従者に恋するお嬢様

よしゆき

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 意識が覚醒し、ソフィアはゆっくりと目を開けた。
 ぐっすりと眠れたお陰か、寝起きでも頭がすっきりしている。
 ソフィアはベッドの上にいた。シンプルだが質のいい、ワンピースタイプの寝間着を身につけている。全く覚えていないが、寝ている間にセシルが着せてくれたのだろう。
 縛られていた手首は解放されていた。体はさっぱりしているので、これもセシルが清めてくれたからだろう。
 ソフィアは下腹に手を当てた。昨夜暴かれた秘所は、まだじんじんしている。
 本当に、夢ではなかったのだ。自分は確かにセシルに抱かれたのだ。
 実感して、じわじわと顔が赤くなる。
 嬉しくて、幸せで、奇声を上げて踊りだしたいような衝動に駆られる。さすがにそれは我慢して、ベッドの上を転げ回るだけにとどめた。
 散々に転げ回ってから、我に返る。慌てて室内を見回すが、セシルの姿はなかった。ほっと胸を撫で下ろす。狂ったようにベッドの上を転げ回る姿を彼に見られてなくてよかった。
 ソフィアは改めて室内に視線を巡らせた。
 部屋に窓がない。時計もないので、今が朝なのか昼なのかもわからない。
 ベッドに鏡台、椅子とテーブル、小さな本棚が置いてある。バスとトイレの付いたワンルーム。それがソフィアのいる部屋だった。
 窓がないのは、地下だからだろうか。
 ソフィアは室内にあるドアに近づいた。ノブを握り、ゆっくりと回す。
 ドアは開かなかった。外側から鍵を掛けられているようだ。
 ソフィアは安堵した。もし開いていたら、ソフィアに逃げてくれと言っているようなものだ。
 軟禁されて喜ぶ自分をどうかとも思うが、ソフィアはセシルになら飼い殺しにされても構わない。寧ろ歓迎する。積もり積もった恋心は、随分拗れてしまったようだ。
 こんなに好きなのに、それを言葉にできない。
 セシル本人にだけは絶対に自分の気持ちを知られるわけにはいかないと、ずっと胸に秘めてきたのだ。その戒めがソフィアを頑なにしていた。
 もし、この状況でソフィアが気持ちを伝えた場合、どうなるのだろう。晴れて二人は恋人同士になれるのだろうか。わからない。
 一つ確かなのは、ソフィアは彼の重荷になりたくないということだ。この先もセシルの気持ちが変わらないという保証はない。いつか気持ちが冷めて、ソフィアが邪魔になるときが来るかもしれない。そうなった場合、ソフィアの気持ちを知らないままの方が捨てやすいだろう。それならやはり好きだと伝えるべきではない。
 いやいやいや。その考えは重すぎなのではないか。もっと軽い気持ちで、好きなら好きと伝えてしまっていいのではないか。そして両思いとなった二人は幸せに暮らすのだ。どこで? ここで? 軟禁された状態で? ソフィアはそれでも構わないが、これからもセシルに軟禁されつづけるなんてひゃっほうやったね是非お願いしますという感じだが、セシルはどうだろう。

「うううぅ……」

 頭を抱えて呻いた。
 どうすればいいのかわからない。
 自分は考えすぎなのか。自分の考えはおかしいのか。
 わからない。相談する相手もいないので、解決策も浮かばない。
 ソフィアはとりあえず考えるのをやめた。考えても答えが出ないのだ。
 テーブルに近づく。その上には食事が用意されていた。椅子に座って、空腹を満たす。
 食事を終えると、ソフィアは浴室に向かった。脱衣所には、タオルと女性用の新品の部屋着が用意されていた。下着もある。セシルがこの下着を用意したのかと思うと恥ずかしいような居たたまれないような気持ちになる。恥ずかしかったけれど、シャワーを浴びたあとはそれを身につけた。
 することのなくなったソフィアは、本を読んで時間を潰すことにした。
 時間がわからないというのは、ソフィアを不安にさせた。
 セシルは、戻ってくるのだろうか。
 一人でいると、不安が募る。ましてや、状況が状況だ。
 眠ってしまえればなにも考えずに済むが、たっぷり寝たせいか眠気はまだ訪れない。
 何時間、集中できない読書をつづけていたのか。
 やがてカチリと鍵の開く音が聞こえ、ソフィアは弾かれたように顔を上げた。
 開いたドアの向こうから、セシルが現れた。

「お帰りなさい、セシル!」

 満面の笑顔で彼に駆け寄る。
 セシルは僅かに目を見開いた。
 彼のその反応に、自分の失敗に気づく。自分を軟禁している相手に見せる態度ではなかった。
 焦るが、セシルは特に言及しなかった。

「ただいま戻りました。お食事をお持ちしました。召し上がりますか?」
「ありがとう、いただくわ」

 セシルは持ってきた食事をテーブルの上に置いた。
 椅子に座ったソフィアは、手を合わせてから食事をはじめる。
 家で食べる食事に比べると質素だったが、特に不満もなく完食した。
 
「お嬢様にお願いがあるのですが」

 食事を終えて一息ついたところで、セシルがそう切り出した。

「お願い? なに?」
「お嬢様の髪を、切り揃えさせていただけませんか」
「え、揃えてくれるの?」
「お嬢様がよろしければ」
「もちろん! 是非、お願い」

 自分で適当に切っただけなので、毛先がガタガタでみっともないのだ。
 ソフィアはその申し出を喜んで受け入れた。
 鏡台の前に座ったソフィアの背後に、セシルが立つ。
 彼はまず、櫛で髪を梳かした。
 セシルが髪に触れている。嬉しかった。綺麗だと言われたことはあるが、彼が髪に触れたことはない。ずっと触れてほしいと思っていた。こんなことなら髪を切らなければよかったと、後悔した。こうなるとわかっていたら切らなかったのに、と。
 髪に触れるセシルの手は優しい。真剣な表情で髪を梳かす彼を鏡越しに見つめた。嬉しくて、つい顔が緩んでしまう。
 セシルは櫛を置き、鋏を手に取った。ゆっくりと慎重に、髪を切っていく。
 その様子を、ソフィアはじっと見ていた。
 セシルは髪を一房掴む。彼の顔は暗い。

「セシルは、髪が長い方がいい……のよね……?」

 口をついて出た言葉に、ソフィア自身不安になった。
 髪はまた伸ばせばいいが、時間がかかる。短い髪はセシルの好みではないだろうか。
 セシルははっとして、掴んでいた髪を離した。微笑み、首を横に振る。

「切ってしまったことはもったいないとは思いますが、どちらがいいということはありません。長い髪も短い髪も、お嬢様に似合っています。どんなあなたも、私は好きです」
「!」

 私も!! と、全力で返した。心の中で。
 ソフィアの心中には気づかず、セシルは再び鋏を動かす。
 鋏の音を聞きながら、ソフィアは気になっていたことを尋ねた。

「そういえば、どうしてセシルに魔法が効かなかったの?」
「魔法ですか?」
「私が家を出ようとしたとき、門の前でセシルに止められたでしょう。そのとき私、セシルを眠らせようとして魔法を発動したのだけど……」
「ああ。私は、魔法が効かない体質なのですよ」
「そうだったの」

 はじめて知る事実に、ソフィアは目を丸くした。
 魔法が効かない体質を持つ者は少なからず存在する。けれどセシルがそうだったとは知らなかった。彼に向けて魔法を使ったこともなかったので、教えられなければ気づかないことではあるが。
 セシルは鋏を置いた。

「終わりました」
「ありがとう、セシル」

 笑顔で礼を言うと、セシルは複雑な表情を浮かべた。
 また失敗した。ソフィアは軟禁されている状況だが、その状況を喜んでいるので彼に対して冷たい態度はとれない。しかしセシルからすれば、ソフィアのこの態度は異常なのだろう。
 気持ちを伝えないまま軟禁を受け入れるのは難しいかもしれない。
 好きとは言えない。好意的な態度は彼を困惑させる。彼を傷つけるような言動はしたくない。
 どうすることもできない現状に、ソフィアは歯噛みした。
 悶々とするソフィアを、セシルはベッドに促した。
 また抱いてもらえるのかと期待したが、そうはならなかった。
 セシルはソフィアの父に雇われている。あの家で生活しているのだ。食事を届けるために抜け出してきただけで、すぐに戻らなければならない。
 彼の負担にはなりたくないので、ソフィアはおとなしく彼を見送った。
 一人にされるのは寂しかったが、「また来ます」という彼の言葉を胸に、ソフィアは眠りに就いた。





 
 ソフィアが起きると、テーブルの上にはきちんと朝食が用意されていた。
 全く気づかなかったが、ソフィアが寝ている間にやって来て置いていってくれたのだろう。彼はきちんと休めているのだろうか。彼の体調が心配だった。こんな生活をつづけていたら、体を壊してしまう。
 朝食になるのか昼食になるのかわからないが、食事を済ませた。
 それから、ソフィアは考える。これからのことを。
 やはり、このまま軟禁生活をつづけるのは難しいのではないか。ソフィアは問題ないのだが、セシルの負担が大きすぎる。
 セシルには仕事がある。職場を抜け出して、毎日ここまで通い、ソフィアの食事を用意するのだ。抜け出していることに気づかれれば、不審に思われるだろう。うまく誤魔化せればいいが、もし万が一、ソフィアを軟禁していることがバレたら。その可能性を考えてゾッとした。
 でも、どうしたらいいのだろう。セシルから逃げる? そんなのは嫌だ。しかしもしものことを考えたら、このまま軟禁されつづけるのは危険だ。
 セシルにとってどうすることが最善なのだろう。
 彼が行動を起こしたのは、ソフィアが家出を企てたことが原因だ。ソフィアが、彼の傍を離れようとしたから。
 ならば、ソフィアが家に戻れば丸く収まるのだろうか。主人と従者に戻れば。何事もなかったのように、以前の生活に戻れば。
 戻れるのか。彼の気持ちを知って。純潔を捧げて。それなのに、また彼の主人に戻るなんて。そうなったら、もう触れてもらえなくなる。
 今までは我慢できた。でも、今更以前の関係に逆戻りして、自分はそれに耐えられるだろうか。
 セシルの為ならば、耐えられる。耐えてみせる。
 こんなことなら、彼を止めるべきだったのだ。
 説得して、解放してもらうべきだった。
 それなのに、ソフィアは自分の欲望を優先した。
 彼に抱いてほしかったから。触れてほしかったから。
 軟禁されて喜んでいた。
 自分の気持ちも伝えないまま、彼に身を委ねた。
 セシルはどんな気持ちで自分を抱いたのだろう。
 ソフィアにとってはそうではなかったが、セシルにとっては強姦だ。
 今になって、自分がどれだけ浅はかだったのかを思い知った。
 セシルは好きだと言ってくれた。愛していると、まっすぐに伝えてくれた。
 それなのに、自分はなにも言えなかった。
 ソフィアが家を出ようとしなければ、彼が気持ちを伝えることはなかったのだろう。ソフィアと同じように、ずっと自分の気持ちを隠してきた。
 ずっとずっと、伝えてはいけないと隠してきた気持ちを、彼は口にしてくれたのに。
 どうして自分は、その気持ちに応えなかったのだろう。
 ソフィアは取り返しのつかない過ちを犯してしまった。そのことを、深く悔やんだ。
 彼の気持ちに応えたい。自分の気持ちを伝えたい。過ぎてしまった時間は戻せないけれど、これからの時間はソフィアの行動でどうにでもなる。
 気持ちを伝えたあと、どうなるかはわからない。
 でも、これ以上自分の気持ちを隠したままでいたくない。
 セシルが来たら、彼に言うのだ。自分の気持ちを正直に。
 ソフィアはそう決心した。





 けれど、セシルはなかなかやって来なかった。時間を確かめる術がないので現在の時間はわからない。でも、昨日彼が現れた時間からは、随分過ぎているはずだ。
 そわそわと、部屋の中を歩き回る。
 今日はもう来ないのだろうか。抜け出すのが難しい状況にあるのかもしれない。
 それならそれで、いいのだけれど。
 でも、もし、もしも、考えたくはないけれど、事故に遭っていたとしたら。
 ソフィアは血の気が引いていくのを感じた。
 それとも、なにかの事件に巻き込まれているのかもしれない。
 嫌な考えばかりが浮かんでくる。
 良心の呵責に苛まれ、全てを打ち明けていたらどうしよう。ソフィアを拐い、軟禁していることを。
そうなれば、セシルと引き離されてしまう。
 ぐるぐると、思考が回る。
 もう二度と彼に会えないのではないか。そんな恐怖に怯えた。
 足が震える。がくりと力が抜け、その場に座り込んだ。
 まだ、彼に自分の気持ちを伝えていないのに。
 どうして伝えなかったのだ。
 こんなに好きなのに。彼のことだけが、ずっとずっと、こんなにも好きなのに。
 セシルはそのことを知らない。
 どれだけソフィアが彼を愛しているのか、ソフィアの気持ちなど、全く、これっぽっちも知らない。
 それどころか、ソフィアは元婚約者のことを好きだと思っている。
 嫌だ。
 そんなのは嫌だ。
 ぽろぽろと涙が零れた。
 どうして好きだと言わなかったのだろう。
 彼は言ってくれた。愛を伝え、抱いてくれた。
 それなのに。言おうと思えば、いつだって言えたはずなのに。
 どうして。
 嗚咽が漏れる。
 苦しい。
 今すぐセシルに会いたい。好きだと言いたい。
 鍵の開く音が聞こえた。
 顔を向けると、ドアが開いた。
 セシルが、そこにいた。
 更に涙が溢れ、止まらなくなる。

「遅くなりまして、申し訳ありません。……っ」

 ソフィアが泣いていることに気づき、セシルは息を呑んだ。持っていた食事をテーブルに置き、ソフィアに駆け寄る。

「どうしたのです、お嬢様!?」
「セシル……!」
「っ……」

 ソフィアは彼に抱きついた。首に腕を回し、ぎゅうぎゅうとしがみつく。

「お嬢様……?」
「セシル、セシル……うぅっ……」

 セシルはソフィアを抱き上げ、ベッドに移動した。
 ベッドに座る彼の膝の上に乗せられ、ソフィアは顔を見られるように体を離した。ちゃんと彼の顔を見て伝えたい。
 涙でぐちゃぐちゃだけれど、しっかりと彼と視線を合わせ、ソフィアは言った。

「セシルが好き、大好き……」
「っ…………」
「セシルがずっとずっと好きなの。セシルだけが好き。セシル以外の人を好きになったことなんてない。ずっと、私にはセシルだけ」
「お嬢様……」

 セシルは瞠目する。

「すぐに、好きって言えなくてごめんなさい。セシルは、言ってくれたのに……」
「お嬢様は、あの男が……元婚約者が好きだったのでは……」

 ソフィアは大きく首を横に振る。
 誤解なのだと、必死に訴えた。

「違うの! あんな男好きじゃない!」
「でも、婚約を破棄されたことがショックだったのですよね……それで家を出て……」
「そうじゃないの。婚約破棄されたのは、私がそうなるように仕向けたからで……」
「え……?」

 呆然とするセシルに、もごもごと説明する。

「私はずっとセシルが好きだったから、誰とも結婚するつもりはなくて……でも婚約を申し込まれちゃって、断りにくい相手だったから仕方なく受け入れて……でもでも絶対に結婚はしたくなかったから、相手が私から興味をなくすように色々仕向けて……」
「…………」
「家を出たのは、またいつ婚約を申し込まれるかわからないから……元々、いつかは家を出ようと思ってたの。セシルが好きだから他の人と結婚なんてしたくないし、今回みたいにでも断れない場合もあるから……家を出ちゃえば、結婚の心配はなくなるし」
「…………」
「髪を切ったのは、失恋のショックとかそういうのじゃなくて、単に邪魔だったからで……手入れとか大変だし……ただそれだけなの」
「…………」
「ごめんね、ごめんなさい、セシル。もっと早く言わなきゃいけなかったのに……。そのせいで、セシルを傷つけたよね……」

 じわりと新たな涙が滲み、セシルの指がそれを拭った。

「いいえ、いいんです。お嬢様が謝ることはなにもありません。でも、本当に、私のことが好きだと……? あなたを拐い、ここに閉じ込めたのに……そんな私を、好きだと言ってくれるのですか……?」

 不安に揺れるセシルの瞳をしっかりと見つめ、頷いた。

「好き。ずっと叶わない恋だと思ってたから、セシルが拐ってくれて、閉じ込めてくれたのが嬉しかった。触れてもらえて、本当に幸せだったの」
「では、どうして泣いていたのですか……」

 子供のように泣きじゃくってしまったことを思い出し、ソフィアは赤面した。

「あ、あれは……一人でいると怖いことばかり考えちゃって……。セシルがもうここに来ないんじゃないかって……もう二度とセシルと会えなかったらどうしようって……そんなこと考えて悲しくなって泣いちゃったの……」
「そうだったのですね……。不安にさせて申し訳ありません」

 セシルは安心させるように強く抱き締めてくれた。

「私の帰りが遅かったせいですね。すみません……仕事の引き継ぎなどで時間がかかって……」
「……引き継ぎ?」
「はい。仕事を辞めてきたので」
「え!?」

 びっくりして、まじまじとセシルを見据える。

「どうして……」
「私はあなたの従者としてあの家に雇われていました。私の雇い主はあなたの父親ですが、私の主人はあなたです。仕える人がいなくなってしまった以上、あの家にいる意味はありません。その旨をお伝えし、辞めさせていただきました。その手続きや色々な準備で遅くなってしまったのです」
「そ、そんな……よかったの……?」

 セシルはさらりと言うが、そんな簡単なことではなかったはずだ。

「あなた以外の従者にはなりたくありませんから」
「で、でも、私が家に戻れば……それなら、また私の従者として、あの家にいれたのに……」
「家に戻りたいのですか?」

 静かな問いかけに、首を振って否定する。
 セシルは微笑んだ。

「今更、戻すつもりはありませんよ。たとえあなたが望んでも、私はもうあなたを離しません」

 胸がきゅうっと締め付けられた。
 今はもう、隠す必要のない自分の気持ちを素直に伝える。

「私も、セシルの傍にいたい。セシルを離したくない……」

 ソフィアの言葉に、彼は嬉しそうに目を細めた。 心から、喜んでくれている。それが伝わってきて、ソフィアも嬉しくて胸がいっぱいになった。
 すりすりと彼の肩に頬擦りし、ソフィアは自分のお腹を撫でた。

「安心したら、お腹空いてきたかも……」

 ぽつりと呟くと、セシルは笑った。

「すっかり遅くなってしまいましたね。どうぞ召し上がってください」

 セシルはソフィアを抱き上げてテーブルまで運んでくれた。
 幸せな気持ちで食べる食事は、とても美味しかった。





「あぁっ、あっ……あんっ」

 甘ったるい喘ぎ声が室内に響く。水音と、ベッドの軋む音がそれに混じって聞こえていた。
 食事を終え、入浴を済ませたあと。ソフィアはベッドの上でセシルと触れ合った。
 ベッドボードに背を預け座った状態の彼の腰に、跨がる体勢で秘所を貫かれていた。
 お互いなにも身につけず、裸で抱き合う。彼の肌に触れ、直接温もりを感じられることが嬉しかった。はじめてのときはソフィアは両手を拘束されていたし、セシルは衣服を身につけたままだった。
 けれど今は、思う存分彼に触れることができる。
 ソフィアは腕を伸ばして彼に縋りついた。

「ふあっ、せしる、せしる、好き、大好き……っ」

 今まで我慢していた分を吐き出すように、何度も彼に好きだと伝える。
 セシルはうっとりと微笑み、ソフィアの顔に口づけを落とした。

「私も好きです、愛しています、お嬢様……」
「……名前、呼んで……」
「え……?」
「セシルは、もう私の従者じゃないでしょ? だから、名前で呼んで……」

「お嬢様」ではなく、名前で呼ばれたい。そう訴えると、セシルは蕩けるような笑顔を浮かべた。

「そうでしたね、あなたはもう、私の主人ではない……私の、私だけの可愛い恋人ですね、ソフィア」
「っ〰️〰️〰️〰️!」

 耳元で名前を囁かれた瞬間、ソフィアは達していた。
 連動してぎゅうっと膣が締まり、セシルにも知られてしまう。

「っふふ……名前を呼ばれただけで達してしまったのですか? 可愛いですね、ソフィア」
「んあぁっ、だめ、名前、だめぇ……っ」
「なぜ? ソフィアが呼んでほしいとねだったのでしょう」
「ああっ、あっ、せしるぅっ」
「ほら、体は喜んでいますよ。わかるでしょう、ソフィア。はっ……名前を呼ぶ度に、ソフィアのここが、締まってっ……今も、また……っ」
「だめ、だめ、待って、あんっ」

 いやいやとかぶりを振って懇願するが、セシルは意地悪だった。

「私に名前を呼ばれるのは嫌なのですか、ソフィア?」
「ひぁっ、違うの、嬉しくて、体が、喜んで……あっ、だめ」

 体がコントロールできなくなる。名前を呼ばれているだけなのに、感じすぎてしまうことが怖いのだ。
 セシルの手が、ソフィアの体を優しく撫でる。

「嬉しいのなら、そのまま感じてください。私が名前を呼ぶだけで、快感に体を震わせるソフィアは、とても可愛らしい。その姿を、もっと私に見せてください」

 そんなことを言われたら、ソフィアは拒めない。
 セシルの体に強くしがみつくことでそれを受け入れた。

「ソフィア、ソフィア……可愛い、愛してます、ソフィア……っ」
「ひゃあんっ、あっ、セシル、好き、ああっ」

 体が密着すると、乳房がセシルの胸板に擦れた。 はじめて目にした彼の体は美しく鍛えられていて、ソフィアは思わず見惚れた。
 その、引き締まった筋肉のついた彼の胸に、乳首が押し潰される。
 鋭い快感が走り抜け、体が愉悦に震えた。はしたなくも、硬い彼の胸に乳首を擦り付けてしまう。
 気づいたセシルが笑い、吐息が耳に吹き込まれた。

「必死に擦り付けて、可愛いですね。気持ちいいのですか?」
「気持ちいいっ、胸、擦れて、ひんっ、恥ずかしいのに、気持ち、よくて……っ」
「ああ、可愛いです、ソフィア。もっともっと、快楽に乱れるあなたが見たい」
「っああぁ……!」

 腰を突き上げられ、ソフィアは喉を反らせて嬌声を上げた。
 下から何度も膣内を穿たれる。強い刺激に翻弄される。ソフィアは必死に彼に縋った。

「セシル、あっ、あっ、気持ちいい、セシル、好き、好き、セシルっ」
「っあ、ソフィア、愛してます、ソフィア、ソフィア……く、う……っ」

 どちらからともなく口づけを交わした。激しく唇を重ね、舌を絡め合う。
 ぴったりとくっついて、ぐちゃぐちゃに混ざり合うような感覚がした。ただ必死に、互いに互いを求め合う。
 やがてソフィアは絶頂を迎えた。
 セシルの熱も弾けるのを感じた。熱い体液を注がれ、ソフィアは幸福感に包まれる。
 
「ソフィア、愛しています……」
「私も、愛してる……セシル……」

 その後も何度も体を重ね、ソフィアは気絶するように眠りに落ちた。





 目を覚まし、隣にセシルの姿を見つけ、ソフィアの頬は緩んだ。同じベッドの上にいて、一緒に寝て、目が覚めてすぐに彼の顔を見られるなんて、こんな幸せがあっていいのだろうか。
 しかも輝くような笑顔を向けられているのだ。心臓が破裂しそうだった。

「おはようございます、ソフィア」
「お、おは、よう、セシル……」

 ドキドキする胸を押さえ、どもりながら挨拶をする。

「昨日は無理をさせてしまいました。体は大丈夫ですか?」
「大丈夫、です……。あの、無理とかそんなことなくて……嬉しかった、です……」
「ふふ。どうしたのです? 私相手に緊張していらっしゃるんですか?」
「う……」

 セシルの笑顔は眩しく、神々しささえ感じられた。心臓を撃ち抜かれ、ソフィアは真っ赤になって口籠る。ときめきで心臓が止まってしまうのではないかと思った。
 ベッドの上でのんびりとした時間を過ごし、それからこれからのことを話し合った。

「ソフィアは別の国へ行くつもりだったのでしょう? ならば当初の予定通りそうしましょう、私と一緒に」
「一緒に、行ってくれるの……?」
「この期に及んで、私から離れるつもりだとでも?」

 セシルの笑顔が怖かった。冷たいオーラを感じ取り、ソフィアは慌てて否定する。

「違うの! セシルはこの国を出るのは嫌じゃないの? 私は別に、セシルがいてくれるならどこでもいいのよ。無理に国を出ないで、この街から離れるだけでも……」
「私も同じですよ。ソフィアが傍にいてくれるなら、場所なんてどこでもいいです。でも、この国にいては安心できないでしょう? あなたの父上は、あなたの意思を汲んで捜索はしないとおっしゃっていましたが」
「ほんと? 捜さないでいてくれてるの?」
「ええ。でも、ソフィアが自由に外を出歩くには、やはりこの国を離れた方が安心です」

 確かにそうだ。人の目というのはどこにでもあり、それに怯えずに暮らすには、やはり別の国の方がいいだろう。

「私と一緒に、行ってくださいますね?」
「もちろん。セシルが一緒なら、どこにだって行くわ」

 広げられた腕の中に、ソフィアは迷わず飛び込んだ。






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