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魔法闘技祭編
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短剣をレオンに向けて突き出すティマ。
その刃が届くことはない。
「何だお前!」
予定を狂わらせれたティマが怒りを含んだ声で叫んだ。
レオンとティマの間に割って入った人物が突き出された短剣の刃を指先で掴み受け止めたのだ。
「君の魔法、これだけの大人数を騙せるだけの精巧さと彼の行動だけをリアルタイムに反映されることで動きを封じるという発想は素晴らしいけど、第三者が介入した場合はどうなるのかな」
介入した人物はティマを刺激するようにそう言った。
「あなたは……」
前に立ったその人物。
後ろから覗き込んだレオンはその横顔に見覚えがあった。
いや、正確には横顔ではなく見覚えがあったのはその仮面だ。
乱入者は白い仮面をつけていたのだ。
その仮面は数日前に町で声をかけてきた魔法使いのものと同じである。
得体の知れない人物だったが、レオンは何となくその人物に見当をつけていた。
それは喋り方や、ことあるごとに見せる相手を揶揄うような態度。
そして予選をあっという間に勝ち上がったという実力からの推測だったが、それなりの自信があった。
唯一の懸念といえば彼の声である。
喋り方こそレオンの思い描く人物とそっくりなのだが、声だけが違う。
変装のためにわざわざ魔法で声まで変えているのかとも考えたがそこまでする理由もわからない。
だから彼をその人だと決めきれずにいたのだが、この窮地に現れたことでレオンは確信した。
「僕たちが心配で来てくれたんですか? 先輩」
その背中にレオンが問いかける。
仮面の男はピクリと反応を示した。
レオンが頭に思い浮かべていた人物とはクエンティンだった。
仮面の男の喋り方や仕草が彼によく似ていたのだ。
レオン達を聖レイテリア神聖国に送り出した内の一人が彼でもあるのだが、心配でこっそりとついてきたのではないかと思った。
仮面の人物がゆっくりとその仮面を取る。
期待に胸を膨らませるレオン。
しかし、
「何勘違いしてるんだ、お前……」
画面の下から現れた素顔はクエンティンのものではなかった。
だが、レオンが全く知らない人物のものでもない。
「そんな……どうして君が? なんでここにいるの?」
その予想外の人物にレオンは珍しく動揺した。
その様子がおかしかったのか仮面の人物はケタケタと笑う。
「お前のそんな姿が見れるなんてな、わざわざ来て良かったぜ。それに、正体を隠すためにした演技のおかげで自分に都合のいい勘違いもしてくれたみたいだしな」
仮面を取った後の彼の口調は先ほどまでのものではなく、レオンのよく知る数年前の彼のもののままだった。
「何で君がここにいるんだ……アイルトン」
レオンが名前を呼ぶ。
ティマとの間に割って入り、レオンの窮地を救った人物とはかつての魔法学院の同級生、アイルトン・ネバードだったのである。
レオンと彼の間には普通の関係とは言えないだけの関わりがあった。
それは友人関係のようなものではない。
レオンの故郷の町の領主、それがアイルトンの父親だった。
没落したレオンの父を馬鹿にしていたネバード卿の影響でアイルトンもまたレオンを馬鹿にしていた。
学院内でも何度も些細ないざこざがあったものだ。
レオンが学園を去ったのち、ネバード卿は領主の立場を追われて国外に追放。
息子のアイルトンも学院に残ることはできずに姿を消したとレオンは聞いていた。
その彼が、どういうわけか今ここにいる。
仮面の男の正体がクエンティンだとばかり思っていたレオンは近づきすぎた距離を飛び退いてあける。
正体がアイルトンなのであれば彼が味方かどうかは分からなくなったからだ。
その様子を見てアイルトンは小さくため息を吐いた。
それからもう一度仮面を被り直し、ティマの方に向き直る。
「まぁ、話はアイツをどうにかしてからだ」
そう言ってアイルトンはローブの裾から杖を取り出したのだった。
その刃が届くことはない。
「何だお前!」
予定を狂わらせれたティマが怒りを含んだ声で叫んだ。
レオンとティマの間に割って入った人物が突き出された短剣の刃を指先で掴み受け止めたのだ。
「君の魔法、これだけの大人数を騙せるだけの精巧さと彼の行動だけをリアルタイムに反映されることで動きを封じるという発想は素晴らしいけど、第三者が介入した場合はどうなるのかな」
介入した人物はティマを刺激するようにそう言った。
「あなたは……」
前に立ったその人物。
後ろから覗き込んだレオンはその横顔に見覚えがあった。
いや、正確には横顔ではなく見覚えがあったのはその仮面だ。
乱入者は白い仮面をつけていたのだ。
その仮面は数日前に町で声をかけてきた魔法使いのものと同じである。
得体の知れない人物だったが、レオンは何となくその人物に見当をつけていた。
それは喋り方や、ことあるごとに見せる相手を揶揄うような態度。
そして予選をあっという間に勝ち上がったという実力からの推測だったが、それなりの自信があった。
唯一の懸念といえば彼の声である。
喋り方こそレオンの思い描く人物とそっくりなのだが、声だけが違う。
変装のためにわざわざ魔法で声まで変えているのかとも考えたがそこまでする理由もわからない。
だから彼をその人だと決めきれずにいたのだが、この窮地に現れたことでレオンは確信した。
「僕たちが心配で来てくれたんですか? 先輩」
その背中にレオンが問いかける。
仮面の男はピクリと反応を示した。
レオンが頭に思い浮かべていた人物とはクエンティンだった。
仮面の男の喋り方や仕草が彼によく似ていたのだ。
レオン達を聖レイテリア神聖国に送り出した内の一人が彼でもあるのだが、心配でこっそりとついてきたのではないかと思った。
仮面の人物がゆっくりとその仮面を取る。
期待に胸を膨らませるレオン。
しかし、
「何勘違いしてるんだ、お前……」
画面の下から現れた素顔はクエンティンのものではなかった。
だが、レオンが全く知らない人物のものでもない。
「そんな……どうして君が? なんでここにいるの?」
その予想外の人物にレオンは珍しく動揺した。
その様子がおかしかったのか仮面の人物はケタケタと笑う。
「お前のそんな姿が見れるなんてな、わざわざ来て良かったぜ。それに、正体を隠すためにした演技のおかげで自分に都合のいい勘違いもしてくれたみたいだしな」
仮面を取った後の彼の口調は先ほどまでのものではなく、レオンのよく知る数年前の彼のもののままだった。
「何で君がここにいるんだ……アイルトン」
レオンが名前を呼ぶ。
ティマとの間に割って入り、レオンの窮地を救った人物とはかつての魔法学院の同級生、アイルトン・ネバードだったのである。
レオンと彼の間には普通の関係とは言えないだけの関わりがあった。
それは友人関係のようなものではない。
レオンの故郷の町の領主、それがアイルトンの父親だった。
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学院内でも何度も些細ないざこざがあったものだ。
レオンが学園を去ったのち、ネバード卿は領主の立場を追われて国外に追放。
息子のアイルトンも学院に残ることはできずに姿を消したとレオンは聞いていた。
その彼が、どういうわけか今ここにいる。
仮面の男の正体がクエンティンだとばかり思っていたレオンは近づきすぎた距離を飛び退いてあける。
正体がアイルトンなのであれば彼が味方かどうかは分からなくなったからだ。
その様子を見てアイルトンは小さくため息を吐いた。
それからもう一度仮面を被り直し、ティマの方に向き直る。
「まぁ、話はアイツをどうにかしてからだ」
そう言ってアイルトンはローブの裾から杖を取り出したのだった。
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