モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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黒騎士

01

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「失礼します」

 その日、屋敷に現れたのは黒騎士だった。
 俺やセオドアと同じ真っ黒な髪。
 そして真っ黒な瞳。
 要するに日本人と同じ黒髪黒目なのだが、その騎士は美しかった。
 もっさりした日本人とは何処か違う。

 更に、男は全身が真っ黒だった。
 鎧まで黒い。

「フィニス・ティアニー騎士団長。ユスティートの実父だ」

 ユスティートの父親!?
 いや、子持ちに見えねぇよ。
 まぁ、前世の俺も子供がいてもおかしくない年齢で死んでるんだけど。
 そう思うと俺って子供っぽいというか、精神年齢ガキというか。

「セオドア様。後継者育成を放り出し、こんな所で何をしていらっしゃるのですか?」
「いや、俺は命を狙われてるとか予言されてるし。ユスティートにはちゃんと知識と経験豊富な教師をつけてるし。決して育児放棄している訳では……」
「しっかり私の目を見ておっしゃってください」

 あのセオドアがたじたじになっている。
 すげぇ。

 俺の結界を突破してくるということは悪意はないのだろう。
 涙目のセオドアは正直ずっと見ていたいけど……仕方ない、助け舟を出してやるか。

「フィニス騎士団長。俺はこの屋敷の主人、ヴァニタス・アッシュフィールドです。とりあえず、屋敷の中で話しませんか?」



「「ユスティートに縁談!?」」
「ヴァニタス様はともかく、驚いているということはセオドア様も……」
「知らん」
「セオドア様も知らないという事は、完全にアレクシス宰相の独断ですか……」

 フィニス騎士団長は深々と溜め息を吐いた。
 縁談?

 『アルビオンズ・プレッジ』の中にそんなサイドストーリーがあっただろうか?
 いや、なかった。

 『アルビオンズ・プレッジ』は昔懐かしのドット絵ゲームだ。
 恋愛沙汰とか、色恋沙汰とか、そういうのを綺麗さっぱり排除した、友情と冒険のみの物語だった。

 それに、『アルビオンズ・プレッジ』でユスティートが王位についたのは、ラスティル王国が滅びた後だもんな。

 ん?
 アレクシス宰相?

「アレクシス・ピンコット宰相。アッシュフィールド公爵家の現公爵夫人マドリーン様の弟君です。姉君であるマドリーン様がアッシュフィールド公爵家に嫁いだことで伯爵家の出身ながら異例の宰相就任となったのです」

 頭にハテナマークを浮かべていると、マチルダが丁寧に教えてくれた。
 そうか、マチルダも貴族の子女だったっけ?

「相手は誰なんだ?」
「ロータリア王国のウィリディシア王女です」
「俺とヴァニタスの血縁者か……悪くはない選択だが……」

 セオドアがアルビオンを見る。
 帯剣して控えていたアルビオンが頷いた。
 柚希は地下の湖にいる。

 先日アルビオンが、地下の湖での出来事を話してくれた。
 水から離れ過ぎ、魔力を使い過ぎ、熱に浮かされた柚希が溢した話の内容を。

 柚希は、自分が魔王なら早々にスピルスに見切りをつけると話したそうだ。
 そして、スピルスでも俺でもない第三者を魔王の手の者として配置する。
 それには、マドリーンの位置が最適だと。
 自分が魔王なら、あの位置に手の者を配置すると。

 そのマドリーンの弟が宰相で、ユスティートの縁談を進めている……。

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