獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

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 再びぼんやりと目を覚ます。
 仄暗い見慣れない天蓋を見て、ああ、自分は嫁いだのか……と。
 慣れない感覚……ハダカ?
「─!」
 布団で身体を隠しながらガバッと起き上がる。
 広い寝台ベッドに自分しかいなかった。
 (いま、何時?!)
 カーテンの隙間から明るい光がさしている。一体何時まで寝ていたのか。慌てて夜着をかぶり、自室へ続くドアへ向かう。
 と。なんだか歩きなれない奇妙な感覚。
 (あ─)
 昨晩のことを思い出し、1人赤くなる
 直ぐにふるふると首を振り、冷静さを戻す。


 初めての時間が終わった後、全てでは無いがヴァロム─王に話は出来た。もう少しバルファルク帝について話をしなければ、と数歩進む。

 と。

 ガチャリと音を立てドアが開く。何かしらしていた侍女長とファスカがこちらを見た。(獣人は耳が良いので恐らく足音に気付いたのだろう)

「おはようございます」
 挨拶は果たしてそれでいいものか迷ったが、同じように返した。
「ヴ……王は?今は何時?どうして私だけ─」
 侍女長とファスカがニコリとする。
「王は既に執務中です。起きるまで寝かせてやれ、とのご命令でしたのでごゆっくりとして頂きました」
 ファスカが恭しく礼をする。
「さあ、湯殿の準備は出来ておりますからメティアナさま、どうぞこちらへ」
 うきうきとした人間と獣人の侍女に手を引かれて、そのまま浴室に連れていかれたのだった。


 髪と体を綺麗にし浴室で1人にしてもらったメティアナは、浴槽につかり昨晩の余韻か、バルファルク帝の事をどう話そうかぼんやりとしながら外を見た。
 昼よりは前の明るさだ。
 また、王妃となったからには自分にもやらねばならぬ仕事があるはず。
 ザバリと湯を抜け出し、用意されていたタオルで全身を拭いた。
 (これ以上ゆっくりしてる場合じゃないわ)
 侍女を呼び着替えを手伝ってもらう。
 動きやすい簡素なドレスだ。髪も乾かし結ってもらった。

「私の仕事はどこにあるのかしら」
 部屋に入りながら聞くと、獣人の侍女が王妃専用の執務室にある筈では、と答える。
「いえ、それより王にご挨拶を。その時に何があるか仰られる筈です」
 ファスカに言われ、ふむ、と納得した。其方の方が都合が良い。
「では、王に挨拶に行くわ」
 承知しました、とファスカが案内役をかって出る。獣人の侍女・ウェリタと人間の侍女─名をリシアンというちょっと寡黙な侍女だ─も1人ついて部屋を出た。


 王の執務室まではそんなに遠くなかったが、通り過ぎる獣人達は支持派とはいえやはりひそひそと聞こえリシアンも微妙な顔つきをしていた。
 そんなのはお構い無し、が我らがメティアナである。
「こんにちは!お勤めご苦労さま!いいお天気ね、あ、メティアナといいます!これからよろしくお願いします!」
 ニンゲン王妃にふわりと令嬢挨拶をされ─しかも元気に─ハトが豆鉄砲を食らった顔をする獣人達。
 ゆく先々で同じことが繰返されるので、ファスカとウェリタは密かに笑っていた。リシアンはどうだと言わんばかりの顔になり堂々としている。
 ぽかんとして見送る獣人達。
 全く気にしないメティアナ。
 (不思議なものだ)
 とファスカは思った。ここまで自然体でいるニンゲンを今まで見たことは無かった。

 途中、威勢の良い声がひびき合う場所がありメティアナはファスカに尋ねた。
「ああ、あれは練兵場からの声ですね」
 練兵場と聞き、王妃が密かにワクワクしたのはリシアンしか知らない…。そう、といい再び一同は王の執務室へと向かった。



 ノックし、中に入る。
 部屋には側近の3名と王がいた。
 昨晩の事があるので、メティアナは少し顔が固まったが平然とした彼を見て些末な事か……と少し胸がちくんとした。
 が、それの正体は分からないので放っておく事にした。
「……おはようございます。御心遣いありがとうございます。王妃として、執務をこなしたくまいりました」
 言葉に、王は答える。
「ゆるりと出来たならよかった。ここでの執務は無い。長居はしない。本城に行ったらやって貰うつもりだ。ここでは好きなように過ごせ」
 言われ、確かに、と思った。
「では、あの・・お話を……」
 言葉を止め、王を見る。先ずは王だけに話したい。悟ったのか、側近と侍女達にしばしの退室を命じてくれた。
 何となく不服そうな側近と侍女たちだったが、渋々出ていった。


「お心遣い、ありがとうございます」
 膝をおってお礼を告げる。
「かまわん。─そなたのことだ、考えあっての事だろう」
 言葉に目を丸くした。
 確かに。ここで王1人にすら信じて貰えなければ全てのことは動かないと思った。本能か、勘か。それとも王としての経験則か。
 軽く息を吐く。
「─さすがです、我が王」
 何となく不服な表情をされたが、よく分からないので話を続けた。
「バルファルク帝についてですが─」

 そこからどのくらい話していたか分からない。帝の気性や明らかになった本性、企みを再度話し、今までの戦歴や戦略、交渉手口・国の戦力などメティアナの予測を踏まえ知る限りの情報を話した。
 それらを全て聞きながら、内心感嘆していた。ただぬくぬくと育てられた姫や令嬢には争いなど無関係なもの。
 式の前の襲撃を思い出していた。
 双子と共に自らも武器を取り、戦う姿は昨日今日の浅い鍛錬では出来ない動きだった。そう・・育てられたのかそうでないかは定かではないが、その時以外に見せる振る舞いからは想像ができない。恐らく、自分以外の者たちも驚くであろう。そして、聡明で広い見聞と知識。自分の婚約がたらい回しにされていた話は聞いていたがどうやら相当な当たりをひいたらしい。臆さぬ度胸、賢明な自己判断力……異種族だとしても王としてはこれ以上無いくらいのものを手に入れた、と思う。
 同時に彼女がどうしてそう・・生きてきたのか。純粋に知りたいと思った。

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