先輩アイドルは僕の制服を脱がせ、次のステージへと誘う〈TOMARIGIシリーズ ツバサ×蒼真 #2〉

はなたろう

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後編

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​都内の一等地。セキュリティ万全のマンション、蒼真先輩はこの高層階に住んでいる。

​そして、同じマンションの下層階のワンルームが、今日からオレの新居となる。​最安値といっても、ごく普通の大学生の一人暮らしには贅沢すぎる部屋だけど……。


​「あれ?予定より早かったですね」


​玄関を開けると、湊さんが出迎えてくれた。


​「荷物は全部運び終わってますからね」


​特待生として事務所が家賃補助をしてくれ、蒼真先輩と同じマンションの別部屋で生活することになった。


​「ありがとうございます。すみません、湊さんが入居立ち合いしてくださったなんて」

​「ここは事務所の契約物件だから、社員が対応するのは当然だよ。いっそ、TOMARIGIのメンバー全員、このマンションに住んでくれたら、楽なんだけどなぁ」


​湊さんがにこりと笑う。そこらのアイドルより可愛い人だよね。なんで芸能事務所のマネージャーなんだろう。


​「はい、これ鍵ね。ゴミ出しとか詳しいことは、蒼真くんに聞いた方が早いよね」

​「ああ。それより、伊勢のお迎えだろ?」

​「あ、そうだね。待たせると機嫌悪くなるから、もう行くね。ツバサくん、諸々の手続きがあるから、明日は事務所に来てね」


​湊さんは、慌ただしく出ていった。


「蒼真先輩、前から思ってたけど……」

「なんだ?」

「湊さん、伊勢さんといるとき、なんか可愛いですよね。いえ、年上に言うのも失礼なんだけど」

「逆だろ」

「え?」

「湊さんといると、伊勢が可愛いくなんだろ」


それって――と、尋ねようとしたとき、蒼真先輩は薄いレースのカーテンをサッと閉めた。そして、


​「はぁ、やっと本当に二人きりになれたな」


​蒼真先輩は、ゆっくりオレの腕を引き寄せる。


​「……ツバサ。こっち向いて」


​言われるままに振り向くと、次の瞬間、強く抱きしめられた。


​「卒業おめでとう」


​耳元で低い声。背中を撫でる手。体を預けたらそのまま溶けてしまいそうな熱さ。


​「抱きたい」


​その瞬間、オレの理性はバラバラと崩れた。


​「ま、まだ、明るいですよ?」

​「今さらだろ。ツバサの最後の制服は、俺の手で脱がせたい」


​スルッとネクタイがほどかれた。そのまま、シャツのボタンに、蒼真先輩の細い指先がひとつ、ふたつと外されていく。


​「我慢できない」


​唇が触れた瞬間、足が震えた。久しぶりのキスは、最初から深くて、呼吸の隙間すらくれないくらい熱かった。


​「会いたかった……ツバサ……」

​「はい……オレも……」


​キスの合間に言葉が漏れる。腕の中で抱きしめられる感覚が、体の奥まで痺れさせた。


​◆◆◆


​いつの間にか、窓の外は日が暮れていた。部屋の隅に置かれた段ボールが、すっかり夜の暗がりに沈んでいる。

​狭いシングルベッドで抱かれ、まだ余韻に浸るまどろみの中、蒼真先輩が天井を見ながらぽつりと呟いた。


​「ツバサ。やっぱり、俺と一緒に住む気はないんだな?」

​「それは――」


​物件を探すときに、何度も『うちに住めば?』と誘われた。それは、本当に目眩がするほど嬉しい話だ。だけど……。


​「俺と一緒にいるのは嫌か?」

​「な、違うっ……!」

​「じゃあ、なんで?部屋は空いてるし、不自由させないし。俺はツバサと一緒にいれる時間を、一秒でも無駄にしたくない」


​胸が苦しくなる。同じ気持ちだけど、言わなきゃ伝わらない。


​「オレ、本当は待つの……嫌いなんです」


​蒼真先輩が動きを止めた。


​「母さんがずっと働いてて……、子供の頃から、夜遅くまで一人でいることもあったから。ずっと、暗い部屋で待つのは辛かった。たぶん、母さんも同じくらい、辛かったと思う」

​「ツバサ……」


​沈黙。ゆっくりと、蒼真先輩がオレの頬を包む。


​「TOMARIGIは、もうすぐツアーが始まるし、先輩はもっと忙しくなるでしょう?」

​「待つのも、待たせるのも、どっちも辛い――か」

​「うん。だからこそ、先輩に会えた時間を大事にしたい。今日は来てくれて嬉しかった」

​「どんな無理してでも、今日だけは……絶対にお前のそばにいたかった」


​息が止まるほど甘い声だった。


​「それでも、俺は自分のワガママな気持ちを、これからも押さえきれない」


​蒼真先輩は、オレの腰を引き寄せ、額をくっつけてきた。


​「ツバサには、触れられる距離にいて欲しい」

​「先輩……」


​額にだけ軽くキスをくれる。


​「でもツバサ。覚悟しとけ」

​「……なにが?」

​「これから一気に忙しくなるのは、俺だけじゃない。ツバサは大学も、レッスンも、デビューの準備もある」

​「うん」


​蒼真先輩の目が、少しだけ鋭くなった。恋人の顔でもあり、プロとしての顔でもある目。


​「次のステージに立つための準備、ですね」


​その言葉が、新しい物語の扉を開く鍵みたいに感じた。オレは、小さく息を吸って、微笑んだ。

​蒼真先輩は、オレの手を引き寄せ、その甲にキスを落とす。


​「根性はある、母親のお墨付きだったな」

​「はい」

​「期待している。でも――」


​甘いのに、逃がさない声。


​「今夜は一晩中、俺だけのものでいて」


​その瞬間、オレは確信した。
​ここから始まる物語は──、恋の続き、そして、夢の始まりだ。
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