没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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盗まれた魔道具編

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クルザナシュを飛び出したレオンは岩山の上空から眼前を見下ろしていた。


「ふーむ……」


顎に手を当てて何やら考えているレオンの目に入ったのは岩山に点々と残る魔力の痕跡であった。


それは魔法使いにしか見えない痕跡ではあるが、魔法使いであれば誰もが「意図して残していった」ことがわかるようなものだった。

言うなればくっきりと残った魔法の足跡である。


「マークかな? 僕が来るとわかってたみたいだ。何にしてもありがたい」


レオンはその痕跡を見てクスッと笑う。

街の住人達に励まされ、領主としての仕事を放棄してまで盗賊達を追いかけようとしたはいいものの、どうやって追いかけようか悩んでいたところだった。


魔道具を使う盗賊達は自分たちに魔力があるわけではないので痕跡は残さない。

マークの魔力を追おうにも、すでに距離が離れすぎていた。

シュドラの能力である転移魔法は行き先が明確にわからなければ使えない。


マークが痕跡を残していなければ、レオンは手当たり次第に飛び回ることになっていただろう。


「さて、早く行かないとマーク達が終わらせちゃうかもしれないし、急がないと」


レオンはそんな風に独り言を呟くと、「飛行」の根幹である背中に生えた黒い羽根に魔力を集めた。


それと同時に、両足にも意識を集中させる。

転移は行き先がわからなければ直接飛ぶことはできない。

「飛行」は魔法使いの優秀な移動手段ではあるが、今はもっと速度が欲しかった。


そこでレオンは新しい魔法に挑戦したのである。

新しい魔法と言ってもそう難しくはない。
「飛行」と「爆裂」という既にある魔法を掛け合わせるだけだ。


まず、羽根を生やしたまま、空を駆けるかのように一歩目を踏み出す。

そして、その踏み出した足の先に「爆裂」の魔法を展開するのだ。

この「爆裂」はその名前の通り爆発を生み出す魔法であり、その威力や大きさは使用者の集中力とイメージによって調整ができる。

レオンは最小の威力に調整した「爆裂」を足元に生み出すことで、その爆風を利用した一瞬の加速を身につけたのである。

後は、加速した体の流れに逆らわず二歩目、三歩目と足を踏み出し、そこにさらに「爆裂」を重ねるだけで、空を物凄いスピードで走ることができるのである。

この魔法の特徴として、人間の使う体を浮かすだけの「飛行」よりも悪魔の使う背中に羽根を生やす「飛行」の方が向いているという点がある。

人間界で広まった「飛行」の魔法は、「体を浮かせる」、「直進する」、「曲がる」といったように体に対して魔法をいくつも連続で重ね掛けする必要がある。

この動作の中に「爆裂」の魔法を合わせようとすると「飛行」の動作のどこかと「爆裂」の魔法が合わさることになり、魔法の同時発動という高度な技術が必要になるのだ。


それに対して悪魔達の使う「飛行」は「空を飛べる羽根を生やす」というイメージが元になっている。

羽根は本来人間には存在しない器官であるが、鳥や虫が羽ばたく様に筋肉を働かせて動かすことができる。

それがたとえ目に見えない筋肉だとしても、慣れれば自由自在な「飛行」が可能になるのだ。


そのため、「爆裂」魔法を組み合わせても負担が少なく住むのである。


この魔法に名前をつけるとするなら「空駆け」だろうか。

レオンはそんなことを思いながら空を走る。


「爆裂」を使用するたびにレオンの視界がグンッと近づき、加速を実感する。

わざわざ足を踏み出して走っている様に見せているのは「爆裂」を発動させるタイミングを図る為だったが、慣れればその必要はなさそうだった。

気をつけなければいけないのは「爆裂」の方向である。

レオンは自らの足を守るために、「爆裂」の衝撃だけを下に向けて爆風は乗りかかる様に調整していた。

しかし、焦ると衝撃を下方向にだけ向けるのを忘れてしまいそうになるのだ。


「戦闘ではまだ使えないな……」


この高速移動は戦闘においても大きな力を発揮しそうだが、それにはまだ慣れが足りないとレオンは判断した。
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