没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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二つの国編

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翌日、ザオの港町に到着した船は二隻ともとても大きく豪華なものだった。

聖レイテリア神聖国の船から降りて来たのは白い布地に青のラインの入った神官服を着た男である。

若くもないが歳をとっているわけでもなく、その顔つきは険しく神官というよりも戦士という言葉が似合いそうな男であった。


「ようこそ、おいでくださいましたライナス様」


と、降りて来た男を最初に出迎えたのはエレオノアールのレイテリア教会の神官エルシムである。


エルシムはそのまま男をレオンの前まで誘導し、レオンに紹介した。


紹介された男は右手を差し出してレオンに握手を求める。


「お初にお目にかかる。聖レイテリア神聖国、レイテリア教会の副神官長をしているイリード・ライナスだ」


「ようこそライナス様。レオン・ハートフィリアと申します。共和区クルザナシュの領主です」


レオンの言葉にイリードの眉がピクリと動いた。


「共和区? とは、初めて聞く名前だが」


ただでさえ険しく迫力のあるイリードの表情がさらに一層険しくなった。

レオンはイリードの真っ直ぐな視線にビリビリとした緊張感を持ちつつも、視線を逸さぬように踏みとどまった。


「先刻名付けられた我が領地の名です。人族と悪魔族、双方が手を取り合って暮らしていけるようにそう名付けました」


レオンの答えにイリードは無言だった。

何かを考えているようにも、何も考えていないようにもとれるその空白の時間はなんとも不気味だったが、レオンはなんとか持ち堪えた。


イリードはフッと薄く笑い、それから何事もなかったかのように


「君の街を見せてもらうのが楽しみだ」


と言った。そしてその後、船に乗っている荷物の運搬を自らの部下に命じると用意された馬車に乗り込んでいった。



「ふぅ……」


イリードがいなくなった後、レオンは忘れかけていた呼吸を取り戻したかのように息を吐いた。

すかさずマークが近づいて来て、「すごい迫力のおじさんだったな」と耳打ちをする。


それに無言で頷いてから、レオンはもう一隻残った方の船に目をやった。


東部の島国、サンブック王国の船である。

レオンは「どうかイリードのような迫力満点の人じゃありませんように」と心の中で願いながらサンブックの使者が降りてくるのを待ったが、実際に降りて来たのは意外な人物だった。


「おおレオン! 久しぶりではないか!」


船から颯爽と飛び降りるなり、立っていたレオンのところまで駆け寄って挨拶と共にハグをかわしてきた青年にレオンは驚きの声を上げる。


「アルナード? なんで君が……」


船から降りて来たのは学院時代を共に過ごした旧友の一人、アルナードだったのだ。

容姿端麗で魔法の腕も良い彼は学院時代にレオンと成績を競い合うほどの強者だった。

そのアルナードがサンブック王国の船から降りて来たことにレオンは戸惑いを隠せなかった。


「なんでって、僕はサンブックの王子だからね。父君に命を受けて今回君の街を見物に来たんだよ」


とアルナードは言った。
レオンは頭を整理するために一度深呼吸をする。

確かにアルナードがこの国の人間ではないことは知っていた。
学院時代の彼は友好国からの留学生という立場だった。


しかし、その友好国がサンブックで、さらに彼が王子だったなんて話は聞いたことがない。


「なんで言ってくれなかったのさ? まさか、君が来るなんて思ってもいなかったよ」


「学院時代は訳あって王族であることを隠していたからね……今回ここに来ることもあらかじめ決まってたんだけど、レオンには秘密にしてくれって僕が頼んだのさ。驚かせたくてね」


アルナードはヒースクリフやダレンに正体を明かさないように口止めしていたらしい。

しかし、警備の問題上マークは知っていたようで驚くレオンを見てニヤニヤと笑っていた。


とにかく、レオンは急な旧友の来訪に驚きつつも二国の使者を出迎えたのだった。
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