モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

文字の大きさ
25 / 112
幕間3

国王のプロファイリング

しおりを挟む


「王、困ります。私はあくまでも臨時に雇われている剣術指南役です。こうして貴方と頻繁に1対1でお話できる立場ではありません」
「ほほぅ……情報共有できないまま俺が死んでも構わんと。冷たいなぁ、スヴェンは」
「自分の命で脅迫しようとするな! 卑怯だぞ、セオドア!」
「くくっ……お前はそうでなくてはな、スヴェン」

 ラスティル王セオドアはヴァニタスに似た容姿を意地悪く歪めた。

「お前はこの容姿が好きなんだろ? 俺を守り、レオノーラに仕え、次はその子供のヴァニタスに……」
「ヴァニタスを馬鹿にしたらいくらお前でも許さん。俺はアイツの父親代わりだ。お前を殺して即刻自害する」
「……冗談だ」

 相変わらず、くっくと悪戯な笑みを浮かべたまま、セオドアは俺を見つめる。

「俺もレオノーラとヴァニタスには悪いことをしたと思っている。アッシュフィールド公爵がそこまでクズだったとはな。流石に反省している」
「反省の念が全く見受けられない言葉だな」

 俺は溜め息を吐く。
 セオドアは王子の頃から利発ではあったが人を見下すような傲慢な態度で敵も多かった。
 発言自体は間違ってはいないのだが、とにかく言い方が悪い。
 ラスティル国王となってからは流石に人前では言動を改めてはいるが、王宮に戻った俺に鬱憤をぶつけるかのような言動を繰り返す。
…………逆に言えば、それだけこの男に信頼されているということでもあるが。

「…………で、ヴァニタスの予言の英雄が現れたという話だが?」

 アルビオンのことだ。
 何度か剣を交えてきたが、あの少年は確かにただ者ではない。
 剣の腕もさる事ながら、相手の剣筋を即座に見抜き、隙をつく事に長けている。
 騎士のような正当な剣ではないが、確かに革命者の剣ではある。

「はい。アリスティア王国のアリスの一族の生き残りのようです」
「英雄はアリスティア王国の生き残り……か」

 セオドアはしばし考え込むと、こう口にした。

「ならば、俺の命を奪うという魔物や魔王とやらの手の者は、既に各国の王宮に入り込んでいると見ていいな」

 は?
 今……何と?

「アリスティア王国の滅亡はデュームズ、ティアエラ両国の暴走だと踏んでいたが……未来の英雄を輩出する国だったのであれば、意図的であったと考えてもおかしくはない。そして背後には……」
「魔王が、いる……」

 アリスティア王国の滅亡が魔王の手の者の暗躍による結果であれば、確かに既にこのラスティル王国にも紛れ込んでいてもおかしくはない。

「流石だな、セオドア」
「お前の愛のお蔭だ、スヴェン。お前が俺の面影を追ってアッシュフィールド家の執事になったから……くくっ、レオノーラには結局手を出さなかったのか。自害したということは、そういうことだな」
「俺はそういう邪な気持ちでアッシュフィールド家の執事になったわけではない」

 確かに、全く無かったかといえば嘘になる。
 セオドアはラスティルの国王になって、手の届かない存在となってしまった。
 その悲しみや寂しさを紛らすために、セオドアの面影を追ってアッシュフィールド家の執事となったことは否定できない。
 けれど誓ってレオノーラ姫には手を出してはいないし、ヴァニタスはあくまでも自分にとっては息子のような存在だ。
 愛しているのは……。

「すぐそんな顔をするから虐めたくなるのだ、スヴェン。お前が堅物な男であることも、哀れな母子に手を出すはずがないことも俺が一番良く知っている」

 こいつ。
 国王じゃなかったら、顔が歪むくらいにボコボコにしているんだが……。

「……で、だ。俺は対処が後手に回るのは好きではない。此処まで把握していて、ただ襲われるのを待っているだけというのは、愚か者の所業だろう」

 セオドアは悪戯を仕掛ける前の子供のように楽しそうに笑う。

「もう1人の英雄……ユスティート・ティアニーだったか?奴を養子にして、アレコレ叩き込んだ後、譲位して俺が姿を消せば、ラスティルに入り込んでいる魔王の手先はさぞや混乱するであろうな。ティアニー家の子息であれば、養子としても申し分ない」
「…………はぁ?」
「どうせ俺が死んでユスティート・ティアニーがラスティル国王になるなら、俺が死ぬ前にユスティート・ティアニーを国王にしてやろうという話だ。ユスティート・ティアニーとしても、何も知らないまま国王になるより、王政について学んだ後で国王になった方が統治が楽であろう」

 何を言っているのか、この男は。

「混乱に乗じて隙を突かれたらどうするんだ!?」
「ユスティート・ティアニー共々、レオノーラの息子の魔術を利用して逃走するさ。そして態勢を整えて、反撃に転じる」

 どうやら、冗談ではなく大真面目に言っているらしい。
 だが……。

「ヴァニタスの予言を、全面的に信じるのか?」

 ユスティートを養子にするということは、そういうことだ。
 ヴァニタスの父親代わりの俺自身、あの予言は他者には夢物語や妄想と捉えられてもおかしくないと思っている。
 何しろ、表向きヴァニタスは悪魔憑きとして幽閉されている身だ。
 悪魔憑きが故の幻覚だと捨て置かれても仕方がない。

「英雄がアリスティアの生き残りじゃなかったら一蹴していたがな……話が変わった。レオノーラの息子の語る夢物語が真だと捉えた方が、筋が通る」

 そうだ。
 この男はより勝算の高い賭けに乗る男だ。

「……もう、お前の中では決定事項なんだな。俺が何を言っても……」
「……聞くとでも?」

 わかってはいるが、腹が立つ。

「お前には俺とユスティートの護衛を任せる。レオノーラの息子の護衛の為にアリスティアの生き残りを捕まえておく算段を立てておけ……それから」

 セオドアは急に笑いを引っ込め、真顔になる。
 つられて俺も背筋を伸ばし、顔を引き結んだ。

「スピルスにはギリギリまで悟られるな」

 それは、予想外の言葉だった。

「…………何故?」
「特に理由はない。強いて言えば、俺が魔王で手の元を忍ばせるならあの位置だというだけの話だ。子供を忍ばせて成長させれば、大抵の大人は愛着が湧き、絆される。とはいえ、根拠はない。だからこそ奴の反応が見たい……それだけだ」

 スピルスは、ヴァニタスにとって最早幼馴染みのような存在だった。
 だが、セオドアの勘が侮れないというのも、痛い程に身に染みている。

「わかった。スピルスにはギリギリまで悟られないよう策を講じる」

 仮に、スピルスが魔王の関係者だった場合、スピルスに心を許しているヴァニタスにも危険が及ぶのは間違いがない。
 セオドアに良いように操られているようで癪だが、確かにスピルスの反応は確認しておきたい。

 思い出すのは地下水脈で泣く、幼いヴァニタスの姿。
 あの子供に、これ以上悲しみや苦痛を与えてなるものか。

「素直で結構。スヴェン、久しぶりに同衾するか?」

 セオドアはまた、くっくと笑いながらからかうように口にする。

「お前が譲位したら考えてやる」
「そりゃいい。この盛大な悪戯の楽しみが増した」

 此処で断れない、突っぱねられないのが俺の欠点だ。

 魔王……。
 夢物語の存在かと思っていたが、セオドアの言動で現実味が増した。

 実在するとしたら、何を考えているのか?
 何を企んでいるのか?

 平穏な日々が緩やかに、しかし確実に崩れていくような感覚に俺は戦慄いた。
 戦乱の火は、確実に俺たちに……そして子供たちに迫っている。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

処理中です...