伝えてある。

悪魔と人間が共存を始めるという事実は既に王国中に広まっているが、国民達は懐疑的なのだ。

特に、地方貴族や元アーサー派の中には今だに悪魔を悪く言う者達もいる。

レオンは彼らの言葉がディーレイン達に届かないように配慮していたが、これ以上人間が悪魔を非難する材料を作りたくなかったのである。


ダルブはムスッとしていてレオンの問いに答えようとはしなかったが、その代わりにライルが答えた。

「ええ、ええ、私達は無事です。誰も怪我などしておりません」


その答えを聞いてレオンはホッと胸を撫で下ろした。

どうやらダルブは怒りのままに人間を襲ったわけではなく、レオンとの約束を守り、驚かすために大穴を空けただけのようだ。
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