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第9章 ◇真夏の夜の夢 LAST WEEK
◆12 大切な人たちと④
しおりを挟む「来てくれたんだね……!」
莉奈さんは、何だか眩しそうに目を細めて俺の顔を見詰めた。それから、急に顔を赤らめて――そっと目を伏せる。
「……ごめんなさい!」
「え――?」
いきなり謝られて驚いた。
「好きな人がいる」と、ホスト失格の発言をした俺を許せなくて、店に来なくなった莉奈さん。
その怒りが、急に治まるはずもないよな……と思っていたんだけど。
「本当は、もっとずっと前に謝りたかった。だけど、子供みたいな醜態を晒しちゃって……!もう恥ずかしくて。今さらどんな顔してキミに会ったらいいのか、分からなかった……」
俯いて視線を逸らし、赤い顔のまま、とつとつと話す。いつもの莉奈さんとはだいぶ違う姿で……ちょっと意外だった。
「自分の気持ちの整理がつかないのを、全部貴方のせいにしたのよ。いい大人が――最低よね」
「莉奈さん……っ」
――もしかして本当は。
この間のケンカの時も思ったけど、こういうのが。
子供みたいに癇癪を起こしたりするのが、莉奈さんの素だったりするのかも。
今まではそういう面を見せないように、物分かりのいい大人の女を演じてくれてたんだろう……俺が、この人に甘えていたから。
「いや!俺の為に、そういうのを――自分の正直な気持ちを、ずっとずっと我慢してたんだとしたら。もう、本当にごめんって思うし、今更なんだけど……今の莉奈さんは、ちょっと可愛くて。年上だからって、ムリに大人ぶらなくても全然良かったのに、なんて……ごめん、なんか俺、また勝手なこと言ってる?」
ひと息に、思ってることを喋ったら、莉奈さんは目を丸くしていて――
「ふっ……ふふふ」
急に笑い出した。
「な、なに?」
「だって、私が謝りに来たのに。何でキミの方が必死に謝ってるんだろうって」
「うん――いやその、俺の不甲斐なさが全ての原因なんだと――」
「もういいわ!……止めましょう」
俺の唇に莉奈さんの人差し指が触れて、言葉を塞ぐ。
「お互い様ってことで、終わりにしましょ?こうやって言い合っていたら、限られた貴重な時間が……どんどん無くなっちゃう」
「――うん……うん。俺は、単純に莉奈さんに会いたかった!また顔が見られて、本当に嬉しいよ。あれが最後だなんて、嫌だったから」
安心させたくて笑おうとしたけど、何だか上手く笑えなかった。
「……ずっと連絡くれていたものね」
そう、俺は嫌がられると分かっていながら、莉奈さんにメッセージを送り続けていた。
会いたいとか、そういうことだけじゃなく、美南さん、舞華さん、紗良さんたちの話だったり、今日はこんな面白い出来事があったよとか、そんな日常の些細なことを。
「私、自分でも知らないうちに『オブリビオン日記』のメール配信とか、そういうのに登録したかな?って思うくらい、色々送ってくるから……もう、困っちゃった」
「はは……ごめん。でも拒否はされなかったから、読んではくれてるんだなーって勝手に思ってさ」
「……キミって、いつもそうね」
ふっ、と小さく息を吐く。
「相手に拒絶されても気にしないみたいに――傷付いてないみたいに笑ってくれて。こっちの気持ちがどんな状態でも、いつでも笑顔を向けてくれる……」
「……莉奈さん」
「いつでも一緒にいる相手を楽しくさせたいって、心から思ってる……そういうキミが……やっぱり、今でも好きよ」
そう言って、莉奈さんは俺に笑顔を向けてくれる。
でも次の瞬間、それが崩れて泣きそうな表情になった。彼女のそんな気持ち、これまでの色んな会話とか、思い出とか。
一気に胸に迫って、俺も同じような表情になってしまう。
”いつでも笑顔を向けてくれる”
”そういうキミが好き”
――そんな風に思ってくれる人が、目の前に1人でも存在するなら。
この仕事をして良かったなって。
恋愛感情を利用するような仕事はしないと決めて、それを押し通したことも――無意味じゃなかったのかなって。
そう思えて。
目の奥が熱くなって、喉がつまる。
泣きそうになっている自分に気付く。
俺は必死で、せり上がってくる感情を抑えた。
まだ夜は、終わっていないんだ――と。
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