陛下を捨てた理由

甘糖むい

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「今度のパーティーで着てくれないだろうか」

ゼツィオードの唐突な申し出に、ジェニエルは瞠目したまま固まっていた。
ドレスを贈る。
それはこの国において自分のものだという無言の宣言に等しい行為だった。
幼い子供でも知っているドレスの意味をゼツィオードは知らないのだろうか。
それとも知っていて、セオドールに相手にされていないジェニエルを憐れんでいるのだろうか。

じっと自分を見つめているゼツィオードの真意がわからず、ジェニエルは出来るだけ言葉を選んだ。

「ゼツィオード様には想い人がいらっしゃると伺っています、間違いがあってはいけません」

真面目に答えればきっとゼツィオードは冗談だと言ってくれる。
そんな淡い期待を抱きながら答えたジェニエルは、ゼツィオードを見上げて笑みを作った。
けれど、ゼツィオードはジェニエルの願いとは裏腹に真剣な表情を崩さなかった。
ただ、真剣な目で、まっすぐにジェニエルを見つめていた。
逃げようとするジェニエルの心をひとつ残らず見透かすような深い瞳は昔から知っているはずなのに、知らない色を宿していた。

「冗談でも憐れんでもない、わかっているだろう?」

その声は低く、かすかに震えていた。
逃げ道を塞ぐように扉とゼツィオードの腕に囲い込まれたジェニエルが息をのむと、ゼツィオードは見た事がない悪い笑顔を浮かべて、そっとジェニエルの手を取った。
扉にかけたままだったジェニエルの冷えた手のひらにゼツィオードの大きな熱い掌が重なる。
剣を握ってばかりの手は想像よりもずっと硬く、かさついていた。
何かを言わなければ、この場から逃げ出さなければ。
そう思っているのに、ジェニエルは全く動けなかった。

「俺が愛しているのは貴方だ」

ずっと目をそらしていたゼツィオードの本音を告げられて、ジェニエルは息をのんだ。
拘束されている訳でもないのに、指先一つ動かせないでいるとそのままゼツィオードはゆっくりとジェニエルの指先に唇を落とした。
こんなにも優しく誰かに触れられたのは初めてだった。

まるで壊れ物を扱うかのように丁寧な仕草はゼツィオードの言葉が嘘偽りがない事を示していた。
じっとジェニエルの反応を待っているゼツィオードの眼差しがジェニエルの揺れた瞳に笑みを作った。

ジェニエルにとってゼツィオードは、大切な兄のような存在だ。
苦しいときに寄り添ってくれた、唯一無二の味方だった。
彼に恋愛感情を抱くことなど、考えたこともなかった。
考えたくもなかった。

「……ごめんなさい」

震える声でそう言って、ジェニエルは部屋の中へと滑り込んだ。
背後で、ゼツィオードが何か言いかけた気がしたが、聞こえないふりをした。
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