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月夜の夜明け編
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しおりを挟む数年かけて二人は各地の村を周り、被害にあった村を見つけてはファナスの隠し持っていたお金を分けて与えた。
それだけではなく、貧しい村を見つけてはそこを助けるかのようにお金を置いていくようになったのである。
それはシュレンガーの罪滅ぼしだったのかもしれない。
悪人とはいえ、人を殺めてしまった罪。
それを洗い流さんとしているのか。
はたまた、自分と同じ境遇のように見えた村の子供達を見過ごせなかっただけか。
そんな風に村を回っていれば馬車一台程度に積める金貨はすぐに無くなってしまう。
それでもシュレンガーは村への施しをやめなかった。
無くなったお金を調達するようになったのだ。
狙うのはもっぱら貴族の家だった。
それも、悪政を働いて平民を苦しめる者たちだ。
夜な夜な忍び込んでは金品を盗んで逃走する。
盗んだお金は他所の貧しい村に配って回る。
いつしかシュレンガーは罪人でありながら英雄のように噂されるようになった。
施しを受けた平民達が流したものである。
世界中の貴族が腹を立て、シュレンガーを捕らえようとしたがシュレンガーは捕まらなかった。
次第にその周りには志を同じくした者達が集うようになり、気付けば一つの盗賊団ができあがっていたのである。
ある日のこと。
シュレンガーはとある街を訪れていた。
そこは、以前足を運んだことのある街だった。
例の魔道具を怪しい男から買った街である。
そして、シュレンガーはその怪しい男を見つけた。
街の端の廃れた一角。
日差しの届かない暗い路地裏に男はいた。
「おや、旦那。なんだか見覚えがありますね」
男はシュレンガーのことを覚えていた。
シュレンガーはその男の前に大金の入った袋を置く。
にやにやと意味深な笑みを浮かべながら男は聞く。
「いったい私になにをさせたいんで?」
その答えは簡単だった。
シュレンガーは魔道具を必要としていたのである。
盗みを働くうちに仲間が増えた。
ユルミルと二人だけならば追ってからもなんとか逃げられたが、これからはそうはいかない。
そのうち仲間が一人ずつ捕まり始めるだろう。
それを避けるため、使える物はなんでも使おうと男を訪ねたのだ。
「へっへっへ。旦那、あんたは大分見込みのあるお人だ。アンタなら、あの人もきっと会ってくれるでしょうぜ」
その男はシュレンガーにある人物を紹介した。
その人物はシュレンガーに盗賊を続けるために必要なあらゆる魔道具の提供を約束した。
その代わり、その中でも重要な魔道具をある場所に持ち運んでほしいと伝えてきたのである。
「こいつは一体なんの道具だ。俺に何をさせようとしている」
とシュレンガーはその人物に問う。
しかし、その人物は
「それはあなたには関係のないことです」
と詳しい事情を話そうとはしなかった。
結局、シュレンガーはその申し出を受け入れた。
どちらにせよ、仲間を守るためにはそうするしかなかったからだ。
そして、多くの魔道具と頼まれた特別な魔道具を手に入れたシュレンガーは、その人物に頼まれた通りの場所にそれらを持ち込んだのである。
もともといた街を遠く離れることになるというのにユルミルをはじめ仲間は全員ついてきてくれた。
陸路をしばらく進んで海の近くの港町に行き、そこから船で数ヶ月の旅。
旅の道中に何度も思い返されたのはハンクとの思い出である。
あの時もそうであった、と海を見ながら思うのだ。
まだ子供だった俺をハンクは船に乗せて旅立たせてくれた。
そのおかげで、母の仇を取ることができだのだと。
そして、今の自分を見たら母やハンクはなんと言うだろうとも思う。
決して人に褒められるようなことをしているという自覚はない。
それでも、二人ならば叱らずに見守ってくれているのでないだろうかと思うのだ。
海を越えて、たどり着いた街はシュレンガーのよく知るところだった。
数年ぶりの故郷への帰還である。
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