没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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二国の使者編

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その日の夜はレオンの家にライナスとアルナードの二人を招き、さややかな晩餐会となった。


貴族になって日が浅く、そういったことに興味関心の薄いレオンであったが貴族としての立ち振る舞いや失礼のない応対の仕方などは一通りこの一週間で学んできたつもりである。

ヒースクリフが気を利かしてオードを指南役としてクルザナシュによこしたのだ。


ついでにオードは自分の屋敷の使用人を何人かクルザナシュのレオンの屋敷に派遣した。


他国の使者を迎える晩餐会に使用人の一人もいないレオンの家では格好がつかないからである。



「いいかい、貴族というのは思っている以上に面子にこだわる。君はこういうのは好きじゃないかもしれないが、これも一つの世渡りの手段として覚えておくべきだ」


レオンにテーブルマナーや言葉遣いを教え込みながらオードは口癖のようにそう言っていた。


晩餐会での失礼が原因で印象が悪くなり、国同士の関係まで悪化するというのは実際にそう珍しくない話らしい。


一週間の特訓のかいあってか、晩餐会はつつがなく進行していた。



「非常に美味しかった。素敵な夕食をありがとう」


口元を上品に拭いながらライナスは礼を述べる。

その前に置かれた皿の上は綺麗に無くなっている。


レオンはライナスと自分の食器の上を見比べてみた。


「…………」


天と地ほどの差があるとまでは言えないが、少なくとも落胆し口をつぐむ程度には差があった。


次にアルナードのテーブルの上を見てみるが、彼もやはり上品に食事をした後がみてとれた。


学院時代のアルナードからは貴族らしさなどあまり感じた覚えはなかったが、こうしてみると立ち振る舞いから所作まで含めて優雅であることがわかる。


どうやら一週間程度の訓練ではまだまだ自分は貴族にはなり得ないとわかったレオンだったが、アルナードの向かい側に座っているオードが何も言わなかったのでそれ以上気にするのはやめることにした。



「ハートフィリア殿の街はいかがでしたか? 開墾の手際の良さは国内でも評判なのですが……」


オードはこの席に王都からの歓迎の使いとして出ている。

その役目を果たすためか、それとも間を繋ぐためのレオンの手助けかはわからないがそんなことを口にした。


実際にはクルザナシュの開墾の異常な早さはまだ国中には知れ渡っていない。


なにしろ、二国からの使者が来るからと急いで見栄えを良くしたようなものなのだ。

噂が広まるにも時間がかかり、街の発展は噂が広まる速度を上回ってしまっていた。



「うむ、申し分なく美しい街であった。これだけ大きな街だ。特産や名産もすごいのだろう。国への土産に是非いくつか持ち帰りたいものだ」


ライナスの言葉にレオンは内心でドキリとした。

恐るべき早さで発展したクルザナシュだったが、それ故に抱えた問題もあるのだ。


その一つが特産品がないということであった。

発展するのが早すぎて、周囲の山々を調べる時間がないのである。

一応、クルザナシュの高い岩山の環境から見るに鉱物の取れる場所があるのではないかとレオンは踏んでいたが、まだ実際にその場所を見つけられてはいなかった。


さらに、作物に関してもまだまだ成長しきっておらず収穫できた物は一つもない。


オードの知恵を借りて植えたイネガシアという魔法植物がクルザナシュの特産品になる可能性は大いにあるが、それ自体もまだ植えたばかりであった。


レオンの指南役として来たオードがついでにデイクイーンの力を使い成長を促したが、それでも収穫ができるのは約一月後である。


そんなわけで、レオンはライナスの発言にドキリとしたのだ。


特産品、名産品がないというのは貴族にとってどれくらい恥なのだろうかとレオンは内心で考えていた。


そんなに大きな問題にはならないだろうとも思うが、経験が少なすぎて判断ができない。


間を繋ぐためにも何か話をしなくてはと思うが、上手い言葉が見つからずに黙っているとオードが


「あいにくですが、この街の特産であるイネガシアはまだ収穫の時期ではないんです。もしよければ獲れた物をお送りしますよ」


と助け船を出し、レオンはフーッと息を吐き出したい気持ちになった。


実際にはそれはただの雑談程度の会話で、特産品がまだないことをレオンが話しても何の問題にもならなかっただろう。


レオンは貴族としてのなんとも身動きの取りづらい状況をこの日初めて体験したのである。
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