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会談―午前―
03
しおりを挟むまた書斎に落ちる沈黙……を、ぶち壊すスライム男。
パンパンと沈黙を破るように手を叩いた後、ニヤリと笑う。
「はい、では自己紹介。まずはそこで剣を携えて立っているカッコいい英雄さんから」
「何で俺を巻き込むのかなー?」
いきなり呼びかけられたアルビオンはピクピクと引きつった笑みを浮かべる。
「お兄さんとぐっしょり濡れて絡み合った仲じゃない?」
「雨の中外に飛び出したお前を探しに行ってちょっとバトっただけじゃん!! 誤解されるような言い方しないでよ!!」
「あ、アルビオン……?」
俺とスピルスの視線を受けて、アルビオンは大きく息を吐く。
「何で今更自己紹介……名前はアルビオン。姓は不明。17歳。アリスティア王国出身。アリスの一族の生き残り。アリスティア王国がデュームズ王国とティアエラ王国に攻め滅ぼされてからは放浪の旅をしていた。前世の記憶を思い出したりしないから転生者ではないが、転生者を見ると前世の姿が見える時もある……これでいい?」
「うん、流石未来の大英雄!」
「…………斬るよ」
「いや、やめて。スライムの刺身なんて多分美味しくないよ」
スライム……刺身で食えるのか?
日本人はクラゲやナマコも食うからな……食おうと思えば食えるのか?
「やめてヴァニタス君。そんな食材を見るような目でお兄さんを見ないで。助けて英雄様」
「大人しく食われろ」
スライム男はアルビオンの世に隠れようとして、彼に蹴られていた。
痛い……と言って立ち上がると、スライム男はもう一度パンパンと手を叩いた。
「続いてお兄さんね。この世界でのお兄さんに名前はないんだ。スライムだからね。実はお兄さんの場合は『転生する前からスライムだった件』なんだけど、この事情については割愛するね。今のこの姿は転生前の姿だよ。柚希颯志、28歳。小さな美容室を経営していた美容師。今の身体に名前がないから、転生前の姓の柚希で呼ばれることが多いかな?颯志という名前はこの世界の人にはちょっと呼びにくいみたい。転生してからざっと100年くらい?モンスターだからわりと長生き。こんな感じかな?はい、次はヴァニタス君」
「質問というか、ツッコミ入れさせてくれねぇの!?」
「はい、リズミカル&スピーディーにGo!」
スライム改め柚希は、妙に発音が良い英語で俺に自己紹介を求める。
何だ、このノリの良い陽キャは……。
「あーっとぉ……この世界での名前はヴァニタス・アッシュフィールド。悪魔憑きとして幽閉されてるけど、一応アッシュフィールド家の長男。アルビオンと同じく17歳。転生前の名前は赤津孝憲。就職に失敗してコンビニの夜勤アルバイトをしていた。享年39歳」
陽キャのノリは無理……と半ば棒読みで自己紹介をすると、スピルスは目を見開いた。
え…………?
「死因は、小学生を助けてトラックに轢かれた?」
スピルスが問い掛ける。
「あぁ……ま、そうだけど…………」
「音倉市出身?」
「へ?」
つい間抜けな声を上げてしまった。
スピルスは言葉を続ける。
「私の名前はスピルス・リッジウェイ。16歳です。転生前の名前は虎田大和。心理学部の教授。享年52歳。音倉市出身。高校時代に図書館で赤津孝憲という同級生と知り合ったんだけど……」
「虎田大和……」
マジかよ。
スピルスが転生者であることは予測していた……が。
「生前の知り合いだったなんて…………」
俺は思わず両手で顔を覆う。
スピルスに、どれだけヴァニタスとしての外面を取り繕っても無駄なのだ。
彼は全てを知っている。
デブでキモオタだったかつての自分も、いじめられまくっていた惨めな自分も。
「俺は……お前を騙してたんだな、スピルス。本当の俺はあんなにも醜い姿なのに。この世界で容姿ガチャに成功しても、その過去は消せないのに……」
涙が溢れてくる。
まさか、こんな事で失恋が確定するなんて……。
恋って、こんなにも、苦しいんだな……。
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