1 / 6
1
しおりを挟む
「すまない。アメリ。婚約を解消してほしい」
12歳の誕生日を迎えたばかりの私にこう告げたのは、この国の第一王子・テオバルトだ。
さらさらの金の髪に、青い瞳。彼は穏やかで優しい、みんなの憧れの王子様。
そんな彼の婚約者だったはずの人が、伯爵家生まれの私、アメリ・フローレインだ。
色々な本を読んだり異国のお話を聞いたりするのが好きな私は、こんな状況になんとなく覚えがあった。
婚約者に気に入られた女性を疎み、ひどい嫌がらせをして婚約破棄される「悪役令嬢」とやらのお話。最近の流行りらしい。
いくつかパターンがあるけれど、どの物語でも、人前で婚約を破棄しようとする王子はやけに自信満々で、隣には他の女性がいて……といった部分は大体お決まりだ。
けれど、現実の私に起きた「婚約破棄」は様子が違った。
婚約を解消したいと話すテオバルトは俯き、絞り出すように言葉を紡いでいて。
隣にも他の女性なんていはしない。
王城の一室で向き合ってソファに腰かける私たちは、二人きりだ。
「アメリ、ごめん……。本当に、ごめん。今の僕の力では、父上たちを説得できないんだ」
そう話す彼の声は震えている。
テオバルトがあまりにも辛そうにしているから、婚約解消が彼の本意ではないことは十分に伝わってきた。
私たちが婚約したのは10歳のとき。この2年間、それなりに仲良くやってきたはずだ。
私のほうはもちろんのこと、テオバルトが浮気しているなんて話も聞いたことがない。
じゃあ、どうしてこうなったのかというと――。
「お気になさらないでください。殿下。私の能力がハズレだったのがいけないのですから」
「っ……! ハズレだなんて、そんな言い方」
「いいのです。みんなそう言っていますから」
そう。私のほうに問題があったのだ。
テオバルトが泣きそうに顔を歪める。
婚約を解消すると言い出した側にそんな顔をされてしまっては、私は泣くに泣けない。
気にしないでほしい。あなたはあなたで幸せになってほしい。そんな想いを込めて、精一杯の笑顔を作った。
「私、アメリ・フローレインは、テオバルト殿下との婚約解消を受け入れます。殿下、今までありがとうございました」
「っ……」
テオバルトはついに耐えきれなくなったのか、額を押さえて泣き出してしまう。
静かな部屋にぐす、ぐす、と彼が涙する音が響く。
そんなテオバルトの姿を見て、私は「ずるい」と思った。
婚約の解消が決まった今、私はもう彼の肩に触れて慰めることはできない。
そんな風に泣かれたって、本当は支えたいと思っていたって、私にできることはもうなにもないのだ。
だから、そんな態度を取られると困ってしまう。
もし、「悪役令嬢」のお話のように高圧的に婚約破棄を叫んでくれたら、私だってこんな気持ちにならずに済んだのに、なんてこともちょっぴり思ってしまった。
「……では、殿下。失礼いたします」
これ以上ここにいても、なにもできはしない。
そう思い、軽く礼をして部屋を出ようとした私に、「まって」と声がかかる。
「……アメリ。僕が自分の力で婚約者を選べるようになったら……。きみを迎えに行く。だから、待っていて」
涙交じりの言葉に、私はなにも返さず彼の元を立ち去った。
テオバルトは第一王子。彼の一存で婚約者を決めることはできない。
いつか迎えに来てくれるなんて、そんな期待をしてはいけない。
だって私には、王子の婚約者になれるだけの力がないのだから。
12歳の誕生日を迎えたばかりの私にこう告げたのは、この国の第一王子・テオバルトだ。
さらさらの金の髪に、青い瞳。彼は穏やかで優しい、みんなの憧れの王子様。
そんな彼の婚約者だったはずの人が、伯爵家生まれの私、アメリ・フローレインだ。
色々な本を読んだり異国のお話を聞いたりするのが好きな私は、こんな状況になんとなく覚えがあった。
婚約者に気に入られた女性を疎み、ひどい嫌がらせをして婚約破棄される「悪役令嬢」とやらのお話。最近の流行りらしい。
いくつかパターンがあるけれど、どの物語でも、人前で婚約を破棄しようとする王子はやけに自信満々で、隣には他の女性がいて……といった部分は大体お決まりだ。
けれど、現実の私に起きた「婚約破棄」は様子が違った。
婚約を解消したいと話すテオバルトは俯き、絞り出すように言葉を紡いでいて。
隣にも他の女性なんていはしない。
王城の一室で向き合ってソファに腰かける私たちは、二人きりだ。
「アメリ、ごめん……。本当に、ごめん。今の僕の力では、父上たちを説得できないんだ」
そう話す彼の声は震えている。
テオバルトがあまりにも辛そうにしているから、婚約解消が彼の本意ではないことは十分に伝わってきた。
私たちが婚約したのは10歳のとき。この2年間、それなりに仲良くやってきたはずだ。
私のほうはもちろんのこと、テオバルトが浮気しているなんて話も聞いたことがない。
じゃあ、どうしてこうなったのかというと――。
「お気になさらないでください。殿下。私の能力がハズレだったのがいけないのですから」
「っ……! ハズレだなんて、そんな言い方」
「いいのです。みんなそう言っていますから」
そう。私のほうに問題があったのだ。
テオバルトが泣きそうに顔を歪める。
婚約を解消すると言い出した側にそんな顔をされてしまっては、私は泣くに泣けない。
気にしないでほしい。あなたはあなたで幸せになってほしい。そんな想いを込めて、精一杯の笑顔を作った。
「私、アメリ・フローレインは、テオバルト殿下との婚約解消を受け入れます。殿下、今までありがとうございました」
「っ……」
テオバルトはついに耐えきれなくなったのか、額を押さえて泣き出してしまう。
静かな部屋にぐす、ぐす、と彼が涙する音が響く。
そんなテオバルトの姿を見て、私は「ずるい」と思った。
婚約の解消が決まった今、私はもう彼の肩に触れて慰めることはできない。
そんな風に泣かれたって、本当は支えたいと思っていたって、私にできることはもうなにもないのだ。
だから、そんな態度を取られると困ってしまう。
もし、「悪役令嬢」のお話のように高圧的に婚約破棄を叫んでくれたら、私だってこんな気持ちにならずに済んだのに、なんてこともちょっぴり思ってしまった。
「……では、殿下。失礼いたします」
これ以上ここにいても、なにもできはしない。
そう思い、軽く礼をして部屋を出ようとした私に、「まって」と声がかかる。
「……アメリ。僕が自分の力で婚約者を選べるようになったら……。きみを迎えに行く。だから、待っていて」
涙交じりの言葉に、私はなにも返さず彼の元を立ち去った。
テオバルトは第一王子。彼の一存で婚約者を決めることはできない。
いつか迎えに来てくれるなんて、そんな期待をしてはいけない。
だって私には、王子の婚約者になれるだけの力がないのだから。
72
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】義妹と婚約者どちらを取るのですか?
里音
恋愛
私はどこにでもいる中堅の伯爵令嬢アリシア・モンマルタン。どこにでもあるような隣の領地の同じく伯爵家、といってもうちよりも少し格が上のトリスタン・ドクトールと幼い頃に婚約していた。
ドクトール伯爵は2年前に奥様を亡くし、連れ子と共に後妻がいる。
その連れ子はトリスタンの1つ下になるアマンダ。
トリスタンはなかなかの美貌でアマンダはトリスタンに執着している。そしてそれを隠そうともしない。
学園に入り1年は何も問題がなかったが、今年アマンダが学園に入学してきて事態は一変した。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます
藤原遊
恋愛
王城の舞踏会で、公爵令息から一方的に婚約破棄を告げられた令嬢。
彼の仕事を支えるため領地運営を担ってきたが、婚約者でなくなった以上、その役目を続ける理由はない。
去った先で彼女の能力を正当に評価したのは、軍事を握る王弟辺境伯だった。
想うことをやめた先で、彼女は“対等に必要とされる場所”を手に入れる。
早く婚約解消してください!
鳴哉
恋愛
自己評価の低い子爵令嬢 と
その婚約者の侯爵令息 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、6話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる