陛下を捨てた理由

甘糖むい

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「お前も共犯か?」

低く、冷えきった声が空気を裂いた。
セオドールの瞳が、鋭くクラウスを射抜く。
その問いに対し、クラウスは淡く微笑んだ。
わずかに口角を上げただけの、計算された笑みだった。

「陛下に背く理由がございません。私は医師として、事実のみを申し上げております」
「事実、か……」

セオドールは低く呟き深く椅子に腰かけてから足を組み替えた。
クラウスはわずかに視線を伏せ、静かに答える。

「陛下。医の知識をもってしても、それが絶対とは言い切れませぬ。奇跡は、時に人の理を越えるものでございます」
「しかし、医学は完璧ではございません」

クラウスの声音は穏やかだった。
淡々とした響きの中に、どこか人を酔わせる柔らかさがあった。
セオドールの眉がわずかに動き、唇がかすかに歪む。

「何が言いたい」
「可能性は低くとも、ゼロではないのです」
「強い思いや……特別な相手であれば、稀に奇跡が起こることも――」
「戯言を」

セオドールの声が鋭く遮った。
その音は部屋の石壁に反響し、空気が張り詰める。
短く吐き捨てた声に、部屋の空気が震える。
だが、その瞳の奥に一瞬だけ、かすかな動揺が走ったのをオリヴィアは見逃さなかった。
奇跡。
その響きが、セオドールの理性を微かに揺らした。
クラウスは、わずかに口角を上げる。
オリヴィアの目には、王の心の隙を突いた者だけが見せる自信の笑みに見えた。

「陛下。確かに奇跡などという言葉は、陛下の信条にはそぐわぬことでしょう。ですが、人の心が身体に及ぼす力は侮れません。しかし現に彼女は愛した男の子供を宿す力を持っている」
「愛……だと?私がそんな曖昧なものを信じると?」

セオドールは低く呟くが、声は先ほどよりも鋭さを欠いていた。

「……お前は、本当に私を愛しているのか」

その問いに、オリヴィアは息を整え、震える声で答えようとするが、言葉が出てこない。
クラウスの視線が、促すようにこちらを見ていた。
今だ、演じろ――そう言っているようだった。
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