没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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課外授業編

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ロドリクのため息は無意識に、そして自然に何度も繰り返された。

理由はどうであれ、そして彼の性格がどうであれ「溜め込む」という行動は万人にとって良い影響を与えづらい。

それはロドリクにとっても同じことであり、彼の集中力や反応速度を低下させてしまっていた。


ロドリク達の班はクルザナシュの西方の山を左回りで登っている。

引率についたルイズ(ロドリクの最初の印象は綺麗だが気の強そうな女性教師だった)の指示の元、鉱物を探知する魔法を使うのは班員のうちの一人だけ。


「いい? 簡単な魔法でも使い続ければ魔力切れを起こすこともあるから、皆で順番に使いましょう」


というルイズの説明に学生たち素直に従った。

安全のために一列で進む一行。最後尾にはルイズがついていて何かあればすぐにサポートできるように魔法を準備している。


ロドリクは五人の中で丁度真ん中だった。


ロドリクは再び漏れ出たため息を何とか噛み殺しながら先頭を歩く少年を見る。


マルクス・ハートフィリア。
学院生活が始まってからのロドリクのストレスの元凶ともいえる少年の姿がそこにあった。


幸か不幸か、それともマルクスと仲良くしなさいという父親が裏から手でも回したのか、ロドリクはマルクスと同じ班になってしまったのである。


「マルクス、そろそろもう一度魔法を使ってみてもいいんじゃない?」


「ダメだよミア。先生が言ってたろ? 魔力切れを起こさないように間隔を空けなくちゃ。さっき魔法を使ってからまだ三分しか経ってないよ」


先頭を歩くマルクスとその一つ後ろを歩く少女、ミアがそんな会話をしているのがロドリクにも聞こえた。


ロドリクは心の中で何度目かの舌打ちをする。

鉱物探知の魔法なんて使用する魔力の量はごく僅かだ。

よぼどのことがない限り魔力切れを起こすなんて考えられない。


「この良い子ちゃんはまた律儀に優等生ぶっているんだ」


ロドリクの心の声である。

学院に入学してまだ一ヶ月と少しが過ぎただけではあるが、クラスは同じ。

ようく観察していれば大抵の相手の人となりくらいはわかるようになってくる。


マルクスはずっとこの調子なのだ。
教員の言ったことは何一つとして破ったことはないし、誰かと喧嘩をしているところも見たことがない。

優秀な兄のことを鼻に掛けている様子もなく、授業にも真面目に取り組んでいる。

恐らく、マルクスの姿を見たほとんどの人間が彼に好印象を抱くのであろう。


しかしロドリクは違った。
決してマルクスのことが嫌いなわけではなかったが、彼が何かをするたびにそれに難癖をつけてしまうのである。


そうして、後でマルクスのことを悪く思ってしまったことを反省して、自己嫌悪に陥る。


全ては入学前に父親から言われた言葉のせいであった。

ロドリクの中に芽生えた妙な先入観がマルクスのやることなすこと全てにケチをつけたがるのである。


ロドリクは負の感情に囚われて、呆然としていた。

だから、先頭のマルクスが立ち止まっていることに気が付かなかった。


立ち止まるとマルクスとその後ろのミア。
それに気づかないロドリクは当然そのまま進み続けて、ミアにぶつかりそうになった。


ドンッという激しい衝撃がロドリクを襲った。
ロドリクは倒れて、岩に軽く背中をぶつける。

マルクスに突き飛ばされたのだとロドリクが気づいたのは完全に倒れた後だった。


「何をするんだ!」


ロドリクは思わず声を荒げた。
心の中で悪く思っていたことは否めないが、それを口に出していない以上咎められる理由にはならない。

急に突き飛ばされたのだから怒って当然である。


興奮するロドリクとは対照的にマルクスは冷静だった。


「ごめん……でも……こうしないと、こいつが」


マルクスはそう言ってロドリクの前に捕まえた生物を見せる。


岩毒グモであった。
岩の隙間に巣を作り、自慢の毒牙で時には馬でさえ殺してしまうという生物だ。


噛まれればその箇所は腫れ上がり、酷い高熱にうなされて三日と持たずに死に至ると言われるほど強い毒を持った生物である。


岩毒グモに噛まれないように器用に捕まえたマルクスはそれを岩の裏にそっと逃す。

マルクスがロドリクを突き飛ばしたのはちょうどロドリクの真上に岩毒グモがいたからであった。

岩毒グモはロドリクの真上にあった岩場から糸を垂らし、ロドリクの頭のすぐ近くまで迫っていたのである。


「逃していいの? また噛まれない?」


心配そうに言うミアにマルクスは笑いかける。


「大丈夫だよ。岩毒グモは本来、巣を壊した相手しか襲わないんだ。きっと何かに巣を壊されて怒ってたんだね。そこに偶然僕たちが通っちゃったみたいだ」


岩毒グモが毒牙を振るのは自衛の為である。
逃した毒グモは再びどこかに巣を作るのだろうが、この岩山の中で人が通れるところに巣を作るとは考えづらい。


マルクスは無益な殺生はしたくないとクモを逃したのである。
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