没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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二国の使者編

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式典が終わると多忙を極めるヒースクリフはそのまま馬車に乗りクルザナシュを後にした。

せっかく来たのだからレオンとしてはもっと話したい気持ちがあったし、それはヒースクリフも同じだろうが二人の立場がそれを良しとはしない状況であった。


レオンはライナスとアルナードの二人を連れ、それから護衛のマークも連れて街の中を周る。


彼らにクルザナシュの街を案内するためであった。


視察、というからには街の姿をその目でしっかりと見て判断してもらわなければならない。


ライナスとアルナードは立場や目的は違えど、街の住人達の様子や悪魔の脅威度などを曇りのない眼で見定めるつもりだった。


結果はクルザナシュという街に他の街との大きな違いは見つけられず、二人が想定していたよりも街と悪魔達は思いの外上手くやっていることがわかっただけである。

大きな問題はなく、順調にことは進んでいた。


「ハートフィリア卿、あそこは案内してもらえないのですか?」


街を一通り巡って視察ももう終わるかという頃合いで、立ち止まったライナスが街のある場所を指差して尋ねる。


レオンは表情に出さないように気をつけていたが、内心では「来たか」という思いだった。

別に隠し通そうとしたわけではない。
見られて困ることがあるわけでもない。

ただ、できればそこは案内せずに終わりたかったというのも事実である。


ライナスが指差した場所は街に寄り添うようにそびえる岩山に魔法で人工的に穴を開けた洞窟である。

洞窟の入り口には大きな扉がつけられていて、街の住人達はそこに入ることを遠慮している。


地下水脈にも続くその洞窟は、もう一つさらに奥まで進むことでこの街のもう一つの住人達が住まう場所へと続いている。


そう、悪魔達の住処である。



「いえ、行きましょう」


閉ざされていた扉を開けてレオンは中へライナスとアルナードを誘う。

レオンが二人をここに案内したくなかったのは二人がここにどんな印象を抱くかが未知数だったからである。


悪魔一人でさえ、脅威とされる世の中で魂だけとはいえ地下に悪魔達の住処があると分かれば問答無用で危険な街だと言われるかもしれない。


隠し通すこともできただろう。
魔法を使えば洞窟の隠蔽は容易い。

それをしなかったのは悪魔達の存在を隠すことに繋がるからである。

もしも洞窟の存在がバレなくてもレオンの中には「悪魔達を隠した」という後ろめたい気持ちが残る。


そんな気持ちを抱えてまで悪魔達の存在を隠すくらいならばいっそのこと全てを曝け出してしまえばいいとレオンは思った。


だから洞窟の入り口を隠すことはしなかった。


しかし、実際にライナス達をこの洞窟の中に入れて、地下への道を歩く間、レオンの心臓は大きく鳴りっぱなしだった。


全てを見せると覚悟を決めてもやはり緊張はするものである。


「ここか……ここが彼らの住まう場所か」


ライナスは口を大きく開けて、息をするのも忘れるほどにその場所に魅入られた。

魔法使いならば誰もが感じるであろう不思議な感覚。

それは陰と陽の魔力二つが折り重なって作られる独特な空気感である。


もともと真っ暗であった洞窟の地下は空に輝く魔法の玉によって照らされて、幻想的な雰囲気を作り出している。


内部には小さな穴がいくつも空いていて、そこを光の球が泳ぐように飛び、出入りしている。


「あの球は?」


ライナスは目の前を飛ぶ光の球に興味を示した。

魔法とも少し違う。まるで意思を持ったような球体がここには無数にある。


「彼らが悪魔達です。今は体を持たず、魂だけでここに暮らしています」


レオンがそう説明するとライナスはさらに驚愕したようである。


光の球の一つがスィーっとレオン達に近づいてきて、レオン達の周りをぐるりと一周飛ぶとまた穴の中へ戻っていく。



「今のは?」


「ははっ……彼らの歓迎の挨拶らしいです。今のはトルネルという男の子で、好奇心が旺盛なんですよ」


魂だけの存在となった光の球の声は人間には聞こえない。

魂通しでのやりとりはできているようだが、悪魔の魂を宿すレオンにもその魂が誰のものであるのか判別するくらいしかできない。


それでも、魂だけの悪魔達はこの地下の街でそれなりに楽しく暮らしていた。

滅びゆく故郷の恐怖から解放されたことが彼らにとっては何よりも嬉しいものだったのだ。
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