没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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新たな時代編

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エイデンがクルザナシュの街にやってきたのは魔法学院が入学者の年齢を引き下げたことと多少の関係があった。

それは、王都との連絡の取りやすさとも関係している。

エイデンがもともと住んでいた村。孤児院のある村はどうにも連絡が取りづらい不便な所なのだ。

北方の辺境であり、伝達手段が確立されてないというのも大きいが、何よりも村人達の他所への関心の少なさが大きく影響している。


生活のほとんどを自村とその周辺の村の小さなコミュニティで賄っているため、王都を含む王国の他の地域とほとんど交流がないのだ。


それでは、王国の最新の情報はなかなか手に入らない。

エイデンが心配していたのはその点だった。


「実は、ミアが今年学院に入学するんです」


ミアはエイデンの妹のような存在だった。

孤児院の子供であり、直接的な血縁関係はない。

それでも、ミアがまだ言葉も話せないような頃からエイデンは彼女の面倒を見てきた。

そんなミアに魔法の才能が目覚めたのはエイデンが悪魔憑きとなった後だった。


貴族でもなく、両親さえわからない孤児院育ちの女の子。

そんな子が魔法学院に通うというのだから、エイデンはとても心配した。


そんな時にレオンが南方の領地で領民を募集していることを知ったのだ。


クルザナシュはエイデンの故郷と同じくらい辺境だが、レオンとヒースクリフの関係上、北方にいるよりも王都の情報が入ってきやすい。

エイデンにとって丁度いいタイミングだったのだ。


「すいません。妹の入学にかこつけて……」


「いいさ。どんな理由でも信頼できる人が側にいてくれるのはありがたい。頼りにしているよ」


少し申し訳なさそうにするエイデンにレオンは笑った。

エイデンの妹を心配する気持ちがレオンにはよくわかる。

レオンも同じような立場だったからだ。



「兄さん!」


レオンがエイデンと話していると、その場所に少年が一人飛び込んできた。

勢いよく飛び出した少年は、レオンのローブに顔をうずめる。


レオンの弟、マルクスだった。


「マルクス! いつ着いた? 旅はどうだった?」


レオンはマルクスを抱きしめる。
マルクスが今日クルザナシュに来ることは知っていたが、到着には気が付かなかった。

何台も通った大型馬車の中に紛れていたらしい。


「さっきだよ! もう最高さ。ホルタリアの湖でカワイルカが跳ねてるのを見たんだ。とっても綺麗だったよ」


マルクスは興奮冷めやらぬという感じで旅の出来事をレオンに話した。

生まれ育った街からほとんど出ることのなかったマルクスにとって、それは貴重な体験だったのだろう。

レオンは自分が魔法学院に入学した時のことを思い出していた。

あの時、レオンも初めて見る景色や街に心を躍らせていた。


同じようにマルクスもこれからのことに心を躍らせているのだ。


そう、エイデンの妹ミアと同じようにマルクスもまた、今年から魔法学院に入学することになったのだ。


クルザナシュには入学式の前に数日泊まるためにやってきたのである。


「マルクス、マークは?」


レオンはマークの姿を探してきょろきょろと辺りを見渡した。

幼いマルクスを一人でクルザナシュに送るのは不安があったため、付き添い人をマークに頼んだのだ。


「マークおじさんなら、今来るよ」


マルクスがレオンの後ろを指差す。
街についたマークは馬車の停車所で手続きをしていたらしい。

手続きを終えて丁度こちらに歩いてくる所だった。


「こらマルクス、おじさんじゃなくてお兄さんだろ」


マークはそう言ってマルクスの頭を小突いてからレオンに向き直る。


「よう、色々と苦労しているみたいだな」


「まぁね、そういうマークも出世おめでとう」


二人はその場で拳を合わせると、お互い笑いあうのだった。
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