陛下を捨てた理由

甘糖むい

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ジェニエルがセオドールと口を交わさなくなってから数日。
一人で食事をすることに慣れつつあったジェニエルは、日課でもある薔薇を愛でるために庭に向かった際、事件は起こった。

「……一体、何をされているのですか?」

いつも自分が腰掛ける白いベンチ。
その上で、セオドールとオリヴィアが寄り添うように座っていた。
静かに放たれたジェニエルの声には、押し殺した怒気が混じっていた。
怯えたように肩を震わせるオリヴィアと対照的に、セオドールは不遜に背を預けたまま、ジェニエルを一瞥した。

「見てわからないのか、皇后」
「わからないから、お伺いしているのです」
「ふん。情緒も何もないのか、君は」

ジェニエルは口元に微笑を保ったまま、決して感情を乱さぬ姿勢を崩さない。
だが、その微笑こそがセオドールの癇に障るらしく、彼はわざとらしくオリヴィアを庇うように腕を伸ばした。

「もう一度うかがいます。陛下は一体何をなさっているのですか?」

ジェニエルが同じ言葉を繰り返すと空気が張りつめた。
ジェニエルのプレッシャーに負けたセオドールは、舌打ちを残すとオリヴィアを立たせてその場を立ち去ろうとした。
 オリヴィアはジェニエルにちらりと視線を残して、何か言いたそうにして立ち止まり一度躊躇った後ジェニエルに向きなおった。

「行こう、オリヴィア」
「でも……」

促されながらも、オリヴィアは視線を揺らし、ジェニエルを見やった。
涙を含んだ瞳が、ためらいを帯びて皇后を映す。
やがて彼女は小さく立ち止まり、勇気を振り絞るように振り向いた。

「あの……」

その声に、ジェニエルはわずかに眉を動かした。皇后に対して、許しもなく直接言葉を向けるなど、この国の誰もが畏れて避ける行為である。ましてや真っ直ぐに視線を重ねてくる庶民など、想像すらしていなかった。

「どうして……怒っているんですか?」

「……どういうことです?」

「だって、ここはセオドールのお城でしょう? お后様がセオドールを追い出そうとするなんて……おかしくないですか?」

まるで疑いも悪意も知らぬ子供のような声音だった。
ジェニエルは答えを探そうとして、言葉を失った。
眩暈のような感覚がこみあげる。
皇后と皇帝の立場すら理解していない――そんな人物が、なぜこの場にいるのか。

「……この庭は、皇后である私の庭です。陛下とて、私の許可なく草一本抜くことは許されておりません」

静かに言い切り、ジェニエルはセオドールに目を向けた。
しかし彼は気まずさを隠すように顔を逸らす。その仕草が、余計に彼女の胸を冷たく締めつけた。
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