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番外編2 鞘に恋
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リーディアにとって、ストヴァルは初めて出会った時から異端な存在だった。
人の上に立つべくして生まれた転生の才能をもちながら堕落した生活をして才能を腐らせているそんなチグハグな、不安定な人だった。
だからこそストヴァルが王冠を奪還したと、ディザードから聞いた時は心の底からワクワクした。
――ストヴァルが血まみれのまま王座に座っている所を見るまでは。
ストヴァルは血の匂いを纏いながら、静かにただリーディア達を見下ろしていた。
その目に温度はなかった。
隙なく研ぎ澄まされた剣としてただそこにいた。
「今日から、貴方の元につく事になりましたリーディアです」
ディザードは淡々と王座に座るストヴァルにリーディアを紹介した。
物心ついた頃から異端と言われ続けたリーディアでもわかる。
死体だらけの部屋ではじまった異様な光景に思わず足が後ずさった。
「わかった」
「もう直ぐ医者が来ます。リーディアを護衛において置くので何があれば申し付けください」
ディザードに背中を押されてリーディアは、一歩ストヴァルの方に足を動かした。
教えられた通りにストヴァルの足元に足を進めて膝をつく。
歩くたびに濃くなる死臭に嗚咽が漏れそうになるが、何とか耐えて下を向いていると、温度のない平坦な剣にも似た問いが頬に触れた。
「恐ろしいか?」
問われてリーディアは思わず顔を上げた。
動けばまた一層死の香りが濃くなり、引き結んだ唇から吐瀉物がこぼれそうになった。
顔をあげてようやくリーディアは気がついた。
ストヴァルの身体から、一番濃い死の香りがしていた。
ストヴァルの傷だらけの身体には、自衛をした跡がひとつとしてなかった。
特に右目の傷は酷く、瞼は2つに裂けて眼球に血が溜まっていた。
全てを諦め、死の淵にいる男のひとつだけ残されたガラス玉を見つめてリーディアはようやくストヴァルの本質に気が付き、そして誓った。
『あの人は不器用な人なんです。本当は誰よりもこの国のことを考えているのに、自分を犠牲にすればいいと諦めている』
そんなあの人の鞘になりたいと、願ったディザードの言葉が蘇り、リーディアはストヴァルにいつか、諦めたくないと言わせてやると意地のような決意を抱いた。
口内に溜まった物を床にぶちまけてリーディアは忠誠を誓った。
「私は貴方の剣を彩る紐となってみせます」
人の上に立つべくして生まれた転生の才能をもちながら堕落した生活をして才能を腐らせているそんなチグハグな、不安定な人だった。
だからこそストヴァルが王冠を奪還したと、ディザードから聞いた時は心の底からワクワクした。
――ストヴァルが血まみれのまま王座に座っている所を見るまでは。
ストヴァルは血の匂いを纏いながら、静かにただリーディア達を見下ろしていた。
その目に温度はなかった。
隙なく研ぎ澄まされた剣としてただそこにいた。
「今日から、貴方の元につく事になりましたリーディアです」
ディザードは淡々と王座に座るストヴァルにリーディアを紹介した。
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死体だらけの部屋ではじまった異様な光景に思わず足が後ずさった。
「わかった」
「もう直ぐ医者が来ます。リーディアを護衛において置くので何があれば申し付けください」
ディザードに背中を押されてリーディアは、一歩ストヴァルの方に足を動かした。
教えられた通りにストヴァルの足元に足を進めて膝をつく。
歩くたびに濃くなる死臭に嗚咽が漏れそうになるが、何とか耐えて下を向いていると、温度のない平坦な剣にも似た問いが頬に触れた。
「恐ろしいか?」
問われてリーディアは思わず顔を上げた。
動けばまた一層死の香りが濃くなり、引き結んだ唇から吐瀉物がこぼれそうになった。
顔をあげてようやくリーディアは気がついた。
ストヴァルの身体から、一番濃い死の香りがしていた。
ストヴァルの傷だらけの身体には、自衛をした跡がひとつとしてなかった。
特に右目の傷は酷く、瞼は2つに裂けて眼球に血が溜まっていた。
全てを諦め、死の淵にいる男のひとつだけ残されたガラス玉を見つめてリーディアはようやくストヴァルの本質に気が付き、そして誓った。
『あの人は不器用な人なんです。本当は誰よりもこの国のことを考えているのに、自分を犠牲にすればいいと諦めている』
そんなあの人の鞘になりたいと、願ったディザードの言葉が蘇り、リーディアはストヴァルにいつか、諦めたくないと言わせてやると意地のような決意を抱いた。
口内に溜まった物を床にぶちまけてリーディアは忠誠を誓った。
「私は貴方の剣を彩る紐となってみせます」
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