陛下を捨てた理由

甘糖むい

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「陛下……信じて、ください」

オリヴィアの声はかすれ、たどたどしく紡いだ言葉は震えを隠せなかった。
セオドールを騙す事を軽んじていた過去の自分が憎くて仕方なかった。
どうして、あの時と、何度も心の中で問いかける。
すべては、あの夜の軽率な一言から始まったのだと、今になって痛感していた。

自分だけならまだしも、幼い妹たちの顔が頭を過る。
最悪の結果になれば、見世物のように殺された妹たちの死体が何か月も晒されるかもしれない。
そんな光景を想像するだけで、胃がねじれるように痛んだ。
そんな結果だけは避けたくて、必死で言い募る言葉を考えてみても、何も思い浮かばなかった。

「なぜ黙る?」

低く、静かな声が響いた。
セオドールの瞳は、氷のように澄んでいた。
そこに映るのは、何もない。
ただ、冷たく研ぎ澄まされた疑念がそこにあった。
その眼差しが、自分のすべてを見透かしているように思えた。
逃げ場など、最初からなかった。

「陛下……私は、本当に、貴方を――」

震える唇からこぼれた言葉は、途中で途切れた。
何を言っても言い訳にしかならない。
愛だと叫んだところで、それが嘘にしか聞こえないのは分かっていた。

「さっさとその腹の子が俺の子だと証明してみせろ」

無理難題を告げるその声は静かだった。 
オリヴィアは唇を震わせて必死に答えを探そうとした。
 早く何か言わなければ。 そう思っているのに、ひとつでも間違った言葉を言えば終わりという恐怖で何も言えない。 
証明をする手段も思いつかなかった。
クラウスと共に、セオドールとの初夜で破瓜の痕跡を細工したとはいえ、クラウスは今いない。
それに、彼がオリヴィアの協力をして言い訳をしてくれるとは到底思えなかった。

何も言わないオリヴィアに痺れを切らしたのか、大きなため息と共にセオドールが動いた。

「――出来ないなら」

彼の手が、剣にかかり、その切っ先がオリヴィアの喉元へゆっくりと突きつけられた。
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