モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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 アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷。
 その地下の湖に転移した。

 転移魔法陣は消した。
 アッシュフィールド公爵家と離れ屋敷の間にある地下の湖への入口も封じた。

「アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷にいるのはマドリーンとマチルダよ。助けを求めれば受け入れてくれるんじゃないの?」

 メモリアの言葉は間違っていない。
 2人は俺を受け入れて匿ってくれるだろう。
 でも、それでは2人の身を危険にさらすことになる。
 2人は何も知らない。
 その方がいい。

「お兄さんは情報収集してくるよ。スライムであるお兄さんだから通れる抜け道があるから」
「だったら、私も情報収集してくるわ。私は霊体だもの。物理的な障壁なんて関係ないもの」

 柚希とメモリアが消えた。
 俺とスピルス、2人だけだ。

 俺はスピルスの袖を引っ張った。

「ヤるか?」

 スピルスはゴクリと息を飲む。

「私の身体が18歳になるまではしないと、約束しましたよね?」
「今のこの状況……お前のその身体が18歳になるまで生きていられる保証はないだろ?」

 スピルスは俺を見て何かをしばらく考え込んだ。

「ヴァニタス、貴方は死ぬつもりですね」
「…………」

 言葉が出ない。

 だって、『西園寺ルキアの考察』を書いたのは俺だ。
 アルビオン……天塚隆斗を生み出したのは俺なのだ。
 俺には親としての責任がある。

 それに、ウィリディシア王女は無事助けたい。
 ウィリディシア王女がマドリーンの……小雪の飼い主なら、再会させてやりたい。
 アルビオンがその為に俺の首を……俺の死を望むのであれば……。

「約束は約束です。私の身体が18歳になるまでしません」
「そんな……」

 せっかく恋仲になったのに、結ばれないまま死ぬなんて……。

「だから貴方も死なせはしません。私の身体が18歳になるまで、何がなんでも生きてもらいます」
「な……んだよ、それ」

 それができないから……。

「ヴァニタス、いいえ孝憲。親としての責任があるというのなら、アルビオンを止めなさい。この事件を解決しなさい」
「だから……」
「死なずに……です。生きて事件を解決しなさい」
「…………」
「仮に……です。貴方の前世のご両親が貴方を苦しめた責任を取るといって心中したら、貴方は満足しますか?」

 満足……しない。
 できない。
 両親が心中しても、俺が苦しんだ過去は消えない。

「アルビオンも……天塚隆斗も同じです。今更貴方が責任を取って死んだとしても、彼が苦しんだ生涯は消えないのです」

 でも、じゃあどうやって解決したらいいんだ。

 アルビオンとシルヴェスターは見つからない。
 ウィリディシア王女は無傷で助けなければならない。
 俺も死ねない。
 死んだって天塚隆斗が苦しんだ人生は消えない。

「まずは柚希さんとメモリアを待ちましょう。結論を出すのはそれからでも遅くはないでしょう」

 スピルスが俺を抱き締めた。
 その腕が温かくて……そして逞しくて。
 いつの間にかスピルスの身体が成長していたことにやっと気づいた。

 あと少しで約束の2年。
 約束を持ちかけたのは俺だ。

 生きないと。
 どんなに苦しくても、生きないと……。

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