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課外授業編
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しおりを挟むルイズを先頭に変えた一行はルイズが魔法で作り出した魔法の光を頼りに洞窟内部を進んでいた。
それまでの間に既にオルガナイトの鉱脈はいくつか見つけていたが、それでもルイズは引き返そうとはしなかった。
洞窟内に入ってからの行動は全てルイズの指示であり、生徒達はついていくしかない。
「先生、まだ進むんですか?」
いつのまにか他の生徒達を飛び越えて一番前までやってきたミアがルイズに尋ねる。
ルイズは放っておくと自分まで飛び越えて行ってしまいそうなくらい好奇心が旺盛なミアの頭を撫でて笑いかける。
「そうね。私の考えが正しければ、もうすぐこの洞窟の謎がわかるから」
意味深に笑うルイズにミアは何のことかわからないといった風な表情を見せる。
一行はさらに奥へと進んでいく。
洞窟内は狭くなったり、広くなったり。
時には天井が低くなっていて、時には高くなっていることもあった。
どれだけ進んでも行き止まりになることはなく、たまに道が分かれていることもあった。
不思議なのはルイズがまるで道を知っているかのように進んでいくことだった。
分かれ道で少し立ち止まり、時折何か悩むような素振りを見せながらもすぐに進む方向を決めて歩いていく。
そうしてルイズが選んだ道は決して途切れることはなく、奥に続いているのだった。
ミアを含め、学生達に不安の色は見られなかった。
教員であるルイズが自信満々で進んでいくからというのもあるが、その洞窟内には不思議と不気味さがなかったのだ。
身の危険が迫るような緊迫感も予感も誰一人として抱えてはいなかった。
ただ、それも洞窟の奥の方へ進むまでである。
洞窟に入ってから何分が経過したのか。
正確な時間は誰にもわからないが、少なくない時間が経った頃である。
不意にルイズが立ち止まった。
その理由はルイズの後ろを歩く生徒達にもすぐにわかった。
音がするのだ。
洞窟の先で何かが動く音がする。
それは足音のようで、しかも一つではなかった。
生徒達の間に緊張が走る。
ただ一人、ルイズだけは余裕の笑みを浮かべていた。
「皆、ちょっと下がってて」
と、ルイズは生徒達を一歩下がらせる。
そして、片手で小さな魔法を構築する。
水の攻撃魔法だった。
その様子を見て生徒達はさらに息を呑む。
得体の知れない何かに引率の教員が攻撃を仕掛けようとしているのだから当然だろう。
ルイズは洞窟に入る前に「人間がいる」と言った。
それは山賊か、あるいは他の何かか。
ルイズが放った水の魔法は無数のナイフのようになって洞窟の奥へと飛んでいった。
悲鳴がいくつか聞こえる。
魔法を弾くような音が洞窟内に響いた。
足音は急に大きくなり、そして早くなった。
走っているのだ。
暗闇の中、何者かがこちらに向かって来ている。
そして、ルイズの出した魔法の光が現れたその人物を照らす。
「ルイズさん! 悪ふざけはやめてください!」
それは、エイデンであった。
「お兄ちゃん!」
と、突然洞窟の奥から現れたエイデンを見てミアが驚きの声を上げる。
ルイズは「フフッ」といたずらっ子のように笑うと先程使ったのと同じ水の攻撃魔法をもう一度出してみせた。
ルイズの右手から飛び出した水のナイフは、左手にぶつかるとまるで何事もなかったかのように弾けて消える。
「ほら、当たっても害はないわよ。あなたがちゃんと気を抜かないで生徒の引率をしているかどうか試してあげたんでしょ」
ルイズの言葉にエイデンはあからさまに呆れたようなため息を吐く。
「……僕だけならまだしも、生徒が怯えるでしょ! まったく……」
エイデンは口ではそう文句を言っていたが、実際のところはルイズには頭が上がらないのだ。
学院時代、エイデンが入学した年にルイズは三年生であった。
同じ北国の出身の二人は同じ寮で一年間過ごしたことになる。
その頃ルイズは寮の監督官で、エイデンはことあるごとにお世話になったのだ。
だからこそ、会うたびにエイデンの力を試すこのルイズの「遊び」は続いていた。
エイデンはルイズの放った水の魔法をしっかりと防御魔法で防いでいたが、エイデンが引率していた生徒達はさぞや驚いたことだろう。
それでさえもルイズはいい経験になると思っていた。
「魔法使いたるものどんな時も気を抜かないように」
と。
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