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新たな時代編
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しおりを挟むその日、クルザナシュに新しくできた街は大賑わいだった。
山間を縫って舗装された道は魔法で造られたもので、そこを移送用の大型馬車が何往復もしている。
クルザナシュに新たな住人がやってくる日だった。
クエンティンによって選出された住人達の表情は十人十色であった。
新しい街、新しい生活に想いを馳せ、期待を瞳に浮かべる者。反対になぜこうなってしまったのか、これからどうなるのかと不安を面に出す者。
彼らの大半は王都での戦いで家を無くした平民達だった。
魔法使いが総出で街の復興に辺りはしたが、全てが元通りというわけにはいかなかった。
特に、悪魔と人間の戦いがあった場所は損傷が酷く未だに復興のままならない場所も多いのだ。
そういった理由で住む場所を無くした人たちをクエンティンは集め、レオンが新たに開拓したクルザナシュの街に送ったのである。
悪魔が原因で住む場所を失った人たちを悪魔と共に街に住まわせる。
これはある種の賭けだった。
悪魔に対して良い感情を持っていない人達に悪魔と共に暮らすことで彼らのいい面を見てほしいという思いがある。
顔に不安の色を浮かべている新たな住人達のほとんどは悪魔との共存という新しい生活を恐れているのだ。
では、未来に想いを馳せ期待を露わにしている者達は何なのか。
彼らはクルザナシュの移住者募集の張り紙に自ら応募してきた者達だった。
出身は王都に限らず、国内の色々なところから集まっている。
彼らの目当てはレオンだった。
戦いで街を救ったレオンはかつて先代国王に着せられた汚名を見事に払拭し、今では英雄視されているのだ。
移住を志願した者達はそのレオンに自分の能力を売り込もうとしている者ばかりだった。
魔法使いであったり、魔道具職人であったりと職種は様々であったが、その中にはレオンの見知った顔もあった。
「エイデン!」
移住してきた者達の中に共に戦った青年を見つけたレオンは思わず声をかける。
事前に目を通した書類で来ることは知っていたが、実際に来ているところを見ると嬉しさがあった。
「レオンさん、お世話になります」
北の村出身のエイデンはレオンと付き合いの古い少年である。
レオンがまだ学生だった頃に出会い、色々あってレオンに命を救われた。
そして、王都での王子二人の覇権をめぐる戦いにも参加している。
「よかったのかい? 孤児院は大丈夫?」
「はい、シスターが『行ってこい』と送り出してくれました」
魔法学院を卒業した後、エイデンは故郷の村に戻り育ててくれた孤児院の経営を手伝っていたとレオンは聞いていた。
クルザナシュは王国の南の地方にあり、エイデンの村は北にある。
距離にしてかなり離れていて、浮遊を使える魔法使いといえどそう簡単に帰れる距離ではない。
レオンの心配とはよそに、エイデンは清々しい表情をしていた。
エイデンはあえて口には出していなかったが、彼が魔法使いになったのはレオンの影響が大きい。
悪魔憑きとなって、本当ならばそこで人生を終えてしまってもおかしくなかったのにレオンに救われた。
それだけでなく、卓越したレオンの魔法技術を心からの尊敬していた。
もちろん、彼にとって子供だった自分を育ててくれた孤児院は大事だった。
しかし、それよりも恩人であるレオンの役に立ちたいと言う思いが強い。
さらに、エイデンこの街に来た理由はそれだけではなかった。
「今年から魔法学院の入学者の年齢が変わったのは知っていますか?」
エイデンの問いにレオンは頷く。
王国の魔法体制はヒースクリフが国王になったことで大きく変わろうとしていた。
その一つが魔法学院に入学できる年齢の引き下げである。
レオン達のような今までの魔法使い達は十五歳を迎える歳に魔法学院の入学を認められる。
それには理由があり、魔法の才能が目覚めるのが十五歳までとされているからだった。
しかし、レオンがそうであったように才能の目覚めには個人差があり早ければ生まれてすぐに魔法の素質が開花することもある。
魔法学院ではそういった子のために、既に魔法の素質を開花させている場合に限り入学の年齢を三年引き下げたのだ。
つまり、才能が目覚めるのが早ければ六年間魔法学院では学ぶことができるようになるのだ。
それは、より優秀な人材を育てるためにヒースクリフが中心となって行われる新たな国の政策の一つだった。
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