184 / 234
出国準備編
427
しおりを挟むレオンは手のひらに乗せた爪を睨みつけて
「ふーむ」
と唸る。
悪魔の生み出した生物の素材なのだから当の悪魔たちに尋ねてみればいい。
当然レオンはそうした。
しかし、ディーレインは元々が人間だったために詳しく知らず、他のどの悪魔に聞いても答えは「よくわからない」という曖昧なものだった。
「使い魔ならばお前も生み出しただろう。どのように生み出して、なぜ命を持ったように振る舞うのか説明できるか?」
逆にそう尋ねたのはア・シュドラである。
言われてみてレオンはハッと気づく。
レオンの影の中に潜み、時折手助けをしてくれる黒猫テトはレオンが生み出した使い魔である。
エレノアが作り出したモゾを真似て生み出したことは確かに覚えているが、「どうやって、どういう原理で」と聞かれればその答えは「わからない」としか言いようがなかった。
「魔法で生み出した」以外には答えようもない。
仮にテトが誰かに倒されてしまったとして、その後には同じように何かしらの素材が残るのだろうか。
そもそも、テトはどういう仕組みで動いているのかすらレオンには説明ができなかった。
「自分の使った魔法なのに、自分で説明もできないなんて……あまりにも無責任じゃないか?」
レオンは自分の影の中にいるテトのことを呼ぶ。
「にゃあ」
と一声鳴いて、テトがレオンの足に頬を寄せる。
その頭を撫でながらレオンは他のことを考えていた。
自分は魔法についてもっとよく知らなければならないのではないか、と。
「レオン様、ご夕食の用意ができました」
突然声をかけられてレオンは驚く。
振り返ると、地下室の入り口の前でイリファが頭を下げていた。
「いつのまに後ろに……というよりも帰ってきたことにも気が付かなかった」とレオンは自分が思っていた以上に魔道具に没頭してしまっていたことに気が付く。
「レオン様。猫を飼っていらしたのですか?」
イリファがレオンの足元に擦り寄るテトを見て言った。
無表情だが、わずかに口角が上がっている。
特に隠すつもりもなかったため、レオンはその猫、テトが魔法で作られた存在なのだと説明した。
「魔法……この子が……」
イリファは意外そうに呟きながらテトの前足を持ち上げて遊んでいる。
テトも嫌がる様子はなく、ごろんと寝転がったり、イリファに甘えるような仕草を見せた。
「本当の猫のように動くのですね」
イリファは「ふふっ」と笑う。
付き合いの浅いレオンにも彼女が猫を愛でていることがわかった。
「魔法を見るのは初めて?」
ここが関係を深めるチャンスかと思い、レオンは質問してみる。
イリファは「なぜそんなことを聞くのか?」と少し不思議そうな顔をしたが、それでも不快に思ったわけではなかった。
「はい……私の家は元貴族家ですが、父も母も魔法は使えません。私にもその才能はありませんでしたので」
イリファがそう答えてからレオンは自分の言動を少し反省した。
レオンにとっては何気ない質問のつもりだったが、考えてみれば没落した貴族の娘にその手の話題は無遠慮だったかとと思ったのだ。
レオンが何をどう言おうかと迷っていると、今度はイリファの方からレオンに問いかける。
「レオン様は幼い頃から魔法が使えたのですよね? やはり、貴族に戻ることを目標にしていたのですか?」
「え? ……うーん、どうだろう。僕の場合は『貴族に戻りたい』というよりも、『育ててくれた両親に楽をさせてあげたい』っていう方が強かったからな。もちろん、両親を貴族家に復帰させられることが一番だとは思ってるけど、その両親には一緒に住むことを断られてしまったしね」
レオンが「ははは……」と苦笑いしながらそう言うとイリファは「そうですか」と一言言って、会話は終了してしまった。
32
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。