246 / 298
エルフと獣人族
34.暴走
しおりを挟む
「それは良かった」
巴蛇の機嫌がよくなったようで俺はほっと一息ついた。
これなら水の問題は片付くかもしれない。
「うむ、褒美としてなにか願いを叶えてやろう。なんでも申してみよ」
「じゃ、じゃあ寝巴蛇山から流れる水の量をもっと増やしてもらえますか?今のままだと二つの氏族が少ない水を奪い合って戦争が起きそうなんです」
「そういえば少し前に気分が悪くて身じろぎをしたことがあったな。その時に水が漏れ出ていた隙間が潰れてしまったのであろう。よろしい、その願い聞き入れるとしよう」
「ありがとうございます」
俺は安堵のため息をついた。
これで両氏族の争いは解決だ。
「ふざけるんじゃあない!」
「ああ!?文句でもあるのか?」
その時、遠くから怒号が聞こえてきた。
何事かと振り返ると俺の眼に今まさに戦いを起こさんとするエルフ族と獣人族の姿が飛び込んできた。
両部族とも怒りに目を燃やして相手を睨みつけ、その手には武器が握られている。
「あいつら!何をしてんだよ!」
「あやつら問題が解決したと見るや否やどちらがより貢献したかで揉めだしたのだ。あれでは手の付けようがないぞ」
駆け寄ってきたリンネ姫が困ったように息をついた。
「クソ、あいつら!さっきまで力を合わせていたのにもう忘れたのかよ!」
間が悪いことにスポーツドリンクを作るために両部族ともかなりの手勢を連れて来ている。
力を使い果たした今の状態であの数を止めるのはかなり厳しいかもしれないぞ。
「なんじゃ、何が起きているのだ」
ウズナ、の思念体が俺の隣にやってきた。
「丁度良かった!あなたの力であいつらを止めてやってもらえませんか?あなたが言えばたぶん言うことを聞くと思うんですけど」
「何故お主がやらぬ」
「ああなってしまったら俺でも止めるのは無理ですよ。て言うか今までのことでもう動けないんですよ」
「そんなわけはあるまい、お主にはまだまだ力が有り余っているではないか。ははあん、さてはお主、力が制限されているからできぬのだな?ならば我が手伝ってやろう」
言うなりウズナが俺の顔を掴んで引き寄せた。
ウズナの唇が俺の唇に重なる。
俺の記憶はそこで途絶えた。
◆
「てめえらエルフ族はたかだか木の実を絞っただけじゃねえか!しかも途中でなくなりやがるしよお!」
「それを言うなら貴様らなどただ塩を持ってきただけではないか。果物を育てることの大変さも知らぬ蛮人が」
「なんだと!」
連日働いていた疲れもあってエルフ族と獣人族の対立は最高潮に達していた。
「ったく、あいつらは性懲りもねえ」
グランが呆れたように頭を掻きながら両者に割って入ろうとした時、背後から巨大な魔力の接近を感じ取った。
「な、なんだ?」
ここ数年、いや数十年感じたこともないほどの強力な魔力にグランは慌てて振り向いた。
これほどの魔力を放つのはワールフィアでも魔王と呼ばれる魔族だけだ。
「テツヤ…?」
その魔力は蛇頭窟の傍らに佇む一人の男が発していた。
「テツヤ…なんだよな…?」
確かにその影はテツヤだ。
いや、テツヤだったと言うべきだろうか、今やその姿は人の姿を留めなくなりつつあった。
ヒトだったかつての身体は肉体賛美の芸術家が過剰に誇張を利かせた彫像のように歪に膨れ上がり、体の節々から変形した骨が棘のように盛り上がっている。
額からは巨大な二本の角が生え、以前にアスタルがテツヤの力を開放した時に現れた紋様が不気味な赤い光を放ちながら再び浮かび上がっていた。
「な、なんだあやつは?貴様らが呼んだのか?」
「お、俺は知らねえよ!お前らの手勢じゃねえのか?」
異様な事態に気付いたバルドとローベンも争いを止めて変貌するテツヤを眺めている。
「テ、テツヤ…」
テツヤの足下では突然のことにへたり込んだリンネ姫が唖然と見上げていた。
「ゴアアアッ!!!!」
テツヤだったものが吠えた。
いや、吠えたなとどいう生易しいものではなかった。
魔力を込めた咆哮はもはや爆発にも等しい。
テツヤの周囲半径数メートルが吹き飛んだ。
「姫様!」
すんでのところで飛んできたソラノがリンネ姫を救い出した。
「あ、あれは何なのですか?まさか…」
「…あれはテツヤだ」
認めたくないというように絞り出したリンネ姫の言葉にソラノは耳を疑った。
「そんな馬鹿な!あれは…あれではまるで…」
魔族そのものではないか、という言葉をソラノは辛うじて堪えた。
言ってしまえば本当に事実になってしまいそうだったからだ。
それでも今のテツヤの姿はヒトだと言っても信じる人など誰もいないだろう。
見ているだけでソラノの肌から玉のような汗が噴き出た。
自分の力では遥かに及ばないと体が理解しているのだ。
「クソ、あいつは何なんだ!敵なのか!?」
「と、とにかく、まずはあやつをどうにかするのだ!皆のものかかれ!」
エルフ族も獣人族も突然現れた異形のものを見てパニックを起こしかけている。
「醜き者め、我が魔法でチリと消えるがいい!」
バルドが詠唱を始めた。
「ま、待つのだ!あの者にそれは効か…」
「ライトニングボルツ!」
焦るルスドールの声を遮ってバルドの魔法が発動した。
両の手から生み出された巨大な光の弾頭がテツヤに向かって放たれる。
しかしそれはテツヤに当たる直前に消えうせた。
巴蛇の機嫌がよくなったようで俺はほっと一息ついた。
これなら水の問題は片付くかもしれない。
「うむ、褒美としてなにか願いを叶えてやろう。なんでも申してみよ」
「じゃ、じゃあ寝巴蛇山から流れる水の量をもっと増やしてもらえますか?今のままだと二つの氏族が少ない水を奪い合って戦争が起きそうなんです」
「そういえば少し前に気分が悪くて身じろぎをしたことがあったな。その時に水が漏れ出ていた隙間が潰れてしまったのであろう。よろしい、その願い聞き入れるとしよう」
「ありがとうございます」
俺は安堵のため息をついた。
これで両氏族の争いは解決だ。
「ふざけるんじゃあない!」
「ああ!?文句でもあるのか?」
その時、遠くから怒号が聞こえてきた。
何事かと振り返ると俺の眼に今まさに戦いを起こさんとするエルフ族と獣人族の姿が飛び込んできた。
両部族とも怒りに目を燃やして相手を睨みつけ、その手には武器が握られている。
「あいつら!何をしてんだよ!」
「あやつら問題が解決したと見るや否やどちらがより貢献したかで揉めだしたのだ。あれでは手の付けようがないぞ」
駆け寄ってきたリンネ姫が困ったように息をついた。
「クソ、あいつら!さっきまで力を合わせていたのにもう忘れたのかよ!」
間が悪いことにスポーツドリンクを作るために両部族ともかなりの手勢を連れて来ている。
力を使い果たした今の状態であの数を止めるのはかなり厳しいかもしれないぞ。
「なんじゃ、何が起きているのだ」
ウズナ、の思念体が俺の隣にやってきた。
「丁度良かった!あなたの力であいつらを止めてやってもらえませんか?あなたが言えばたぶん言うことを聞くと思うんですけど」
「何故お主がやらぬ」
「ああなってしまったら俺でも止めるのは無理ですよ。て言うか今までのことでもう動けないんですよ」
「そんなわけはあるまい、お主にはまだまだ力が有り余っているではないか。ははあん、さてはお主、力が制限されているからできぬのだな?ならば我が手伝ってやろう」
言うなりウズナが俺の顔を掴んで引き寄せた。
ウズナの唇が俺の唇に重なる。
俺の記憶はそこで途絶えた。
◆
「てめえらエルフ族はたかだか木の実を絞っただけじゃねえか!しかも途中でなくなりやがるしよお!」
「それを言うなら貴様らなどただ塩を持ってきただけではないか。果物を育てることの大変さも知らぬ蛮人が」
「なんだと!」
連日働いていた疲れもあってエルフ族と獣人族の対立は最高潮に達していた。
「ったく、あいつらは性懲りもねえ」
グランが呆れたように頭を掻きながら両者に割って入ろうとした時、背後から巨大な魔力の接近を感じ取った。
「な、なんだ?」
ここ数年、いや数十年感じたこともないほどの強力な魔力にグランは慌てて振り向いた。
これほどの魔力を放つのはワールフィアでも魔王と呼ばれる魔族だけだ。
「テツヤ…?」
その魔力は蛇頭窟の傍らに佇む一人の男が発していた。
「テツヤ…なんだよな…?」
確かにその影はテツヤだ。
いや、テツヤだったと言うべきだろうか、今やその姿は人の姿を留めなくなりつつあった。
ヒトだったかつての身体は肉体賛美の芸術家が過剰に誇張を利かせた彫像のように歪に膨れ上がり、体の節々から変形した骨が棘のように盛り上がっている。
額からは巨大な二本の角が生え、以前にアスタルがテツヤの力を開放した時に現れた紋様が不気味な赤い光を放ちながら再び浮かび上がっていた。
「な、なんだあやつは?貴様らが呼んだのか?」
「お、俺は知らねえよ!お前らの手勢じゃねえのか?」
異様な事態に気付いたバルドとローベンも争いを止めて変貌するテツヤを眺めている。
「テ、テツヤ…」
テツヤの足下では突然のことにへたり込んだリンネ姫が唖然と見上げていた。
「ゴアアアッ!!!!」
テツヤだったものが吠えた。
いや、吠えたなとどいう生易しいものではなかった。
魔力を込めた咆哮はもはや爆発にも等しい。
テツヤの周囲半径数メートルが吹き飛んだ。
「姫様!」
すんでのところで飛んできたソラノがリンネ姫を救い出した。
「あ、あれは何なのですか?まさか…」
「…あれはテツヤだ」
認めたくないというように絞り出したリンネ姫の言葉にソラノは耳を疑った。
「そんな馬鹿な!あれは…あれではまるで…」
魔族そのものではないか、という言葉をソラノは辛うじて堪えた。
言ってしまえば本当に事実になってしまいそうだったからだ。
それでも今のテツヤの姿はヒトだと言っても信じる人など誰もいないだろう。
見ているだけでソラノの肌から玉のような汗が噴き出た。
自分の力では遥かに及ばないと体が理解しているのだ。
「クソ、あいつは何なんだ!敵なのか!?」
「と、とにかく、まずはあやつをどうにかするのだ!皆のものかかれ!」
エルフ族も獣人族も突然現れた異形のものを見てパニックを起こしかけている。
「醜き者め、我が魔法でチリと消えるがいい!」
バルドが詠唱を始めた。
「ま、待つのだ!あの者にそれは効か…」
「ライトニングボルツ!」
焦るルスドールの声を遮ってバルドの魔法が発動した。
両の手から生み出された巨大な光の弾頭がテツヤに向かって放たれる。
しかしそれはテツヤに当たる直前に消えうせた。
11
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます
網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。
異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。
宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。
セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~
普門院 ひかる
ファンタジー
ここ神聖帝国に地球から異世界転生してきた天才チートな男がいた。
彼の名はフリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲン。
その前世からしてケンブリッジ大学博士課程主席卒業の天才量子力学者で、無差別級格闘技をも得意とするチートな男だった彼は、転生後も持ち前のチート能力を生かし、剣術などの武術、超能力や魔法を極めると、人外を含む娘たちとハーレム冒険パーティを作り、はては軍人となり成り上がっていく。
そして歴史にも干渉し得る立場となった彼は世界をどうするのか…
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる