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第七部~砂漠の雨:夏の禍
3.ボーハルトの秘密
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「テツヤさん、この忌々しい蚊の野郎をどうにかできませんかね?」
トロブの町長、ヨーデンが困り果てたように泣きついてきた。
その顔にも腕にも赤い虫刺されが無数に腫れ上がっている。
「見てくださいよ、これを!腕の形がすっかり変わっちまいましたよ!」
「なんとかできないことはないんだけど…」
果たして網戸を作ってしまってもいいんだろうか?
一応リンネ姫に確認を取るとあっさりと許可された。
ゴルドでも例年にないくらい蚊が大発生しているのだとか。
「蚊が媒介する病気も広がり始めている。このままでは魔法療法士の手が足りなくなることが確実だから取れる手は全て取らねばならぬ」
通信用水晶球が映し出すリンネ姫の表情もいつになく厳しかった。
そうとなればさっさと動いた方がいい、ということで俺はボーハルトへと向かった。
あいにくとこの世界は地球とは違って窓枠が決まった寸法で作られているわけじゃない。
家一軒一軒違う窓に合わせた網戸を作るにはどうしてもドワーフや職人たちの力が必要だ。
「おおテツヤ、久しぶりだの。今年はいつになく暑いのう」
ゲーレンは部下たちに率いて相変わらず忙しそうに仕事をしていた。
「お主と姫様の持ち込む仕事のお陰で休む暇がないわい」
そう言いながらも嬉しそうに笑っている。
「実はそんな中で頼むのは申し訳ないんだけど…また作ってほしいものがあるんだ」
俺はそう言って網戸を取り出した。
「最近蚊が酷いだろ?これを窓枠に取り付けて蚊が入ってこないようにしたいんだ」
「ふむ、確かに今年は気持ち蚊が増えているようにも感じるな。そしてこれならば蚊を入れずに風は通せるというわけか」
ゲーレンは興味深げにしげしげと網戸を見ている。
「どうかな?ゲーレンさんの知り合いでこういうのを作ってくれる人はいないかな?」
「いないこともないが…こいつは少々厄介だのう。なにせ窓の大きさってのはてんでばらばらだからのう。一軒一軒回って作らねばならぬぞ」
やっぱり買ってすぐに使えるという訳にはいかないか。
「とにかくできることから始めていきたいんだ。今年はどこも蚊が大発生してるみたいで大変なんだよ」
「承知した。構造自体はそう難しいものでもないから作ること自体は容易いだろう。問題はこの網だな。網の目が大きすぎては蚊が通り抜けてしまうし細かすぎては風が通り抜けにくくなってしまうからの」
「それは蚊帳の網を流用できると思うんだ。そっちの手配はホランドにお願いしようと思ってる」
「よし、わかった!他ならぬお前さんの頼みだ、木工が得意な仲間にあたってみることにしよう。蝶番やら取っ手なんかはこっちでなんとかなるだろう」
ゲーレンが膝を打って立ち上がった。
「よろしく頼むよ。ひとまずはゴルドから始めることにしよう。なにせ一番人口が多いから…」
そこで俺はあることに気付いた。
ボーハルトに来てから一度も蚊に刺されていない。
今日はフラムもソラノも連れてきていないから魔法で蚊を寄せ付けていない、ということはない。
それにゲーレンの工房には当然だけど網戸は付いていない。
ということはボーハルトは蚊が少ないのか?
「なあ、ここは普段からこんなに蚊が少ないのか?」
「いや、これでも多い方だと思うが?」
俺の言葉にゲーレンは不思議そうな顔をした。
「いやいや、ここはトロブと比べたらメチャクチャ蚊が少ないぞ。何かしてるのか?」
「ふーむ、儂らも去年来たばかりじゃから何が違うのかはよく分からぬのだが、そういえばここにもともと住んでいた連中が何かをしていたようないないような…」
「それだ!」
俺は慌てて駆けだした。
ボーハルトに昔から住んでいたハウエルなら何か知っているはずだ!
「蚊よけ…ですか?」
マットレス工場で働いていたハウエルが怪訝な顔で聞き返してきた。
「そう、ここは他と比べて格段に蚊が少ないんだ。ゲーレンさんに聞いたら元から住んでた人たちが何かをしてたって」
「確かに夏になると蚊よけのために必ずやることはありますが…そんなに大したものではないですよ?」
ハウエルは尚も不思議そうな顔をしている。
「いいんだ、今はどんな些細なことでも試してみたいんだよ」
俺自身この蚊の多さにはいい加減うんざりしていたから正直藁にでもすがりたい気持ちだ。
「わかりました。それではこちらに来てください」
そう言うとハウエルは居住区の方へ俺を案内した。
「あれです」
そう言って指差した先の道端には土で出来た浅い鉢が置かれていた。
中には何かを燃やした灰が入っている。
「この土地では昔から蚊の季節になると蚊遣り燻しという行事が行われているんです」
ハウエルがそう説明しながら家の中から草の束を持ってきた。
「これを燃やして煙を出して蚊を追い払ってるんです」
なるほど、蚊を寄せ付けないために草木を燃やすのは昔からどこでも行われてきたことだもんな。
それにしてもその程度ではこの蚊の少なさは説明がつかないような…
そこで俺はその草の束に白い花がついていることに気付いた。
まさかこれは…
「なあ、その蚊遣り燻しというのは必ずこの草を使うのか?」
「?よくわかりましたね。その通りです。この花は蚊遣り花と呼ばれていてこの辺の草地によく生えている花なんですよ」
「それだ!今すぐその花のところに案内してくれ!」
トロブの町長、ヨーデンが困り果てたように泣きついてきた。
その顔にも腕にも赤い虫刺されが無数に腫れ上がっている。
「見てくださいよ、これを!腕の形がすっかり変わっちまいましたよ!」
「なんとかできないことはないんだけど…」
果たして網戸を作ってしまってもいいんだろうか?
一応リンネ姫に確認を取るとあっさりと許可された。
ゴルドでも例年にないくらい蚊が大発生しているのだとか。
「蚊が媒介する病気も広がり始めている。このままでは魔法療法士の手が足りなくなることが確実だから取れる手は全て取らねばならぬ」
通信用水晶球が映し出すリンネ姫の表情もいつになく厳しかった。
そうとなればさっさと動いた方がいい、ということで俺はボーハルトへと向かった。
あいにくとこの世界は地球とは違って窓枠が決まった寸法で作られているわけじゃない。
家一軒一軒違う窓に合わせた網戸を作るにはどうしてもドワーフや職人たちの力が必要だ。
「おおテツヤ、久しぶりだの。今年はいつになく暑いのう」
ゲーレンは部下たちに率いて相変わらず忙しそうに仕事をしていた。
「お主と姫様の持ち込む仕事のお陰で休む暇がないわい」
そう言いながらも嬉しそうに笑っている。
「実はそんな中で頼むのは申し訳ないんだけど…また作ってほしいものがあるんだ」
俺はそう言って網戸を取り出した。
「最近蚊が酷いだろ?これを窓枠に取り付けて蚊が入ってこないようにしたいんだ」
「ふむ、確かに今年は気持ち蚊が増えているようにも感じるな。そしてこれならば蚊を入れずに風は通せるというわけか」
ゲーレンは興味深げにしげしげと網戸を見ている。
「どうかな?ゲーレンさんの知り合いでこういうのを作ってくれる人はいないかな?」
「いないこともないが…こいつは少々厄介だのう。なにせ窓の大きさってのはてんでばらばらだからのう。一軒一軒回って作らねばならぬぞ」
やっぱり買ってすぐに使えるという訳にはいかないか。
「とにかくできることから始めていきたいんだ。今年はどこも蚊が大発生してるみたいで大変なんだよ」
「承知した。構造自体はそう難しいものでもないから作ること自体は容易いだろう。問題はこの網だな。網の目が大きすぎては蚊が通り抜けてしまうし細かすぎては風が通り抜けにくくなってしまうからの」
「それは蚊帳の網を流用できると思うんだ。そっちの手配はホランドにお願いしようと思ってる」
「よし、わかった!他ならぬお前さんの頼みだ、木工が得意な仲間にあたってみることにしよう。蝶番やら取っ手なんかはこっちでなんとかなるだろう」
ゲーレンが膝を打って立ち上がった。
「よろしく頼むよ。ひとまずはゴルドから始めることにしよう。なにせ一番人口が多いから…」
そこで俺はあることに気付いた。
ボーハルトに来てから一度も蚊に刺されていない。
今日はフラムもソラノも連れてきていないから魔法で蚊を寄せ付けていない、ということはない。
それにゲーレンの工房には当然だけど網戸は付いていない。
ということはボーハルトは蚊が少ないのか?
「なあ、ここは普段からこんなに蚊が少ないのか?」
「いや、これでも多い方だと思うが?」
俺の言葉にゲーレンは不思議そうな顔をした。
「いやいや、ここはトロブと比べたらメチャクチャ蚊が少ないぞ。何かしてるのか?」
「ふーむ、儂らも去年来たばかりじゃから何が違うのかはよく分からぬのだが、そういえばここにもともと住んでいた連中が何かをしていたようないないような…」
「それだ!」
俺は慌てて駆けだした。
ボーハルトに昔から住んでいたハウエルなら何か知っているはずだ!
「蚊よけ…ですか?」
マットレス工場で働いていたハウエルが怪訝な顔で聞き返してきた。
「そう、ここは他と比べて格段に蚊が少ないんだ。ゲーレンさんに聞いたら元から住んでた人たちが何かをしてたって」
「確かに夏になると蚊よけのために必ずやることはありますが…そんなに大したものではないですよ?」
ハウエルは尚も不思議そうな顔をしている。
「いいんだ、今はどんな些細なことでも試してみたいんだよ」
俺自身この蚊の多さにはいい加減うんざりしていたから正直藁にでもすがりたい気持ちだ。
「わかりました。それではこちらに来てください」
そう言うとハウエルは居住区の方へ俺を案内した。
「あれです」
そう言って指差した先の道端には土で出来た浅い鉢が置かれていた。
中には何かを燃やした灰が入っている。
「この土地では昔から蚊の季節になると蚊遣り燻しという行事が行われているんです」
ハウエルがそう説明しながら家の中から草の束を持ってきた。
「これを燃やして煙を出して蚊を追い払ってるんです」
なるほど、蚊を寄せ付けないために草木を燃やすのは昔からどこでも行われてきたことだもんな。
それにしてもその程度ではこの蚊の少なさは説明がつかないような…
そこで俺はその草の束に白い花がついていることに気付いた。
まさかこれは…
「なあ、その蚊遣り燻しというのは必ずこの草を使うのか?」
「?よくわかりましたね。その通りです。この花は蚊遣り花と呼ばれていてこの辺の草地によく生えている花なんですよ」
「それだ!今すぐその花のところに案内してくれ!」
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