没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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魔法学院生徒受入編

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クルザナシュより北西へ数十キロメートル。

そこには荒れた波の海と貧しい村々がいくつか存在している。

クルザナシュほど実りのない大地ではないが、森は痩せそこに棲む動物達も減り、人々はその日その日をなんとかやりくりして生き抜いているような状況である。

領主である貴族は魔法の使えないただの人間で、才覚にも恵まれない男だった。

そのために出世の道などとうの昔に諦めて、この生きづらい地域で細々と暮らしているのだ。


その領主の住む街……正確には街と呼べるほどの規模ではなく、ただの村なのだが、その街から少し離れた森の中に古ぼけた遺跡があった。

太鼓の昔に建てられた大遺跡というわけではなく、少し昔にこの地域を治めていた貴族が住んでいた砦である。

今の領主の何代か前の先祖である。
その先祖の頃はこの地域も今ほど荒れていたわけではなく、それなりの実りのある場所だった。

しかし、時が経つと徐々に採れるものが減っていき地域も領主も困窮し始める。

領主が代替わりしていくにつれて、次第に砦を持て余すよくになった。

砦を管理する使用人も充分に雇えないために随分前に捨てられた場所だった。

今では周囲を森に囲まれて、砦はひび割れが目立ち人が住めるような状態ではなくなった。

しかき、そんな砦に最近になって夜に灯りがつくようになった。山賊である。


まともな暮らしをする人にとっては用のない砦も、山賊達にとっては格好の根城となっていた。


森はその砦の姿を外から隠し、彼らが身を潜めるにはうってつけの場所となった。


今夜もまた、砦の中で火を囲み酒盛りをする山賊達の姿がある。


「ハッハー! 見ろよこれ、売ればかなりの値がつくぜ」


「ばか、魔道具系の盗品は全部シュレンガーさんが管理するんだ。売っちゃだめなんだよ」


山賊達はちょうどその日の昼間に押し入った貴族の館で盗んできた戦利品を並べて盛り上がっている。

人数が多く、手際も良い。
今、エレオノアール中を騒がせている山賊団である。


「今頃アイツら、北方のノクタール辺りを必死に探してるぞ」


「ちげぇねぇ……まさか俺達がこんな離れたところにいるなんて思ってもいねぇだろうな」


酒を飲み、ワイワイと騒ぐ男達。
砦の中の奥の部屋から一人の男が姿を現した。

酒を飲む男達の手が止まる。

さっきまで響いていた笑い声は自然に止まり、シーンとした空気が漂う。

男達は無言で、その登場した人物に注目していた。


「オルカスの馬鹿が捕まったらしい。あの野郎、しょうもねぇ真似してくれるぜ」


男は低い迫力のある声でそういうと、床に置かれていた酒の瓶を無造作に拾い上げて豪快に口をつける。


「シ、シュレンガーさん。オルカスみてぇな格下野郎、放っておいてもいいのでは?」


山賊の一人が恐る恐るといった様子で尋ねる。

シュレンガーと呼ばれたこの男、この山賊団の頭領である。

魔法こそ使えないただの平民だが、剣の腕が立ち残虐で狡猾なために部下からも恐れられている。

シュレンガーはあっという間に瓶の中に入った酒を飲み干すと、大きく息を吐いた。

そして、尋ねた山賊の一人の方を見る。

睨みを効かせだわけでもないのに、山賊の男は萎縮して身をすくめた。


「格下野郎か……フッ、確かにな……だが、アイツの持っていたアレが王国の連中の手に渡ると少々めんどくせぇ」


シュレンガーはダンッと大きな音を立てて空になった瓶を置く。

その大きな音に山賊達はさらに身をすくめた。


「まったく、クルザナシュの新領主様か……やっかいなことしてくれるぜ」


「頭領、取り返しに行くんで?」


物おじせずに質問したのはこの山賊団の古株の一人であるサモンという男だった。

山賊団のメンバーを二つに分けるとするならば、古株の男達を幹部、そしてまだ入ったばかりの荒くれ者達が手下である。

手下達はまだシュレンガーに怯えているが、古株の幹部達はそれぞれ修羅場を潜って来た猛者達ばかり、シュレンガーを尊敬こそすれ、怯えるようなことはない。


「ああ、そうだな。取り返さなきゃならん。だが、今じゃない。少し様子を見て、機を待つ」


シュレンガーはそう言うと、近くにいた手下の持っていた酒を奪い取り再び豪快に煽るのだった。


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