没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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シミエールはレオン達と同じ席に腰を下ろすと追加でお茶と茶菓子を運んできたイリファに軽く礼を言ってからティーカップに口をつけた。

「うん、美味い。南部の茶葉だね。淹れ方も上手だ」

服装や口調からは決して王族らしさを感じられない彼だが、その仕草にはやはりどことなく気品があった。

「君達、全員船旅は初めてだろう? 今のうちに十分に楽しんでおくといい。どうせすぐに楽しめなくなるから」


含みのある笑いでそう言うとシミエールは席をたった。

あっという間にお茶もお菓子も無くなっている。


「さて、僕は部屋で少し休むからね。どうせしばらくは海の上だ。堅苦しい関係よりも砕けた方が過ごしやすい。夜にまた夕食にでも誘わせてくれ」


そう言い残してシミエールはその場を後にする。

レオン達は「どうせすぐに楽しめなくなる」というシミエールの言葉に疑問を感じながらもその後ろ姿を見送った。

その言葉の意味をレオン達が理解したのはシミエールがその場を去ってから数時間後である。


「ダメだ……もう限界」

とまず最初に倒れたのはマークだった。
しかし、その時にはもうレオンもルイズもマークと同じ気持ちだった。

三人を襲ったのは「飽き」とそして、「船酔い」である。

最初の頃は感動した広大な海の景色も数時間もすれば見慣れた物へと変わってしまう。

どこまでも続く青い水平線を眺めていると少し気が遠くなる思いだった。

さらには、横波が船を揺らす。

大きな船とはいえその揺れは確かに感じられる大きさで、慣れていない三人はすぐに寄ってしまったのだ。

唯一平然としていたのはイリファだけである。


「すごいねイリファ、どうして平気なの?」


込み上げてくる吐き気を堪えながらレオンは尋ねる。


「父が……よく船で街の外の海に連れ出してくれたので。ここまで大きな物ではありませんが」


と答えながらイリファは自分が初めて船に乗った時のことを思い出していた。

海が好きな父親が彼女を連れ出したのだが、やはり初めての時は船酔いをした。

そんな時、父は必ず「メウの実」という小さな酸味のある果実を食べさせてくれた。

船酔いには噛みごたえのあるメウの実がとてもよく効くからと言って。


「さすがにメウの実はありませんね……」


イリファは船に丸ごと積んだ馬車の荷物を思い出して呟く。

レオンに「こんなに必要かな」と言われるくらいには荷物を積んだが、船酔い対策に果実など用意していなかった。


「大丈夫。少し休めばすぐに良くなるよ」


レオンは青白い顔をしたままそう告げると用意されていた船室に帰っていく。


「せっかくの船なんだからイリファも少しは楽しんで。僕達の世話は一先ず休憩していいからね」


去り際にそう言われてイリファは頭を下げる。

残されたイリファは少しだけ頭を抱えた。


「休んでいい」と言われても彼女の性格上、体調の悪い主人を放って楽しむことなどできない。


「調理室に何か良い食べ物があるといいのですが」


そう言うとイリファは船の中の調理室を目指して歩き出した。

甲板から船内に入り調理室へ向かうまでの間、彼女の目に入るのはエレオノアールから出国した際に護衛としてついてきた王都の魔法騎士団の姿である。

他にも「いかにも貴族に仕えています」といった風貌の者達がちらほら見える。

そのほとんどがシミエールの使用人達である。


彼らも船酔いに悩まされているらしく、その表情は一様に暗い。

それでも弱音を吐かずに騎乗に振舞っているのは「仕事だから」であろうか。


イリファはその様子を見ながら「一体なぜこの時期に聖レイテリア神聖国に向かうのか」と考えていた。
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