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聖レイテリア神聖国編
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しおりを挟むその日の野営地に着くとレオンは早速地面に魔法陣を描き始めた。
杖で地面をなぞっただけの簡素なものだが、レオンが魔力を込めたことでそれは十分な効果を持つ。
「認識の阻害と侵入者の探知、それに警報か。すごいな。簡単にやっているように見えるのにとても高度なものだ。正確性もある」
その様子を見ていたシミエールが驚いた様子でレオンの背中に声をかける。
レオンも驚いた表情を浮かべて振り返る。
「シミエール様、この魔法陣が読めるのですか?」
レオン達が結界や固定型の魔法を発動する時に使用する魔法陣。
それは、魔法使いならば誰もが知っているが逆に魔法使いでなければ知るはずのないものであった。
それは杖から持ち主のイメージを魔力で具現化する一般的な魔法にも言えることだが、魔法使いですら使用するタイミングが限られる魔法陣を使った魔法に詳しい非魔法使いなどほとんどいない。
ましてや、シミエールはレオンがどういう意図で、どういう効果を持つように魔法陣を書いていたのかピタリと当ててみせたのだ。
「言ったろ? 私は魔法に興味を持ったことがきっかけで兄に国外追放されていたんだ。その間に魔法について勉強する時間は十分にあったんだよ。魔法の才能さえあれば……なんて思ったりもしたけどね」
そう言ってからシミエールはレオンの書いた魔法陣の一部を指差す。
「でもここは私の知るものとは少し違うね。北方の辺境国で使われる魔法陣の様式によく似てるけど、それとも少し違う。一体何の魔法だい?」
シミエールが指差したのはレオンが独自に開発した魔法陣であった。
学院で学んだ知識とそれからアルガンドで教わった魔法陣の知識を組み合わせたものだ。
「それは断熱と保温の魔法陣です。陣の中の温度を一定に保ち、風も感じさせません」
レオンがそう言うとシミエールはさらに感心したようで大きく頷いている。
レオンは地面に書いた魔法陣の中に入り、今度は違う魔法陣を描き始める。
それは結界の類とは違うもので、シミエールはそれも興味深そうに見ていた。
「さて、こんなものですね。シミエール様少し離れていてください」
魔法陣を書き終えたレオンがシミエールにそう指示をする。
シミエールは言われた通りに数歩後ろに後ずさった。
それを見てからレオンは魔法陣へと向き直り
「はいっ」
と特に意味のない掛け声とともに両手を叩く。
すると、その魔法陣をなぞるように地面が盛り上がりはじめ、みるみるうちに土の壁が出来上がる。
それは家であった。
土を魔力で固めて作り上げられた壁や天井は確かな強度を持ち、レオンが事前に綿密に計算して中の快適度にも注意を払った魔法だ。
「すごいね。でも、どうして魔法陣を? 君ほどの魔法使いならばこれくらい杖を振るえばすぐだろうに」
シミエールは感心しつつも抱いた疑問を率直に投げかける。
彼のいう通り、この魔法は決して魔法陣を使わなくても実現できるものである。
わざわざ地面に書く手間を考えれば使わないほうが早く済む可能性すらある。
「まぁ、そうですね。ただ、今回は同じような工程で野営が後四回ありますから。毎回同じ使い方が出来るものの方が楽じゃないですか。それに、僕以外がこの役を担うこともあるかもしれませんからね」
この魔法陣を使った魔法はレオンが旅の前に用意してきたものの一つである。
そして、旅の前の想定では同行する国王の近親者……つまり、シミエールがどんな人物なのかわからなかったためにある程度の配慮をしていた。
具体的に言えば「野営などできるか」「豪邸を用意しろ」などと文句を言う傲慢な貴族であった場合に備えていたのだ。
魔法陣は確かに時間がかかるが、一度書き上げて仕舞えば部屋の大きさや壁の質感、中に置く持参した家具類の配置などを決めやすい。
そして、紙に書いておけばその内容を忘れることなく毎回使用でき、他の魔法使いにも共有しやすいというメリットがあったのだ。
結果からしてみればシミエールはそんな文句を言うような人物ではなかったが、野営をする上で快適なのに越したことはないので、予定通り魔法陣を使って家を作ったというわけだった。
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