モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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あと2年待て

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「魔王は人を愛していて、だからこそ自分に無関心な人に憎悪して、自分に関心を向けようとしているのかもしれない。それが魔王のホワイダニットかもしれない……確かそう言ってたな、スピルス。あれは大学教授である虎田大和の見解か?」

 当時はスピルスは転生者ではないよう振る舞っていて、俺もスピルスが大和だと気づいていなかった。

「会談で柚希さんも口にしていましたが、魔王は中学生のまま時間を止めてしまっています。ただ、前世での魔王の詳しい生い立ちや死因までは知りません。14歳で命と引き換えに復讐を遂げたことも、前世で魔王が心を許した少年がいたことも、先程の会談で初めて知りました」

 柚希が会談で話していたことを纏めると、魔王は両親に愛されておらず、同じ境遇の少年と支え合って生きてきたが、その少年が殺されたか……自殺に追い込まれた。
 絶望した魔王は少年を殺した……或いは自殺に追い込んだ者に復讐する為に命を投げ出した……と。

 少年が殺される……或いは自殺に追い込まれるまでならば、日本ならばあり得る話だという事実が悲しい。
 国家が戦争で心身に深い傷を負った人々のケアを放棄した挙げ句、家庭内で自身も深手を負っている女性たちに家族のケアを無償で担うよう押しつけた結果が虐待の連鎖、毒親の大量生産だ。
 子供を愛せない親、親に愛されない子供は日本では珍しくなかったし、そんな彼らを『他所の家庭の事情に触れる勿れ』と見ないフリをするのが日本の国民性だった。
 あれでは日本は少子化に至るのは当然の帰結である。

「だが、魔王が命を投げ出して復讐を果たしたのであれば……」
「復讐の規模にもよると思いますが、死者が出ているのであれば、少年犯罪として報道されたかもしれませんね」
「時代が重なっていたならば、俺たちも知っているかもしれねぇな。そのあたり、柚希は把握しているのだろうか?」

 スピルスは天井を見上げて、溜め息を吐いた。

「柚希さんはああ見えて、かなり頑固なところがあります。何しろ、自分の信念の為ならば魔王に逆らって放浪の旅に出る人ですから。言いたくないことは徹底して言わない人だと思います」

 まぁ、そうだろう。
 魔王は柚希には心を許している。
 柚希が魔王のケア役に徹して魔王の傍らにあり続ければ世界は混乱していないかもしれない。
 だが、柚希はそれを良しとはしなかった。
 流されて、自己を犠牲にするタイプではない。
 リスクを覚悟の上で、根本的な解決方法を模索するタイプだ。
 強い信念を持った……悪く言えば、相当の頑固者だろう。

「どちらにしろ、俺はラスティル王国を離れられない。ラスティル王国の防衛に全力を尽くさなきゃならないからな。魔王の救済にまで力を回せない」

 二兎追う者は一兎も得ず……だ。
 俺は俺に出来ることをするし、出来ないモンは無理だ。

 スピルスは少し考え込んでいた。
 心理学者の前世を持つスピルスにとっては、思うところもあるのだろう。

「まぁ、まずはアッシュフィールドのクソ親父の説得。次にラスティル王国を守護する基盤を整える。2年なんてあっという間だな」

 その間に考えればいいと思う。
 ラスティル王国の賢者スピルス・リッジウェイとしてラスティル王国に残るか、心理学者の虎田大和として14歳で時を止めてしまった中学生を救いに行くか。
 まだ時間はたっぷりあるのだから。


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