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月夜の夜明け編
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エレオノアールという名前の国ができる前、ヒースクリフの父アドルフが国を納めていた時代の話である。
西地方の小さな漁村に一人の男の子が生まれた。
名前をシュレンガーといい、貧しい平民の家庭に生まれた子供だった。
シュレンガーは生まれてすぐに船の事故で父親を亡くし、物心ついてからはずっと母親と二人で暮らしていた。
母親は綺麗と評判で、とても優しく愛情のあふれる女性であったが稼ぎ頭の父親がいない二人の家庭は他の家と比べても十分に貧しかった。
母親は昼夜問わずに働き詰めで、女で一人シュレンガーを育てた。
しかし、女性が一人で寝る間も惜しんで働くには小さな漁村でできる仕事は過酷すぎた。
シュレンガーが十の歳になる頃に、母親は病気になった。
過労で体力の弱ったところに、流行病を貰ってしまったのだ。
医者に見せる金も、薬を買う金もなかった。
流行病に怯えた村人達は冷たく、子供のシュレンガーではなす術もなかった。
家に篭り、母親の看病をする毎日である。
「ごめんね、シュレンガー。もっとを楽をさせてあげられなくて」
熱に浮かされながら母親は何度もそう呟いた。
その度にシュレンガーは母親の額の手拭いを取り替えて、
「大丈夫だよお母ちゃん。どうか死なないで」
と祈るように手を握ったのである。
ある冬の晩、シュレンガーの小さな家の扉をノックする音がした。
三日月の綺麗な夜であった。
シュレンガーが扉を開けるとそこには村の男が立っていた。
ハンクという名前の漁師で、流行病を恐れてシュレンガー達に近づこうとしない村人達の中で唯一、二人を気にかけてくれていた男だった。
「シュレンガー、聞いてくれ。村長の村に王都から魔法使いが来てるらしい。俺も金は大してねぇが、一緒に行ってお母さんの薬を貰えないか頼んでみよう」
ハンクのその言葉にシュレンガーは喜んだ。
村は小さく、魔法使いは一人も住んでいない。
旅人が来ることすら珍しい。
そんな村にこんなタイミングで魔法使いが訪れるなんて、運命だと思った。
シュレンガーとハンクは村長の家の扉を叩く。
中から出てきた村長が二人を見てギョッとした顔をしたのは、扉の前に立っていたのが流行病の母親を持つシュレンガーだったからだろう。
「なんだお前達! 今は忙しいんだ、帰ってくれ」
服の袖で口を覆うように隠して、村長は言った。
「お願いします! 魔法使い様がいらっしゃってると聞きました。どうか、どうか俺のお母ちゃんを助けてください」
泣きながら地面に伏して頼むシュレンガーだったが、村長は取り合おうとしない。
シュレンガーのボロボロの格好を見て、高貴な魔法使いに会わせると心象が良くないと思ったのだ。
「ええい、帰れ帰れ。ファナス様はお前なんぞには会わんわ」
村長にそう言われてもシュレンガーはその場を動こうとはしなかった。
その騒ぎを聞きつけて、家の中から件の魔法使いが現れる。
「どうされました?」
ファナスという名前のその魔法使いは笑顔で扉から顔を出すと頭を下げるシュレンガーとその前に立つ村長を見て大方の事情を察した。
「ほら、頭をあげなさい少年。何か困りごとがあるなら私が聞きましょう」
「ですが」と口を挟もうとする村長をファナスは手で制した。
シュレンガーの肩に手をかけて、立ち上がらせる。
「お母ちゃんが病気なんです……どうか助けてください」
ファナスはシュレンガーの母親は流行病に罹っているとしっても口元を覆うような真似はしなかった。
その代わりににっこりと微笑んで、
「安心しなさい。私はその流行病を食い止めるために王都から来たのだ。もう安心していいよ」
とシュレンガーの瞳から落ちる涙を拭ったのである。
西地方の小さな漁村に一人の男の子が生まれた。
名前をシュレンガーといい、貧しい平民の家庭に生まれた子供だった。
シュレンガーは生まれてすぐに船の事故で父親を亡くし、物心ついてからはずっと母親と二人で暮らしていた。
母親は綺麗と評判で、とても優しく愛情のあふれる女性であったが稼ぎ頭の父親がいない二人の家庭は他の家と比べても十分に貧しかった。
母親は昼夜問わずに働き詰めで、女で一人シュレンガーを育てた。
しかし、女性が一人で寝る間も惜しんで働くには小さな漁村でできる仕事は過酷すぎた。
シュレンガーが十の歳になる頃に、母親は病気になった。
過労で体力の弱ったところに、流行病を貰ってしまったのだ。
医者に見せる金も、薬を買う金もなかった。
流行病に怯えた村人達は冷たく、子供のシュレンガーではなす術もなかった。
家に篭り、母親の看病をする毎日である。
「ごめんね、シュレンガー。もっとを楽をさせてあげられなくて」
熱に浮かされながら母親は何度もそう呟いた。
その度にシュレンガーは母親の額の手拭いを取り替えて、
「大丈夫だよお母ちゃん。どうか死なないで」
と祈るように手を握ったのである。
ある冬の晩、シュレンガーの小さな家の扉をノックする音がした。
三日月の綺麗な夜であった。
シュレンガーが扉を開けるとそこには村の男が立っていた。
ハンクという名前の漁師で、流行病を恐れてシュレンガー達に近づこうとしない村人達の中で唯一、二人を気にかけてくれていた男だった。
「シュレンガー、聞いてくれ。村長の村に王都から魔法使いが来てるらしい。俺も金は大してねぇが、一緒に行ってお母さんの薬を貰えないか頼んでみよう」
ハンクのその言葉にシュレンガーは喜んだ。
村は小さく、魔法使いは一人も住んでいない。
旅人が来ることすら珍しい。
そんな村にこんなタイミングで魔法使いが訪れるなんて、運命だと思った。
シュレンガーとハンクは村長の家の扉を叩く。
中から出てきた村長が二人を見てギョッとした顔をしたのは、扉の前に立っていたのが流行病の母親を持つシュレンガーだったからだろう。
「なんだお前達! 今は忙しいんだ、帰ってくれ」
服の袖で口を覆うように隠して、村長は言った。
「お願いします! 魔法使い様がいらっしゃってると聞きました。どうか、どうか俺のお母ちゃんを助けてください」
泣きながら地面に伏して頼むシュレンガーだったが、村長は取り合おうとしない。
シュレンガーのボロボロの格好を見て、高貴な魔法使いに会わせると心象が良くないと思ったのだ。
「ええい、帰れ帰れ。ファナス様はお前なんぞには会わんわ」
村長にそう言われてもシュレンガーはその場を動こうとはしなかった。
その騒ぎを聞きつけて、家の中から件の魔法使いが現れる。
「どうされました?」
ファナスという名前のその魔法使いは笑顔で扉から顔を出すと頭を下げるシュレンガーとその前に立つ村長を見て大方の事情を察した。
「ほら、頭をあげなさい少年。何か困りごとがあるなら私が聞きましょう」
「ですが」と口を挟もうとする村長をファナスは手で制した。
シュレンガーの肩に手をかけて、立ち上がらせる。
「お母ちゃんが病気なんです……どうか助けてください」
ファナスはシュレンガーの母親は流行病に罹っているとしっても口元を覆うような真似はしなかった。
その代わりににっこりと微笑んで、
「安心しなさい。私はその流行病を食い止めるために王都から来たのだ。もう安心していいよ」
とシュレンガーの瞳から落ちる涙を拭ったのである。
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