没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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消えた盗賊達編

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攻撃を受け流されたダルブは自身の突進の勢いをそのままに再び地面に激突する。

大きな土煙と共にズバザザとものすごい音を立ててダルブの体が土に減り込んでいく。

人間の体を依代にしているとはいえ、ダルブは魔法で肉体を強化して戦う悪魔だ。

防御力も高くなっているため見た目の派手さほど大きなダメージは受けていないだろう。


謎の人物の視線が地面のダルブに向いたのを隙と捉えたのか、すかさずマークが切り掛かる。

謎の人物はすかさず手を前にかざし剣を防いだ。


「弾いた?」


地面からその様子を見ていたレオンにはマークの剣が謎の人物に触れる前に押し返されたように見えた。

ルイズは謎の人物の背後を取り、氷の槍の魔法を四方から叩き込む。

しかし、謎の人物は両手を広げてそれを防いでしまう。


「なんだろう、どうやったんだ今の」


レオンの目にはルイズの作り出した氷の魔法が一瞬で消えてしまったように見えた。

謎の人物の魔法だとしても他者の魔法を消す魔法は確かに存在するが、レオンの知るどの魔法とも様子が違った。

魔法を打ち消すというよりも元から魔法など存在していなかったかのように一瞬で魔法が消えたのだ。


「どけどけぇ!! アタシの出番だ!!」


ここぞとばかりに大声を張り上げて、中を浮かぶ謎の人物のさらに上空から魔法を展開しているのは悪魔のア・ドリスである。

両手を空に構え、展開したのは「隕石」の魔法。

燃え盛る巨大な岩がドリスの頭上に出現する。

その規模は以前に悪魔達が王都を襲った際、ドリスがオードとの戦いで見せたものを優に超えていた。


ドリスと謎の人物の位置関係、さらにその直線上の地面に立つレオン。

ドリスの魔法の規模を見てレオンは下手をすれば自分にも被害が出ると防御魔法の準備をした。

しかし、レオンが魔法を構築するよりも先に謎の人物が動き出す。

右手の親指と人差し指をドリスの魔法に向けて一呼吸の後に指を打ち鳴らす。


「デルエテ」


空に浮かぶ謎の人物が確かにそう言ったのをレオンは聞いた。
それと同時にドリスの作り出した「隕石」の魔法が姿を消す。


「なんだ? アタシの魔法は!?」

突然のことに術者であるドリスでさえも状況を把握できていなかった。

レオンは先ほどのルイズの魔法が消えたように見えたのは見間違いでは無かったと確信する。

今、謎の人物は明確に自分の意思でドリスの魔法を消して見せたのだ。

敵の新手は他者の魔法を簡単に打ち消すことができるほどの実力者ということになる。


レオンは「飛行」で飛び上がる。

テトを呼び出し、剣に姿を変えさせてその剣で謎の人物に切り掛かる。

二本の影の剣を謎の人物は正面から受け止めた。

躊躇なく刃を両手で片方ずつ掴んだのだ。

レオンは力を込めて押し勝とうとしたが、謎の人物はびくともしない。


「白き子……悪魔の申し子」


謎の人物が呟く。
それがレオンのことを指す言葉であるのは明白だ。

レオンは距離を取るために一度謎の人物の腹部に蹴りを入れようとした。

剣を離してもらわなければ距離を取ることもできない。

しかし、レオンが蹴りを入れる前に謎の人物はレオンの剣から手を離した。

不意をつかれつつ、レオンはすかさず後ろに飛んで距離を取る。

そのレオンを援護しようとマークとルイズも謎の人物を取り囲んだ。


「あなたは誰だ。何が目的ですか」


レオンは問う。
謎の人物は


「問答は不要」

と短く答えた。
それから、もう一度指を鳴らす。


「テレポルト」

謎の人物がそう唱え、レオン達は身構える。
得体の知れない攻撃に備えたのだ。

しかし、今度消えたのは誰かの魔法ではなかった。

謎の人物そのものである。

まるで最初から人などいなかったかのように姿が消えたのだ。

気配すらない。

「今のは転移魔法?」

その様子にレオンは驚く。
レオンの使うシュドラの転移魔法とは様子が違う。

いや、そもそも本当に魔法なのかどうかも定かでは無かった。

魔法使いが魔法を使う時、魔力を練り上げる必要性から必ず魔力のゆらめきを感じ取ることができる。

しかし、謎の人物の行動の全てにおいてその魔力のゆらめきがなかったのである。


「まさか……」


レオンとは違う意味で何か不可解なものを感じたマークが崩れた古城の中へ飛んでいく。

そして空のレオンに向かって


「いねぇ!!」

と叫んだのだ。


「捕まえた盗賊達が一人も残らず居なくなってる!」


その言葉を受けてレオンは地面に視線を動かした。

戦って捕えた敵のリーダー、シュレンガーの姿がない。

謎の人物はレオン達に取り囲まれながら、一瞬にして十数人という盗賊達を全て連れてレオン達の前から姿を消したのである。
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