没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

文字の大きさ
204 / 234
聖レイテリア神聖国編

447

しおりを挟む

「これは?」

ライラが差し出した杖を受け取りつつマークが問う。

ライラはそれに答えるよりも先に、自らの服の襟元に両手を添えて胸元を曝け出した。

突然のことだったが、レオンとマークは反射的に顔を背けようとした。

しかし、それよりも先に彼女の胸に刻まれた見慣れない紋様が目に入った。


「それは……?」

恐らく魔法が関係しているその紋様に思わずレオンが問いかける。

すると、ライラは恥ずかしがることもなく淡々と説明するのだった。


「魔法紋と言います。魔力で対象を縛り、対で作られる特別性の杖にのみ反応する紋様です」


それは、聖レイテリアでは割と一般的な魔法であった。

胸に刻み込まれた魔法の紋様に、ライラが先程手渡した杖から魔力を送ると胸を焦がすような痛みが紋様の持ち主に伝わるのである。

聖レイテリアではこれを犯罪を犯した者や、奴隷に身を落とした者に刻みその行動を制限するのである。

エレオノアールにも奴隷はいる。
似たような魔法も存在していた。

だからこそ、彼女がその杖を渡した意味をマークは即座に理解した。


「どうぞお試しください」


これから起こることに何の感情も持っていないかのように冷たくライラは言った。

普段のマークであればその誘いに乗ることはなかっただろう。

ただ、今の自分の立場を思えばやらざるを得なかった。

なにしろ心優しいレオンにはそんなことはできないだろうし、ルイズにもさせられない。

護衛隊の隊長を任された自分しか適任はいないのだから。

「……」

マークは唾を飲み込み、覚悟を決めて受け取った杖に魔力を込める。

杖にマークの魔力が浸透し、その魔力はライラの胸元の紋様に流れ込む。


「う……ぐっ……がは」


苦しみ出すライラはその場に跪き、地面に頭を擦りつけて悶える。

その様子はさながら誰かに無理やり頭を押さえつけられて平伏させられているようで、見ていて気分のいいものではない。

彼女の胸元から首にかけて青白い血管が浮き上がり、まるで毒が侵攻するのように魔力が彼女を苦しめている。

マークが杖に魔力を込めたのはほんの一瞬である。

それでも、ライラは数秒間苦しみ続けていた。


「ハァ……ハァ……これで、確証は得られましたか」


苦しみ終えたライラは服装を正しながらマークに問う。

マークは少し青ざめた顔をしていたが


「ああ」

と短く彼女の同行を許可したのである。

その一部始終を見ていたレオンとルイズは何よりもマークのことが心配だった。

突然現れたライラという魔法使い。
彼女が自分たちに敵対するものではないという確証を掴むためにマークは進んで犠牲になってくれたのだ。


レオンやルイズが優しすぎて他者を苦しめる魔法を好まないのと同じように、彼もまた類い稀なる優しさを持ち合わせているのだから。

ライラを苦しめた魔法の感触は渡された杖を通してマークの手にしっかりと残っていた。

今まで感じたことがないほどに不快な感触。

恐らく、マークはその感触を忘れることはできないだろう。

そのことがレオンもルイズも心配だったのだ。


ライラは既に先程のことなどなかったかのように淡々と侵入者の男達を縛り上げている。

「あまり時間がありません。追ってはまだいるはずですので、今夜の野営地は変えた方がいいでしょう。近くに人目につかない場所がありますのでご案内します」


ライラにそう言われてレオン達は深く寝入っていたシミエールを起こし、それから魔法騎士団の団員達に一層の警戒をしてもらいながら移動するのだった。
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。