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二つの国編
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しおりを挟む「おい、なんだこれ……」
マークは絶句した。
眼下にあるのは岩でできた砦のような建物だった。
砦には山賊が棲みついているらしく、ボロボロの荷車のような馬車から仕切りに何か荷物を運び込んでいるのが見て取れた。
その様子を山中の木陰から観察しながらマークはもう一度「なんだよこれ」と呟いた。
先遣隊の様子を確認しに行かせたオグリとティーヤの二人が馬車を停止させたところまで戻って来たのは数刻前のことである。
報告を求めるマークに対し、二人は気まずそうにレオンを見ながら
「問題が……」
と口にした。
マークが具体的に何が起こったのかを聞くと、二人はマークに耳打ちをした。
その間もずっとレオンの方をチラチラと見ながらである。
報告を聞いて溜め息混じりにレオンの方を見るマーク。
レオンはどうやら起こった問題に自分が関係しているらしいということを悟った。
一行は慎重に馬車を進めて、一日目の目的地である山を超えた先を目指した。
そして、目的地の少し手前で止まり魔法騎士団のほとんどのメンバーを護衛に残し、マークとレオンの二人だけで山中へと入っていったのである。
そして目にした砦の姿。
呆れたように呟くマークの隣でレオンはやってしまった、というように口に手を当てて俯いている。
「おい、レオン。これが今夜泊まる予定の砦だな?」
確認するようで、それでいて否とは言わせないような圧のこもった声でマークが確認する。
レオンは無言で頷くしかなかった。
「たった一日泊まるためだけの所に、こんなにすごいもんを建てたのか? それでいて、見張りの一人も置かなかったのか?」
「他国の使者を迎えるのにはそれなりの所を用意しなきゃなって……こんな山の中だし、盗られるようなものも置いてないからいいかなって……」
レオンは怒られることを理解してその場で妙に縮こまっている。
つまるところ、起こった問題とはこれなのだ。
レオンがもてなしの為に魔法で建てた岩の砦に、その場所を偶然見つけてしまった山賊達が入り込んでしまったのである。
物資をせかせかと運んでいる所を見るに、ここを本拠地として構えるつもりらしい。
マークはもう一度大きく溜め息を吐いた。
レオンから予め旅の工程を聞いてはいた。
そして、今夜泊まる所も事前にレオンが用意したと知っていた。
しかし、それがこんなにも立派な建物で、放置していると山賊の根城にされてしまうような場所だとは思っていなかった。
つまりは自分の確認不足。レオンばかりを責められないとマークは自分に言い聞かせる。
「仕方ねぇ。さっさとアイツら捕まえて砦を取り戻すぞ」
マークがそう言うとレオンはそれ以上怒られなかったことを不思議に思ったのか、疑問を浮かべたままの表情でマークを見た。
そして、その後でこうなったのはやっぱり自分のせいだよなと気まずそうな顔をする。
「僕が行ってくるからマークは馬車に戻ってて」
責任を取るつもりでレオンがそう言うとマークはもう一度溜め息をついた。
「あのな、俺はお前の護衛でもあるんだ。一人で乗り込ませるようなことはさせられねぇよ」
「でも馬車に戻って騎士団の人たちを呼んでたら時間がかかるよ。それに、山賊くらいなら僕一人でも……」
自惚れではなく、事実としてレオンは言った。
山賊、というのは大抵は街でまともに働く気がない者達がなる荒くれ者だ。
魔法を使える者は当然何かしらの高待遇な仕事に就く為、魔法使いが山賊になるとは考えづらい。
つまり、相手はただの人間なのである。
レオン一人でも十分すぎるくらいに対抗できる相手だった。
「バカ、こんなことでわざわざ部下達を呼べるか恥ずかしい。俺とお前の二人でやるんだよ」
マークのその言葉にレオンはまた疑問を浮かべる。
別に二人でやることに文句はないが、さっき言ったことと矛盾するじゃないかと言いたげな顔だった。
「さっきのは護衛を任された隊長としての言葉で、お前に参加させるのは親友としての俺の意見だ」
レオンの考えを呼んだようにマークはそう言って、山を駆け降りていく。
レオンは説明にあまり釈然としない何かを感じながらも黙って後を追うのだった。
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