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ベルトラン放浪
25.火の巫女
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「しかしこれだけ魔法を使ってしまっては我々の居場所が完全にばれてしまったであろうな」
ゼファーが部屋を見渡して呟いた。
凄まじい惨状だったが全く動揺した様子はない。
「ヘルマよ、来たのは主だけか?」
「はっ、陛下のお口ぶりから内密にしたほうが良いかと思い、他の者はクラドノ村に向かわせております。私がここにいることを知る者はいません」
うむ、とゼファーは頷きつつ顎をつまんだ。
「ともかくここに留まるのは危険だな。どこか別に避難する場所があると良いのだが…」
そう言ってエリオンの方を見つめる。
俺たち全員の視線がエリオンに集まった。
「…わかりました。友人を頼って別の場所に行くことにしましょう」
エリオンはため息をつきながら頷き、俺たちは周囲を警戒しながら夜の街へと忍び出た。
三十分ほど歩いた先にある目立たない一軒家がエリオンの提示した新たな隠れ家で、そちらにも食糧と寝る場所が用意されていた。
エリオンのコネは何なんだ?
「今後のことを話す前にはっきりさせておきたいことがある」
家について落ち着いたところでエリオンが切り出した。
「まず、先ほどの襲撃は我々ではなくそこのエイラが目当てだったということだ」
その言葉にエイラがびくりと震えた。
「何故だ?火の巫女であるとはいえ燼滅教団が何故そこまで執拗に狙うのは。しかも死を撒く四教徒まで動員してまで」
「……」
エイラは何も言わずに下を向いて震えている。
「今そんなことを言ってる場合じゃないだろ!この子は命を狙われてるんだぞ!」
「こんな時だからなんだ。我々は既に町のあらゆる人間から追われている立場だ。それに加えてこのエイラの追手まで加わるとなれば否が応でも考えねばならない」
エリオンはあくまで冷静だった。
「そ、それはそうだけど…」
「それはその娘が火の巫女だからだろう」
その時、入り口近くの壁に身を預けていたヘルマが口を挟んできた。
「火の巫女は高い魔力を持った子供が選ばれる。燼滅教団はそういった子供を集めて魔法兵にしているのだ」
「なんだって!?」
子供を魔法兵に?
俺は自分の耳が信じられなかった。
ヘルマが言葉を続けた。
「火の巫女は魔法との親和性が非常に高い特質を持った子供たちだ。そういう子供は魔導処置を施すと優秀な魔法兵になる。燼滅教団は昔から他教団の火の巫女を攫い、時には買って魔法兵にしているのだ」
「馬鹿な…子供を攫うだと?そんなことが許されていいのかよ!優秀な魔法兵になるだなんて…なんでヘルマがそんなことを知ってるんだよ!」
激情のあまりに詰め寄った俺の腕をヘルマが握りしめた。
「何故なら私もその一人だったからだ」
「…ヘルマが…?」
「本当の話だ」
ゼファーが口を開いた。
「余がヘルマと会ったのは十三年前、まだ王となる前の話だ。実のところ燼滅教団は当時一旦滅んでいるのだが、それを行ったのが当時教団の魔法兵だったヘルマだ」
ヘルマが元魔法兵…?
俺の脳裏にダリアスとボレアナの姿が浮かんできた。
あの二人の身体に浮かんだ紋様はヘルマが本気を出した時に体に浮かぶ紋様とよく似ていた。
まさか、そういうことなのか?
「あいつらは私が教団を滅ぼした時の生き残りだ」
ヘルマが頷いた。
「教団は攫った子供に儀式を施して体に魔法陣を刻み込む。それによって通常必要な詠唱が必要なくなり、更に強力な魔法を己の特性として使えるようになる」
だからあんなに特殊な技が使えたのか。
しかも魔力の発動をほとんど感じなかった。まさに暗殺にうってつけというわけか。
「確かに私は燼滅教団を壊滅状態にはした。しかし教団は完全には滅びず、数年かけて蘇ってきたのだ。そして今もこうして魔法兵を作っているというわけだ」
「そういや燼滅教団の名前を聞くようになったのはここ数年すね」
キツネが思い出したように呟き、エリオンもその言葉に頷いた。
「私も聞いたことがある。昔この地域で畏怖の対象となっていた燼滅教団が一夜にして壊滅状態になったことがあると。まさかそれがヘルマ殿の仕業だったとは…」
俺は椅子にへたり込んだ。
「じゃあ、エイラもその魔法兵にされるところだった、ってことなのかよ」
「…わ、私は火神教の火の巫女でした」
その時、エイラが口を開いた。
全員の視線がエイラに注がれる。
「ひ、火の巫女と言っても特別なことをするわけじゃありません。神殿の掃除をしたり、行事の時に司祭様のお手伝いをしたり、そういうことをするんです」
エイラはうつむきながらも言葉を続けた。
「一月ほど前、司祭様の一人に呼ばれたんです。大事な話があるからって。それでその司祭様の部屋に行ったら別の人たちがいて、今日からお前はその人たちのものだって言われて…嫌だったのに無理やり連れていかれて…」
話ながら机の上に水滴がぽたぽたと垂れていた。
エイラの肩が震えている。
「もういい」
これ以上聞いていられなかった。
年端も行かない子供を魔法兵にするために売るだと?攫うだと?
いつの間にか俺の拳が壁にめり込んでいた。
「それが奴らの手口だ。燼滅教団は暗殺など非合法な仕事を請け負って集めた金で魔法兵を作っているのだ。金目当てに自分たちの火の巫女を売り飛ばす他教徒もいると聞く」
ヘルマが静かに言った。
「それでもう駄目だと諦めていたんだけど、そこにいた女の人が逃がしてくれたんです。あまりにも可哀そうだって。でも逃げてる最中にその女の人も…あの人たちに…」
俺は涙をぬぐいながら話を続けるエイラを抱き締めた。
「もういい、もう何も言わなくてもいい!俺が守ってやる!燼滅教団もエイラを売り飛ばした奴も俺がぶちのめしてやる!」
「どうやら貴様も火神教本部に行く動機ができたようだな」
ゼファーがにやりと笑った。
「ああ、火神教だかなんだか知らねえけど俺が許さねえ!」
ゼファーが部屋を見渡して呟いた。
凄まじい惨状だったが全く動揺した様子はない。
「ヘルマよ、来たのは主だけか?」
「はっ、陛下のお口ぶりから内密にしたほうが良いかと思い、他の者はクラドノ村に向かわせております。私がここにいることを知る者はいません」
うむ、とゼファーは頷きつつ顎をつまんだ。
「ともかくここに留まるのは危険だな。どこか別に避難する場所があると良いのだが…」
そう言ってエリオンの方を見つめる。
俺たち全員の視線がエリオンに集まった。
「…わかりました。友人を頼って別の場所に行くことにしましょう」
エリオンはため息をつきながら頷き、俺たちは周囲を警戒しながら夜の街へと忍び出た。
三十分ほど歩いた先にある目立たない一軒家がエリオンの提示した新たな隠れ家で、そちらにも食糧と寝る場所が用意されていた。
エリオンのコネは何なんだ?
「今後のことを話す前にはっきりさせておきたいことがある」
家について落ち着いたところでエリオンが切り出した。
「まず、先ほどの襲撃は我々ではなくそこのエイラが目当てだったということだ」
その言葉にエイラがびくりと震えた。
「何故だ?火の巫女であるとはいえ燼滅教団が何故そこまで執拗に狙うのは。しかも死を撒く四教徒まで動員してまで」
「……」
エイラは何も言わずに下を向いて震えている。
「今そんなことを言ってる場合じゃないだろ!この子は命を狙われてるんだぞ!」
「こんな時だからなんだ。我々は既に町のあらゆる人間から追われている立場だ。それに加えてこのエイラの追手まで加わるとなれば否が応でも考えねばならない」
エリオンはあくまで冷静だった。
「そ、それはそうだけど…」
「それはその娘が火の巫女だからだろう」
その時、入り口近くの壁に身を預けていたヘルマが口を挟んできた。
「火の巫女は高い魔力を持った子供が選ばれる。燼滅教団はそういった子供を集めて魔法兵にしているのだ」
「なんだって!?」
子供を魔法兵に?
俺は自分の耳が信じられなかった。
ヘルマが言葉を続けた。
「火の巫女は魔法との親和性が非常に高い特質を持った子供たちだ。そういう子供は魔導処置を施すと優秀な魔法兵になる。燼滅教団は昔から他教団の火の巫女を攫い、時には買って魔法兵にしているのだ」
「馬鹿な…子供を攫うだと?そんなことが許されていいのかよ!優秀な魔法兵になるだなんて…なんでヘルマがそんなことを知ってるんだよ!」
激情のあまりに詰め寄った俺の腕をヘルマが握りしめた。
「何故なら私もその一人だったからだ」
「…ヘルマが…?」
「本当の話だ」
ゼファーが口を開いた。
「余がヘルマと会ったのは十三年前、まだ王となる前の話だ。実のところ燼滅教団は当時一旦滅んでいるのだが、それを行ったのが当時教団の魔法兵だったヘルマだ」
ヘルマが元魔法兵…?
俺の脳裏にダリアスとボレアナの姿が浮かんできた。
あの二人の身体に浮かんだ紋様はヘルマが本気を出した時に体に浮かぶ紋様とよく似ていた。
まさか、そういうことなのか?
「あいつらは私が教団を滅ぼした時の生き残りだ」
ヘルマが頷いた。
「教団は攫った子供に儀式を施して体に魔法陣を刻み込む。それによって通常必要な詠唱が必要なくなり、更に強力な魔法を己の特性として使えるようになる」
だからあんなに特殊な技が使えたのか。
しかも魔力の発動をほとんど感じなかった。まさに暗殺にうってつけというわけか。
「確かに私は燼滅教団を壊滅状態にはした。しかし教団は完全には滅びず、数年かけて蘇ってきたのだ。そして今もこうして魔法兵を作っているというわけだ」
「そういや燼滅教団の名前を聞くようになったのはここ数年すね」
キツネが思い出したように呟き、エリオンもその言葉に頷いた。
「私も聞いたことがある。昔この地域で畏怖の対象となっていた燼滅教団が一夜にして壊滅状態になったことがあると。まさかそれがヘルマ殿の仕業だったとは…」
俺は椅子にへたり込んだ。
「じゃあ、エイラもその魔法兵にされるところだった、ってことなのかよ」
「…わ、私は火神教の火の巫女でした」
その時、エイラが口を開いた。
全員の視線がエイラに注がれる。
「ひ、火の巫女と言っても特別なことをするわけじゃありません。神殿の掃除をしたり、行事の時に司祭様のお手伝いをしたり、そういうことをするんです」
エイラはうつむきながらも言葉を続けた。
「一月ほど前、司祭様の一人に呼ばれたんです。大事な話があるからって。それでその司祭様の部屋に行ったら別の人たちがいて、今日からお前はその人たちのものだって言われて…嫌だったのに無理やり連れていかれて…」
話ながら机の上に水滴がぽたぽたと垂れていた。
エイラの肩が震えている。
「もういい」
これ以上聞いていられなかった。
年端も行かない子供を魔法兵にするために売るだと?攫うだと?
いつの間にか俺の拳が壁にめり込んでいた。
「それが奴らの手口だ。燼滅教団は暗殺など非合法な仕事を請け負って集めた金で魔法兵を作っているのだ。金目当てに自分たちの火の巫女を売り飛ばす他教徒もいると聞く」
ヘルマが静かに言った。
「それでもう駄目だと諦めていたんだけど、そこにいた女の人が逃がしてくれたんです。あまりにも可哀そうだって。でも逃げてる最中にその女の人も…あの人たちに…」
俺は涙をぬぐいながら話を続けるエイラを抱き締めた。
「もういい、もう何も言わなくてもいい!俺が守ってやる!燼滅教団もエイラを売り飛ばした奴も俺がぶちのめしてやる!」
「どうやら貴様も火神教本部に行く動機ができたようだな」
ゼファーがにやりと笑った。
「ああ、火神教だかなんだか知らねえけど俺が許さねえ!」
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