198 / 234
聖レイテリア神聖国編
441
しおりを挟む翌朝。
叫び声ともとれる大きな声にレオンはハッと目を覚ました。
すぐに窓際に身を寄せて、顔を出しすぎないように注意しながら外の様子を伺う。
何ということはない。レオンが叫び声だと思ったそれは漁に繰り出す漁師達の活気のいい掛け声だった。
早朝から下手をすれば騒音とも取られかねないその声はどうやらこの町では普通のことらしく、怒号を上げながら一つの漁師達の集団が通り過ぎたかと思えば、その後からまた別の集団がやってくる。
とにかく、何か緊急的な事件が起きたのではないとわかりホッと胸を撫で下ろした後でレオンは魔法使い用のローブを見に纏った。
それど同時に部屋の扉がノックされる。
その後で
「レオン様、準備が整いました」
とイリファの声がしたのでレオンは部屋の扉を躊躇せずに開けた。
扉の前に立っていたのはイリファとレオン達が泊まった宿の使用人である。
「準備ができた」というのはどうやら「出立の準備ができた」ということらしく、レオンが二人の後について宿の入り口へ向かうとその前には豪華な馬車が複数台用意されていた。
前の方にある馬車にはシミエールが乗り、後方の馬車にはルイズが、真ん中の馬車にレオンが乗り込む手筈となっている。
その周囲を囲むのは船でエレオノアールから共に連れてきた馬にまたがる魔法騎士団の面々である。
その指揮をとるマークはどことなく緊張感の漂った表情で馬上から支持を飛ばしていた。
「朝から随分と騒がしい町だったが、よく寝れたかな」
不意に声をかけられレオンが振り返るとそこにはシミエールが立っていた。
魔法使いのローブとは違う、豪華な装飾が施されたローブは昨日とは別のものだ。
普段であればシミエールはそういった類の衣服を好まない。
衣服に関して執着がないというのもあり、着ている服が破けていようが気にしないような性格なのだ。
しかし、今回ばかりはそういうわけにもいかない。
エレオノアールからの正式な使者として聖レイテリア神聖国に赴くため、権威を表すといった意味で豪華な装飾の物を着せられているのだ。
それはレオンも同じで、魔法使い用のローブはレオンが普段使いしている物とはずいぶん質が違う。
高級そうな手触りの布地に金の刺繍が施されている特別製だった。
そのどれもがヒースクリフが用意させた物であり、レオンもシミエールもそういった物を半ば強引に、仕方なくといった気持ちで着ているのであった。
「私は快適に眠らせてもらったが、ゆっくりと眠れるのは昨晩が最後かもしれないね。ここから聖レイテリアまでは二、三日の旅路だと聞くし、到着を早めるためにはこの早朝からの出立もやむを得まい」
そう言いながらシミエールは自身の腰に手を当てて後ろに大きく逸らす。
「快適に眠れた」と口では言っているが、旅というのはそれなりに体力を使う物なのだろう。
特にシミエールは中々に年を重ねている。まだ若いレオン達とは勝手が違ったようだ。
「レオン君、腰の痛みを取る魔法はないかね。恥ずかしい話、長年の運動不足が祟ってね。柔らかすぎるベッドだとどうにも腰が痛いのだよ」
シミエールは腰を叩きながら冗談混じりにそう言い、レオンは苦笑した。
「残念ながらシミエール様、僕が知る魔法にそう言ったものはありません。いつか開発できるように精進します」
レオンがそう返すとシミエールはそれを冗談と受け取ったのかそれとも本気にしたのか
「おお、それはいい。それができれば魔法はさらに素晴らしい技術だと世に広められるだろう」
と大袈裟にはしゃいで見せるのだった。
84
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。