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新たな時代編
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しおりを挟むレオンはマークを連れて自宅である屋敷の中に入った。
弟のマルクスはクルザナシュに出来た新しい街に目を輝かせていて、街を見て周りたいと言い、見守りを買って出たエイデンと共に街を散策している。
屋敷の中に入ってすぐマークは驚きの声を上げた。
切り出された石と僅かな木材で作られた屋敷の中は非常に豪華である。
魔法で研がれた石の床もツルツルとしていて大理石のようになっていたが、マークが驚いたのはそこではなかった。
入ってすぐに二階に上がるための大階段があるのだが、その階段を昇って右側、玄関からもよく見える部屋の扉が開け放されていた。
その部屋の中から紙の束が溢れ出している。
廊下にまで溢れた紙の束で、部屋の扉は閉まらないくらいだろう。
「……掃除する暇もなくて……」
唖然とするマークの隣でレオンはばつが悪そうに苦笑いをする。
紙が溢れる部屋はレオンの自室だった。
ここ数日、レオンは机に向かって書類作業ばかりをしていたわけだが、溢れかえっているのはその書類だけではなかった。
古い魔導書の書き写しや、魔道具の設計図と思われる紙が無造作に投げ出されている。
「おい、レオン。少しは休まないと体がもたないぞ」
二階に上がり、溢れかえった書類の一部を手にしたマークは全てを察したようにため息をつく。
レオンは書類仕事の傍ら、僅かに空いた時間で魔法や魔道具の研究をしていたのだ。
それは仕事とも言えるし、レオンの趣味とも言えた。
「古い魔導書はヒースクリフからか? ダレンも絡んでそうだな。魔道具の方は言うまでもなくクエンティン先輩だろ」
書類の整理を始めながら呆れたように言うマーク。図星をつかれてレオンはさらに苦笑いをするしかなかった。
マークの言う通り魔導書の類は王都にいるヒースクリフが、王国内の魔導書関連をまとめて送ってきたもので、魔道具の設計図の方はクエンティンが設計途中の案を紙に写してよこしたものだった。
その中には悪魔達の魂を入れる魔導人形に関する者もあり、レオンも最初は街の開拓の延長として目を通していたのだが、次第に脱線し始めたというわけである。
マークは半ば呆れつつもそれ以上何も言わずに、レオンの書類の整理を手伝った。
ようやく整理が終わり、部屋がすっきりとして扉も閉まるようになった頃にはもう既に日は落ち始めていた。
「兄さん! この街すごいよ。きっとみんな気にいる!」
散策を終えて屋敷に帰ってきたマルクスが興奮冷めやらぬ様子ではしゃぐのをレオンは玄関で迎え入れた。
「そうか、楽しかった? エイデン、ありがとう」
マルクスを送り届けてくれたエイデンにレオンが礼を言うと、エイデンは会釈して屋敷を出ようとした。
「エイデン、良ければ夕食を食べて行ってよ」
「いえ、今日は割り振られた家に戻ります。隣人にも挨拶しておきたいですし」
レオンの誘いをエイデンは申し訳なさそうに断る。
その代わりにレオンは別の誘いをした。
「じゃあ明日の歓迎の宴には来てね。街の人みんなを招待しているから」
「はい、それはぜひ」
エイデンは最後にもう一度会釈して屋敷を後にした。
レオンはマルクスに手を洗いに行かせると自分は屋敷のキッチンへと向かった。
その後について部屋に入ったマークが意外そうな顔をする。
「お前が作るのか?」
「そうだよ。こう見えてもアルガンドにいた五年間は自炊してたんだ。期待しててよ」
「そうじゃなくて、普通貴族になったら屋敷には使用人がいるだろ? ……って、使用人がいれば部屋も片してくれるか。お前一人なのか?」
マークの想像していた貴族の暮らしと実際のレオンの暮らしは違う部分が多かった。
貴族になったとはいえ、現状のレオンにまだお金を稼ぐ術は確立されていない。
貴族の位をヒースクリフから受け取った際、レオンは領地を開拓し得るためのある程度纏った資金を褒賞として与えられている。
しかし、レオンはそれらのお金は街のためにのみ使うべきだと考え、自分の身の回りには一銭も使っていなかった。
そのため、屋敷には使用人は一人もおらず炊事洗濯は全てレオンが行っているのである。
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