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二国の使者編
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しおりを挟むライナスとアルナードを迎えに行き、レオンが向かったのは街の奥に造られた広場である。
そびえ立つ岩山を綺麗に切り取ったかのように作られた窪みに、ステージとなる台座が用意されている。
集まっているのはレオンだけではなく、街の住人達の姿もある。
これからここにヒースクリフが姿を現し、歓迎の式典が始まるのだ。
「レオン、準備ができたよ」
到着したレオンにオードが声をかける。
オードはレオンに代わり、式典の準備を進めてくれていた。
街の住人達の期待に満ちた視線が舞台の上に集まると、盛大な拍手に包まれながらエレオノアールの国王、ヒースクリフが姿を現すのだった。
「クルザナシュの皆さん、今日は素晴らしい式にお呼びいただきありがとうございます。そして、聖レイテリア神聖国のライナス副司祭様、サンブック王国のシウネ王子殿下、ようこそ我が国に。心よりの歓迎を申し上げます」
壇上に立ったヒースクリフがやや大袈裟な仕草と口調で言葉を並べる。
これも貴族としての立ち振る舞いの一つだろうか、とレオンは少し疑問に思いつつも式を見守っていた。
壇上にはライナスとアルナードの二人が上り、それぞれヒースクリフに感謝の意を示した後で自国からの贈り物を献上する。
二人ともヒースクリフに負けないほどには大袈裟な動きをしているようにレオンには見えたが、それを見守る街の住人達はうっとりとした表情をしていた。
貴族同士の挨拶を目にすることなど、普通の平民からすれば滅多にあるものではない。
そんな彼らから見ればレオンには大袈裟に見えるこの式典も憧れる対象となるのであろう。
「なかなか上手いことできたじゃないか」
レオンが何ともいえぬ表情で式を見守っていると、その横にダレンが立ち周囲には聞き取れない声で囁いた。
レオンは驚いてダレンの姿を確認した後、ニヤニヤと嬉しそうに笑うダレンの顔を見てどうやら大きな問題は起きなかったようだと胸を撫で下ろした。
「まったく……君が『貴族の位を剥奪する』なんて言うから酷く緊張したよ。少なくともここ数日は本当に疲れた」
ため息混じりに冗談半分、本音半分といったようなくたびれた表情でレオンは言う。
誰にも聞かれないように声を落としていたが、ダレンにはそれが逆に酷く落ち込んでいるように見えて面白かったらしい。
クスッと笑い出すと
「ああ、あれはただの冗談だ」
と悪びれもせずに言った。
レオンは思わず目を丸くしてダレンの方を見る。
その反応がさらに面白かったのか、ダレンは珍しくクスクスと声を立てずに笑い続けた。
貴族になるというのは国から認められた証でもある。
簡単にはなれるものではないし、一度認められれば責任がついて回るものだ。
実際に貴族の位を剥奪される事例もある以上、絶対にレオンの貴族位を剥奪しないと断言できるものではないが、少なくとも現時点ではダレンにもヒースクリフにもそのつもりは全くなかった。
それは二人が心より友であるレオンを信頼しているからである。
わざわざ脅すように「貴族の位を剥奪する可能性もある」と手紙で伝えたのはそれだけ今回の二国の使者の来訪が重要なことだとレオンにわからせるためであった。
「まぁ、実際よくやってくれてるよ。後はあのお二方に街の案内をしてくれればいい。全て終わったら国からの報奨金も出るからがんばれ」
とダレンは言うとまた自分の持ち場に静かに帰っていった。
残されたレオンはというと、まだ式典も終わってはいないのにその場に崩れ落ちたい気持ちだった。
別に騙されたことに怒っているわけではない。
ただ、一気に気が抜けたのである。
ただでさえ疲れていたのに、その疲れが何倍にもなったかのような疲労感があった。
それと同時に全身の筋肉がほぐれ、緊張が一気に解けたような開放感もある。
レオンは自分が貴族の位を剥奪されるかもしれないということに対してどれだけ身構えていたのかを自覚するのであった。
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