没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

文字の大きさ
112 / 234
二国の使者編

355

しおりを挟む

「何とも見事な街並みではないか……」


聖レイテリア神聖国、副神官ライナスの口から漏れ出たその言葉は紛れもなく本心であった。

綺麗に積まれた石の外壁とその奥に広がる田畑、それに石を基調とした立派な家々が立ち並ぶその光景はライナスがそれまで見てきたどの街と比べても遜色ない。

いや、むしろこの荒れ果てた大地に築き上げたとするならば何よりも栄えた街並みに見えたのである。


聖レイテリア神聖国とサンブック王国。二国の使者を乗せたレオン達の馬車はつい先程、昼を少し過ぎた辺りにクルザナシュへと到着したばかりである。


一日目は慣れない旅路に加え、砦を山賊に奪われるという事件があった一行だが二日目の半日は順調な道のりであった。


ついてすぐ、目の前の街に驚愕したライナスとサンブックの王子アルナードは開けた口が塞がらないまま街の中へと案内された。


「いったい……どうやって……いや、ここは出来たばかりの街ではないのか? この充実した設備はなんだ?」


アルナードは道案内のために前を歩くレオンに聞いた。

レオンは振り向き、アルナードの質問に答える。

ついでに、口にこそ出さないが興味を示しているであろうライナスにも向けて。


「確かに街は出来たばかりです。でも、住人は皆協力的に働いてくれるし、知恵を貸してくれる友人もいます。今のこの街の姿は彼らのおかげです」


クルザナシュの街はこの一週間で大きな変化を遂げていた。


レオンが最初に建てた仮小屋はクエンティンから派遣されたライル達建築班の設計のもと改築され、魔法による整地も進み、新しくきた住人達のために家も用意された。

農地は拡大し、街の下には排水のための下水道まで設置されている。


「ここまでの街を作るには何年もの時間がかかるはずだ。いったいどうやってこんな短時間で……」


アルナードはレオンの説明だけでは納得が行かない様子で、さらに街を見てやや興奮気味に捲し立てた。


「もちろん人力だけでは無理でしょう。でも、僕たちには魔法があります。幸い、この街に住みたいと志願してくれた人の中にも魔法使いが何人かいましたから、彼らの力を借りました」


クルザナシュの街にはレオンの噂を聞きつけて魔法を学びたいという魔法使いがエイデンの他にも何人か移住してきていた。

街の発展には彼らも一役買っているのである。



「失礼、ハートフィリア殿。私は教会の者であるし、魔法も使える。魔法にはそれなりに詳しいつもりだ。当然、魔法が建築に有効なのもわかっているか、それにはかなりの膨大な魔力が必要なはず。貴国にはそれほど優秀な魔法使いが揃っているのか?」


アルナードはまだ何かを言いかけていたが、それを遮ったのはライナスだった。

年の功か顔には出さないようにしていたが、彼もまた街の姿に興奮しているのだ。

魔法を使った建築や開墾は実際どの国でも行われている。

人力で行うよりも遥かに早く作業が進むのは周知の事実だが、それにはライナスの言った通りに膨大な魔力が必要となる。

そのため、どの国でも魔法はあくまでも補助的に使うのが普通であった。

レオンはその質問を待ってましたとばかりに心の中では拍手をしながら質問に答える。


「もちろん、僕たちだけではこんなに早く街を発展させるのは難しかったでしょう。それを可能にさせたのは他でもない彼らですよ」


とレオンは指を指す。
ライナスとアルナードの視線がレオンの指の先に向かう。


黒いローブを着た男が一人、そしてその周囲に何人かのが集まっている。

彼らもまた黒いローブを着ていて、さらにフードを深く被っている。


「彼らは……?」


「悪魔です」


黒いローブの集団を訝しむライナスにレオンは得意げに答えた。


ライナスの瞳が大きく見開かれたのをレオンは見逃さなかった。

しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。