【完結】鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

はづも

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3章 新しい関係

4 押し切る男と、流された妖精姫

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 翌朝も、アーロンはいつもと同じようにマリアベルを迎えにきた。
 婚約の話がマニフィカ家に届いたことは、アーロンも把握しているのだろう。
 馬車に乗りやすいようマリアベルに向かって手を差し出す彼は、どこか緊張した面持ちだった。
 
「……おはよう、ベル」
「……おはようございます。アーロン様」

 マリアベルはマリアベルで、今までのようなにこにこご機嫌ご挨拶ではなく、ちょっと表情がかたくて。
 静かな二人を乗せて、馬車は学院に向かって動き出す。
 マリアベルは、アーロンの意思を確認しなければと思っていた。
 けれど、どう切り出すべきかと悩んでしまい。

――いざ話そうとすると、どうしたらいいのかわからないわ!

 ううーんと考え込む様子の彼女に声をかけたのは、アーロンだった。

「……その様子だと、マニフィカ伯爵から婚約の話を聞いたみたいだね」
「……はい。アークライト家から、婚約の打診がきている。お相手はアーロン様だと」
「そっか。入学直後のパーティーの日、急にきみに婚約を申し込んでしまったあのときは、僕個人の暴走だったけれど……。今度の話は、家を通した正式なものだ。……ベル。受け入れてくれるかな」
「それは、その……」

 心配そうに笑顔を作るアーロンの隣で、マリアベルは俯いてしまう。
 はい、と簡単に返事をすることは、できなかった。
 
「前にもお話しましたが、マニフィカ家は魔力の高い家系ではありません。私と結婚して子を持っても、魔法の才に秀でた子が産まれるとは限らないのです。私が、アークライト家の期待に応えられるかどうかは……」
「ベル。違うよ。たしかにアークライト家は、きみの魔法の腕を……強さを評価している。けれど、魔法の才能に秀でた子が欲しいから、きみに婚約を申し込んでいるわけじゃない」
「ですが、それ以外に、私などとの婚約を希望する理由など……」

 しゅんとしてしまったマリアベル。
 彼女は本当に、アークライト家が……アーロンが、魔力目当てで婚約を希望していると思っているのだ。
 そんな想い人の姿を見て、アーロンはぼそっとこう口にする。

「自己評価が低いのは、過去のせいかな」

 学院に入るまでの彼女は、鮮血の、なんて二つ名をつけられ、令息には逃げられ、暴力女などと噂されていた。
 きっとそのせいで、自分には結婚相手としての価値はないと思い込んでしまっているのだろう。
 彼女が明るく振舞うからわかりにくいだけで、実のところ、マリアベルの自尊心は――自分が誰かに選ばれるかもしれない、という自信は――すっかり削られてしまっていた。
 昨日だって、アーロンは彼女に「大好きだ」と伝えたはずなのに。その言葉は、マリアベルの深いところには、届いていなかったのだ。

 ふむ、とアーロンは思案する。
 アークライト家のほうが格上だから、マリアベルからこの話を断ることはできない。
 だが、断れなかったから仕方なく、とか、自分なんかでいいのかなと怯えさせたまま、結婚したいとは思わない。

――自身の魅力をわかってもらう努力が必要だな。

 アーロンは、そう考えた。

「ベル。きみは、強く優しく美しく、才能に溢れた女性だ。家のこともあって、貴族としての勉強は遅れ気味だったのに、もう色々な分野で成績上位になっていると聞くよ。そんな頑張り屋なところも、領民に慕われる人柄も、だんだんと学院のみんなにも理解されてきている。きみは、十分すぎるぐらいに魅力的な女性だ。……他の男にとられる前にと、焦ってプロポーズしてしまうぐらいには」
「アーロン様……?」
「きみは気が付いていないみたいだけど……。今となっては、きみに婚約を申し込みたい男は、いくらでもいる。……僕も、その中の一人。けれど、きみを想っていた年月でも、気持ちの強さでも、他の男に負ける気はない」

 アーロンは、マリアベルの手をとり、そっと口づける。

「好きだ。ベル。僕と結婚して欲しい」
「えっと……?」

 ここまでされても、マリアベルはいまいち理解できない様子で戸惑うだけだった。
 やっぱり強敵だなあ、とアーロンは苦笑する。

「立場を忘れて結婚を申し込むほどに、僕はずっと前から、きみのことが大好きだったってこと。僕はきみのことが大好きで、人としても尊敬しているから、結婚したいんだよ」
「だい、すき……」
「そう。大好き」
「つ、強いところがですか」
「わあ、頑固~」
「が、頑固ってなんですか!」
「いや、強いところ、でも間違ってはいないけどね……。間違ってないけど、違うというか……。この先も長期戦になりそうだなー」
 
 はは、とアーロンは和やかに笑った。
 
「それで? 僕との婚約は、前向きに考えてもらえそうかな?」
「えっと……。期待に応えられるかどうかわかりませんが、アーロン様がそれでもいいとおっしゃるのでしたら……」
「なら、僕はきみが思う『期待』をして婚約を申し込んでいるわけじゃないから、もう解決してるね。これからは婚約者として、改めてよろしくね。ベル?」
「は、はい……。よろしく、お願いします……?」

 アーロンの笑顔と勢いに押され、はい、と答えてしまってから、気が付く。

――あれ、もしかして、婚約オーケーしちゃった!?

 と。

 アーロンに事情を話し、再考……できれば、アーロン側からこの話をなかったことにしてもらうつもりだったのに。
 気が付けば、婚約を承諾する流れになっていた。
 あれ? あれれ? 予定と違うわ! と思いはするものの、彼と婚約することを嫌だとは思わない。
 押し切られたことに気が付いてあわあわするマリアベルの隣で、アーロンは、ふふ、と愛おし気に彼女を見守っていた。

 
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