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出国準備編
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しおりを挟むクルザナシュのハートフィリア邸の地下室にはレオンしか入ることのできない部屋があった。
今までは屋敷自体にレオンしか住んでいなかったし、街の住人達が勝手に入ることなどあり得なかったので特に決まりなどはなかったのだが、イリファを雇った時にレオンが「自分がいる時以外は立ち入らないこと」と決めたのである。
見られて困るものを隠しているわけではなく、立ち入りを禁じたのは一重に安全のためだった。
地下室に置かれているのはレオンが作成中、もしくは研究中の魔道具ばかりだからである。
製品として世に出た多くの魔道具と違い、それらは構造が未熟で衝撃によって中に込められた魔力が漏れ出す可能性もあり、取り扱いには注意が必要だった。
爆発を起こすほどの威力はないが、仮にイリファが一人の時にその魔道具を落としでもしたら怪我をしてしまう恐れがある。
それでレオンはこの部屋への一人での立ち入りを禁じたのだ。
レオンはその地下室の中に入ると黒い鍵のかかった箱の中から一つの魔道具を取り出した。
先日襲撃された盗賊団の狩猟らしき男が持っていた魔道具である。
「魔銃」と呼ばれる代物で、筒状の先端から魔力の弾を飛ばす非常に珍しい魔道具である。
謎の人物の出現によって盗賊団には逃げられたが、彼らの持っていた魔道具の類は全て回収した。
その多くは王都で魔法研究者達が調べ上げているが、この魔銃に関してだけはレオン自らが調べたいと国王ヒースクリフに名乗り出て許可をもらった物である。
最近のレオンは暇な時間を見つけては地下室に篭り、この魔銃を調べているのだった。
いつものように魔銃を分解し始めて、その中にある核を眺める。
核は大抵の魔道具に必ず存在する魔道具の根幹となる部分で、ここに魔力を貯めることができるから、魔道具は機能するのである。
魔道具の大きさによって使われる核の大きさも変わるが、魔銃の核はさほど大きくない。
形も一般的に流通しているものと同じものに見えた。
「でも、それだとあの魔力量に説明がつかないんだよな」
ぶつぶつと独り言を言うレオン。
気になっているのは魔銃の使用時間の長さだった。
盗賊団の首領らしき男はこの魔銃をレオンに向けて連発していた。
首領が魔法使いならばなんの疑問もないのだが、彼は人間だった。
魔銃の核の大きさでは弾は撃てて四、五発程度だろうとレオンの分析では結果が出ているのだ。
「やっぱり、これに何か秘密があるんだろうな」
と言ってレオンが拾い上げたのは黒く尖った小さな爪のような物だった。
大きさは違うが、それと同じ物をレオンは以前に見たことがある。
魔法学院に挨拶しに行った時に学院長に見せられた「魔物の残した素材」というやつだ。
ア・シュドラ達がかつて生み出した黒い羽の生えた化け物たち。その彼らが残していった一部の素材が裏で高値で取引されていると学院長は言っていた。
その魔物の素材と見られる一部が魔銃の内部からも出てきたのである。
「見たところ動物の爪のようにしか見えないけど……」
レオンはその爪を机の上で転がす。
物質の内部構造を読み解く魔法をかけてみても特別変わったところは見当たらなかった。
しかし、王都で調べられた魔道具の中にもこの爪が入っていたという情報がレオンの耳にも届いており、特異な魔道具の原因はこの爪にあるのではないかと思えてならないのだ。
「魔法で生み出された生物の素材……うーん、魔法に関するなんらかの効果があるんだとは思うけど」
自分からこの魔道具を調べたいと言い出しておいてなんだったが、レオンは正直手詰まりを感じていた。
というのも、この爪のようなものが貴重すぎて中々手が出しづらいのである。
王都の研究者たちも一度壊して中を見ようとしたらしいが、爪はとても頑丈なものらしくどんな魔法でも破壊できなかったという。
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