没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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魔法闘技祭編

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「ありえない」

宙に飛ばされながらユーランはそう思った。

「何が起こったのか理解できない」というわけではない。
いや、確かにそれも含む感情ではあったが彼の目は目の前で起こったことを正確に捉えていた。

その上で信じられなかった。

ユーランは気を抜いたつもりも手を抜いたつもりもない。

レオンをドームの中に閉じ込めたからと言って安心したわけでも、「勝った」と慢心したわけでもない。

着実に、確実に勝てる方法を選択していたはずだった。


レオンが魔法でドームを破壊することは予測できていたし、魔法を使った隙を突く三段も用意していた。

彼の卓越した魔法技術を計算に入れ、一度魔法を使ってから再び連続で魔法を使えるようになる時間も考えた上で十分な準備をして待ち構えていたのだ。

それなのに「敗れた」

直前にレオンが「混合魔法」の基礎である「魔法の同時発動」に挑戦しようとしているのはわかった。

しかし、十中八九失敗するだろうと思っていた。

自身の経験から、魔法を同時に発動するのは見た目ほど簡単なことではないと知っていたからだ。

いくら間近で見たとはいえ、一度や二度で習得できる者などどんな天才だろうといないはず。

それなのに、目の前にいる白髪の少年はやって見せた。


「完全に不意を突かれた」

レオンが魔法を使ってから放とうとしていたユーランの魔法はタイミングが早まったことによって逆に彼の隙となった。

レオンはドームを壊すために空に向けて黒い何かの魔法を放った。
それは黒煙となり、ドームの中を覆って姿を眩ませる役目も担っていた。

さらに、同時に発動したとしか思えないタイミングでユーランにも魔法の攻撃が届いた。

「衝撃波」の魔法だ。

不意を突かれてユーランはその衝撃派に杖を飛ばされる。

「魔法で反撃をしなければ」と弾かれた杖に手を伸ばしたが、レオンの魔法は二撃、三撃と重なってユーランを襲った。


体は飛ばされ、呆気なくも舞台の外に落ちてしまう。

負けた悔しさよりも、ユーランはレオンが「魔法の同時発動」に成功したことの方が信じられなかった。


ドームが破壊される直前。黒い何らかの魔法が空に放たれる前にユーランは確かに見た。

レオンの足元。影の中から何かが出てきたのを。


「にゃあ」


放心して舞台の前に倒れるユーランの耳に猫の鳴き声が聞こえる。


「猫? こんなところに?」と不審に思い顔を上げると、黒猫が一匹舞台の上でレオンの足に頬擦りしているのが見えた。

その視線にレオンが気がつく。


「テトって言うんだ。僕の魔法で作られた子なんだけど、僕の意思とは関係なく自分の意思で動いてくれる。僕が魔法を同時に発動できた理由さ」


ドームを壊したのはレオンではなくテトだった。

影の中から現れたテトは自分の体を黒い粒子に変えて魔力の壁を攻撃した。

テトは確かにレオンの魔法ではあるが、その動きをレオンが操作したことはない。

魔法で生み出された存在でありながら、テトは本物の猫のように自分の意思で動くことができる。

それがどういう仕組みかはレオン自身にもわかっていないが、それ故にレオンが魔法を発動していてもテトは自由に動き回ることができた。

レオンが一人で魔法の同時発動をしたというよりも、レオンとテトの二人で同時に魔法を使ったと言った方が正しいだろう。


「なんだそれ……反則だろ」


ユーランは毒気を抜かれたような表情で倒れた。

レオンが何を言っているのか、「テトとは一体何なのか」ユーハンには複雑すぎて理解するのに時間がかかる。

ただ、負けたことだけは確かだとユーランは敗北を受け入れたのだった。


結局、彼も「暗殺者」ではなかった。

戦いの最中、ユーランが土の壁の代わりに魔力の壁を使い「観客にも見えやすいように」と配慮した時からレオンはそのことに気がついていた。

もしも事故に見せかけてレオンを暗殺するのならば「観客に見えやすいように」と配慮しない方が都合がいいだろう。

ここまでの全ての戦いの中に「暗殺者」はいなかった。

残す戦いはあと一つ。
その対戦相手が「暗殺者」である可能性は高い。

レオンはもう一度気を引き締めるのだった。
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