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弟の幸せを願った結果
しおりを挟む弟を守るために、幼い頃から両親に娼夫のような真似をさせられる兄。それが弟に知られ、キレた弟に監禁される兄の話。
両親がクズです。兄が不憫です。
異世界 弟×兄 近親相姦 ショタ 残酷・流血表現
ヤンデレ 監禁
───────────────
ガチャガチャと、金属の音が部屋に響く。ベッドに繋がれた手錠を外そうと、躍起になって腕を動かす。けれど頑丈な手錠はその程度では外れない。それでもセシリオは諦めずに、何度も頭上で腕を振りつづけた。
「兄さん、またやってるの?」
聞こえてきた声に顔を向けると、セシリオをこうして手錠で繋いでいる張本人、弟のエミリオが部屋に入ってくる。
「いい加減、諦めたら? 僕は兄さんを逃がすつもりはないよ」
エミリオはベッドに膝をつき、セシリオに覆い被さり唇を奪う。
すぐに口の中に舌を挿入され、口内を貪られる。
セシリオはそれを黙って受け入れた。
「抵抗しないくせに、逃げようとするんだよね」
唾液に濡れたセシリオの唇を、弟の舌がねっとりとねぶる。
「兄さんは僕のものなんだから、勝手にいなくなっちゃだめだよ」
「ふぁっ……」
官能的な手付きで体を撫でられ、喘ぎ声が勝手に口から漏れた。
「ねぇ、兄さん」
蕩けるように甘い声音で、弟が兄を呼ぶ。
こんな風になってしまった弟を見るたび、泣き喚きたくなる。
身体中に弟の唇の感触を感じながら、セシリオはその衝動をぐっと堪えた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
セシリオとエミリオの両親はクズだった。父親は酒とギャンブルに溺れ、母親は男と遊び回る。実の子供であるセシリオとエミリオには全くの無関心で、だからセシリオとエミリオを育ててくれたのは父方の祖父母だった。両親がいなくても、祖父母がセシリオとエミリオにご飯を食べさせ、可愛がってくれた。贅沢はできないが、それでも平和な日々を送っていた。
しかし、セシリオが十歳のとき、祖父母が事故で亡くなった。セシリオは自分と弟を庇護してくれる存在をなくし、とてつもない不安に襲われた。弟はまだ五歳だ。守ってくれる大人はいない。セシリオが、幼くか弱い弟を守らなくてはならない。セシリオはなんとしても弟を守ろうと、そう決心した。
祖父母の年金で生活していた両親は焦った。自分達が働いて稼ぐという考えを持たない彼らは、いかにして楽に金を手に入れるか、そんなことに頭を悩ませていた。お互い浮気ばかりしているくせに、そういうところはとても気が合うのだ。
弟を守ると決心したが、セシリオもまだ十歳だ。自分で金を稼ぐ力はまだない。両親が金を稼いできてくれなければ、自分も弟も餓死してしまう。助けを求められるような身内もいない。
そんなとき、両親はセシリオを使って商売をはじめた。身分の高い貴族達に、金を貰ってセシリオを貸し出すのだ。
セシリオはとても整った顔立ちをしていた。とりわけ、少年愛者に好かれる容姿だ。金持ちなら、金を払ってでも組み敷いて劣情をぶつけたいと思うほどに。
セシリオの意思など、もちろん両親は尋ねもしなかった。彼らの中では既に決定事項で、セシリオに拒む権利などない。
セシリオは嫌だった。当然だ。中年の男に体を好き勝手されるなど、おぞましい。恐怖と嫌悪しか感じない。
それでも、それでエミリオを守れるならセシリオは耐えられた。弟にちゃんとしたご飯を食べさせるためのお金は欲しいと両親に頼めば、一応頷いてくれた。
それから、セシリオにとって地獄のような日々がはじまった。
毎日のように、自分を買った男の相手をさせられる。セシリオを痛め付け、苦痛に歪む顔を見たがる者。薬を飲ませ、快楽に溺れさせる者。優しく甘やかす者もいたが、結局はセシリオを抱くことには変わらない。望まぬ相手との性行はセシリオにとって辛いだけだ。そもそも、子供の体で受け入れるのはかなりの負担だった。
辛くて苦しくて、それでもセシリオは泣き言も言わず、されるがままに受け入れた。逆らわず、拒絶も抵抗もせず、人形のように大勢の大人に抱かれた。
それもこれも、全部エミリオのため。
「エミリオ、お菓子を買ってきたんだ」
余った僅かな生活費を貯めて、たまにエミリオにお菓子を与えた。焼き菓子一つに、エミリオは瞳を輝かせて喜んだ。
「おにいちゃん、ありがとう!」
満面の笑顔でお菓子を受け取るエミリオの頭を、優しく撫でた。
本当はもっと、好きなだけ食べさせてあげたい。セシリオは充分に稼いでいるが、その殆どを両親はあっという間に使い果たしてしまう。
「おいしいよ、おにいちゃん!」
「よかった」
「ねぇ、おにいちゃんも食べて」
ずいっとお菓子を差し出され、セシリオはやんわりと首を振った。
「おれはいいよ。全部エミリオが食べて」
「や! おいしいの、おにいちゃんも食べて!」
「わかったよ」
強引に口に押し付けられ、セシリオは少しだけ齧った。
「うん。美味しいね」
「ねー」
にこりと笑えば、エミリオも嬉しそうに顔を綻ばせた。
天使のように愛らしい、セシリオの弟。なによりも大切な、可愛い可愛いセシリオの弟。
弟と二人きりで過ごす時間が唯一の癒しだった。
弟の存在が心の支えだった。
弟のためならばなんでもできる。どんなに辛いことも耐えられる。痛くても苦しくても、この笑顔を守るためならなんだってしてみせる。
温かくて柔らかい弟の体を、ぎゅっと抱き締めた。
セシリオの体の成長は平均よりも遅かったが、それでも背は伸び、顔つきも徐々に幼さが抜けていく。そうなると、今までセシリオを買っていた大人達の好みから少しずつズレはじめる。だんだんとセシリオを抱きたがる者が少なくなっていった。
すると、当然のように両親は今度はエミリオに目をつける。
「お前が売れなくなったら、今度はエミリオだな」
セシリオが十五を過ぎた頃、父親がそう言った。
恐れていたことが現実になった、とセシリオは青ざめた。エミリオはセシリオと同じく人形のように綺麗な整った顔立ちをしている。
いつかそう言い出すのではないかと、セシリオはずっと怯えていた。自分の気づかぬ内に、大事なエミリオが変態どもに売り出されていたらと思うと怖くて仕方がなかった。
セシリオは土下座し、床に額を擦り付ける。
「お願いします、それだけは許してください。俺が、もっと頑張ります。もっともっと稼ぎます。なんでもします。だからエミリオには、こんなことさせないでください」
泣いて縋って、必死に頼み込んだ。それでとりあえず、エミリオを貸し出すという話は流れた。
しかし、安心はできない。セシリオが使えなくなれば、両親は躊躇なくエミリオにも同じように金を稼がせるだろう。
成長するにつれ、客層は変わっていった。セシリオの体に傷をつけ、それを喜ぶ客が増えた。前は傷がついているのを嫌がる客も多かったので、痛め付けはしても体に傷が残るようなことはあまりされなかった。だが今では、普通にナイフやムチで傷つけられる。そういうことを好む客ばかりになった。そういう客の方が金を稼げるので、そういう客ばかりに売られるのだ。
死なない程度の血を流し、痛みに悶えながら男に抱かれる。
体は傷だらけだったが、辛うじて顔は傷つけられずに済んでいた。顔は隠せないが、体は服で隠せる。だから、エミリオにも隠し通すことができた。お風呂に一緒に入れなくなったことで、エミリオは寂しそうにしていたが、こんな傷ついた体を見せるわけにはいかなかった。
セシリオが貸し出されるのは昼間が多いので、夜は大体家にいられた。
小さなベッドで、エミリオと同じ布団にくるまって眠る。昼間は一緒にいられる時間が少ないので、夜はここぞとばかりに甘えてくる。そんなエミリオが、堪らなく可愛かった。
小さな手でしがみついてくるエミリオを、優しく抱き締める。
「お兄ちゃん、明日もお仕事なの?」
「うん。エミリオはいい子でお留守番しててくれ」
セシリオは仕事に行っているのだと、弟に説明していた。あれでお金を稼いでいるので、間違ってはいない。もちろんどんな仕事をしているかは言えないけれど。
両親は遊び歩いて殆ど帰ってこないので、エミリオは家に一人でいることになる。まだ幼い彼を一人きりにするのは気が引けた。寂しい思いをさせているのはわかっていたが、預けられる場所もない。
「ごめんな、エミリオ。ずっと一緒にいてやれなくて」
「ううん。僕、寂しいけど、我慢できるよ」
「エミリオは偉いな」
頭を撫でれば、エミリオは嬉しそうに笑った。
「僕いい子で待ってるから、お兄ちゃん、ちゃんと帰ってきてね。僕を一人にしないでね」
「当たり前だろ。俺はずっとエミリオと一緒にいるよ。一人になんてしない。なにがあろうと、お兄ちゃんはエミリオの傍にいるから、安心しろ」
「えへへ。お兄ちゃん、大好き」
すりすりと、エミリオはセシリオの胸に頬を押し付ける。
エミリオさえいてくれれば、それでいい。
エミリオが傷つかず、ひもじい思いをすることなく、虐げられることなく、平穏な日々を過ごせるなら、他にはなにも望まない。
自分の平穏など望まない。
どれだけ傷ついても構わない。
エミリオさえ、幸せでいてくれるのなら。
それだけでよかったのだ。
しかし、現実はなに一つセシリオの思い通りになどならない。
セシリオは十八になり、いよいよ売れなくなってきた。年齢よりも、体の傷が増えすぎた。そういうのを好む客ももちろんいるが、数は少ない。
「お前を買い取りたいって客がいるんだ。だから、売れる内に売り払うことにしたからな」
父に告げられた言葉に、セシリオは愕然とした。
嫌な予感に、頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響く。
「え……売り、払うって……」
「お払い箱ってことだ。どうせもう、お前じゃ大して稼げないからな」
「ま、待ってください……。俺が売り払われたら……エミリオはどうなるんですか……?」
「わかってんだろ? あいつを借りたいって客は、もうわんさかいるんだ」
「そ、そんな……」
全身から血の気が引いていく。がくりとその場に膝をついた。
「お前がうるさいからここまで待ったんだ。お前はもう売れないし、だったらあいつに稼いできてもらうしかねーよな」
「待って、待ってください……!」
エミリオだけは守りたかった。弟にだけは幸せになってほしかった。
そうでなければ、自分は今までなんのために耐えてきたのだ。
父の足に縋りつく。
「お願いします、それだけは……それだけはやめてください……! エミリオだけは、許してください! なんでもします、俺が、なんでもしますから! お願いします、お願いします!」
「うるせーな。お前じゃもう金にならねーんだよ」
「あ゛ぅっ……」
がつっと肩を蹴られ、引き剥がされる。
セシリオは蹴られようと殴られようと、必死に追い縋った。
「お願いします! 俺はどうなっても構いません! だからどうか、エミリオだけは……!」
「なにしてるの?」
「っ……!?」
聞こえてきた声に、セシリオは弾かれたように顔を上げた。振り返れば、開いたドアの向こうにエミリオが立っていた。
彼は買い物に出ていたのだ。帰ってきたことにも、ドアを開けられたことにも全く気づかなかった。
とんでもない場面を見られてしまった。
「兄さん、なにしてるの? なんの話をしてたの?」
「エミリオ……」
無表情のエミリオが問うてくる。
言い訳などなにも思いつかない。
焦燥に駆られるセシリオとは反対に、父は笑った。
「ははっ、ちょうどいーじゃねーか。教えてやれよ、お兄ちゃん。可愛い弟に、男に媚びる方法をよ」
「なに、なに、言って……」
セシリオははくはくと口を開閉する。下卑た笑みを浮かべる父を止めたいのに、喉が詰まったように声が出ない。
「変態オヤジどもにケツを掘られる気分はどうだったか。これからあいつはお前と同じ目に遭うんだ。先輩として、詳しく教えてやればいい」
「はっ……っ……」
「今まで散々汚ねーちんぽ、上からも下からも咥え込んできたんだろ。弟がうまく可愛がってもらえるよう、やり方を説明してやれよ。どうすれば喜ばれんのか、なにを言えば楽しんでもらえんのか」
「や、やめ、やめ……っ」
エミリオには知られたくない。
汚れきった自分の姿を見られたくない。
エミリオには、なにも知らないままでいてほしかった。
こんな下衆な父親も。穢らわしいセシリオのことも。
なにも知らず、綺麗なままでいてほしかった。
エミリオの顔を見られない。
「兄さん」
抑揚のない声音に呼ばれて、びくっと肩が跳ねる。
強張った顔を向けると、エミリオは先ほどと変わらず無表情だった。だから、彼が今なにを考えてどう思っているのかわからなかった。
「今の話、本当なの?」
「あ……」
「父さんが言ってること、本当なの?」
「っ……」
否定も肯定もできず、開いた口から息だけが漏れた。否定できないことが、なによりも答えだった。
なにも言えないセシリオに代わり、父が言う。
「はっ、黙ってないで教えてやれって。たくさんの変態オヤジどもの性欲処理をしてたんだってな。そうやって稼いだお金で、お前は美味しいものを食べられたんだぞって、胸を張って言ってやれよ」
「や、もう、やめ……」
弱々しくかぶりを振る。
体の震えが止まらない。込み上げる涙が怒りのせいなのか悲しみのせいなのかわからない。
どうすることもできず、セシリオは項垂れた。
すたすたと、こちらに近づいてくる足音が聞こえる。
ああ、そうだ。ぼんやりしている場合ではない。このままでは、エミリオが危険だ。彼だけでも逃がさなくては。ここまで守ってきた大切な弟を、自分と同じ目に遭わせるわけにはいかないのだ。
顔を上げると、エミリオはもうすぐ傍まで来ていた。
逃げろ、と言おうとして、口を開く。
その前に、エミリオは父に向かって腕を突き出した。
なにをしたのかわからず、セシリオは黙ってそれを見ていた。
次の瞬間。
「ぐはっ、げぼぉ……っ」
父が血を吐いた。
やはりなにが起きたのかわからず、セシリオは呆然と滴り落ちる血を見つめた。
濃厚な血の匂いが辺りに充満する。
父の胸がじわりと赤く染まるのが目に入った。父に向かって突き出されたエミリオの手も、血で汚れている。
そこで漸く気づいた。エミリオがなにかを握っていることに。そのなにかを握ったまま、エミリオはぐりっと手首を捻った。
父の胸から血がだばだばと吹き出す。エミリオにも血が飛び散る。
エミリオは腕を引いた。彼の手に握られていたのは包丁だった。包丁の刃も真っ赤な血が滴っている。
父親の体が後ろに倒れた。
それを、セシリオはただ見ていた。
目を見開いたまま、苦悶の表情を浮かべて動かなくなった父。床に広がる真っ赤な血液。
なにが起きているのか、理解できない。いや、理解することを頭が拒んでいる。
ほんの少し前まで動いて喋っていた父が、目の前で死んでいる。殺されたのだ。
「はっ……はあ……はあっ……」
呼吸が乱れる。うまく息を吸えない。
しっかりしなくては、と頭の隅の冷静な自分が声を上げる。呆けている余裕はない。
「エミリオ、に、逃げないと……いや、俺が殺したことにするから、お前は口裏を合わせて……」
すぐ傍で父親が死んでいるのに。弟が父を殺したのに。悲しむことも嘆くこともなく。セシリオはただ、弟を守ることしか考えていなかった。
自分が罪を被ればいい。そうすればエミリオは守られる。なにも心配することはない。
「こんなクズのこと、今はどうでもいいよ、兄さん」
ひどく冷淡な声音で紡がれたその言葉が、エミリオのものだと俄には信じられなかった。
呆然と見上げれば、返り血を浴びたエミリオが、まっすぐにこちらを見下ろしていた。
自分で殺した父親のことなど全く気にも留めていないような無表情で、セシリオだけを見つめていた。
「ねぇ、兄さん。まだ僕の質問に答えてないよね?」
「ぁ……え……?」
「さっき父さんが言ってたこと、本当なの?」
「っ……」
もう彼にもわかっているはずだ。それなのに、エミリオはあくまでセシリオの口から言わせたいらしい。
ここまできて、セシリオは口に出すのを躊躇った。
自分の口で、彼に聞かせたくなかった。
黙り込むセシリオの腕を、エミリオは掴んだ。強く引っ張られ、立ち上がる。
そのまま寝室へ連れていかれた。セシリオは逆らわない。
無抵抗のセシリオを、エミリオはベッドに突き飛ばす。
「っエミリオ……」
服を脱がされそうになった段階で、セシリオは激しく拒絶した。
「や、やだ、やめろ、エミリオ……!」
しかし精神的にも肉体的にも弱っていたセシリオは、五歳下の弟に敵わない。見たこともないほど冷たい弟の顔にも、今の状況にも動揺していて、まともに体も動かせなかった。
抵抗も空しく、服を捲り上げられセシリオの体が露になる。
傷だらけの醜い体が、エミリオの目に晒される。
「やめ、見るな、見ないで……!」
じわりと涙が滲む。
エミリオの手が、セシリオの肌に触れた。
「ひっ……」
「こんなに、傷つけられて……」
「ぁ……う……」
「だめじゃない、兄さんは、僕のなのに」
「エミ、リオ……?」
「僕以外に触れさせて、傷つけられるなんて、許せない」
エミリオはセシリオの服を脱がせる。脱がせた服でセシリオの手首を縛り、頭上でベッドに括った。
「エミリオ……なにを……」
「この傷跡、全部僕が上書きしないとね。でも量が多いから、少しずつにしようか。本当はすぐにでも済ませちゃいたいけど、一気にしたら兄さんが可哀想だもんね」
弟がなにを言ってるのかわからない。
セシリオを見る彼の顔にはいつものように表情が戻っていたが、その瞳は暗く澱んでいる。
笑顔を浮かべながら、エミリオの双眸は全く笑っていない。
「エミリオ……どうして……なにをするつもりなんだ……?」
「だから、上書きするんだよ。僕の兄さんに、僕以外がつけた傷があるなんて許せないからね」
そう言って、エミリオは手に持ったままの血塗れの包丁を掲げる。しかし包丁を目にして、エミリオはぴたりと動きを止めた。
「ああ、これじゃだめか。こんな汚い血で汚れたので、兄さんを切るわけにはいかないね」
にっこり笑って、エミリオは部屋を出ていった。そしてナイフと救急箱を持って戻ってくる。
「待たせてごめんね。すぐに切ってあげるから」
セシリオの脇腹につけられた、刃物で切られた傷痕。その痕を、エミリオは更に深くナイフで抉った。
「ぃああっ」
肉を切られ、思わず悲鳴を上げる。散々傷つけられて慣れているとはいえ、痛覚が消えるわけではない。
どくどくと血を流す傷口を、エミリオはうっとりと見つめた。
「これでまずは一つ、上書きできたね」
嬉しそうに囁いて、救急箱から道具を取り出し手当てをはじめる。
セシリオは放心した状態でそれを見ていた。
「こんなに傷だらけにされてたなんて……だから僕とお風呂に入らなくなったんだね」
手当てを終え、エミリオは血を拭った。
「兄さんが、偉い人のお屋敷で雑用の仕事をしてるって聞いて、僕はそれを馬鹿みたいに信じきってたよ」
「エミリオ……」
エミリオはセシリオの下半身へ手を伸ばし、ズボンと下着を足から引き抜いた。
「やっ、エミリオ……」
エミリオの目から隠したくて腰を捩る。
見られたくない。下半身は特に。父の言った通り、散々男を咥え込んできたのだ。
ぴったりと閉じた脚を、エミリオは強引に開かせる。
「兄さんは僕のものなのに、ここも全部、僕以外のヤツに触らせたんだよね」
大勢の男の欲望を埋め込まれたセシリオのそこは、ぽってりと赤く腫れたように膨らんでいる。
こんな自分の体を、大事に守ってきた弟の目に映すことがセシリオには耐えられなかった。
「エミリオ、頼むから、もうやめてくれ……」
「なに言ってるの? これから兄さんの体、中まで、全部、くまなく、僕で上書きするんだから。他のヤツが残した痕なんて、兄さんの記憶にも残らないくらいにね」
うっそりと微笑んで、エミリオが覆い被さってくる。
口付けられて、セシリオは瞠目した。
顔を背けようとするが、顎を強く掴まれて動きを封じられる。無理やり唇をこじ開けられ、舌を差し込まれ、唾液を流し込まれる。
口腔内を思う様蹂躙され尽くした。
唇を離される頃には息も絶え絶えで、セシリオは混乱する頭で必死に状況を理解しようとした。
「ま、待ってくれ、エミリオ……お前、なにをするつもりなんだよ……」
「だから、上書きだよ」
「上書きって……」
「兄さんが今までされてきたこと、兄さんの記憶から消えてなくなるまで全部僕がなぞって、上書きするんだよ」
ここにきて漸く、セシリオは弟がしようとしていることに気づいた。気づいて、蒼白になった。
「や、だめ、だめだエミリオ、そんなこと……っ」
「だめじゃないよ。兄さんは僕のものなんだから」
艶然と微笑むエミリオを見て、絶望的な気持ちになった。
守りたかった大切な弟。
幸せになってほしかった大事な弟。
自分がそれを壊してしまったのだ。
セシリオは目の前が真っ暗になるのを感じた。
「あっ、あっ、ひんっ、ん、はっ、あぁっ」
ぐちゅぐちゅと、精液と潤滑油で泡立つアナルに弟の陰茎が出し入れされる。
やめてほしいと、何度も泣いて懇願したが聞き入れてもらえることはなく、潤滑油で濡らされたアナルに弟の陰茎を突き入れられ、激しく穿たれ、何度も中に精を放たれた。
弟に犯されたことがショックなのではなく、弟の体をけがしてしまったことがなによりも辛かった。
泣きじゃくるセシリオを見下ろし、エミリオはうっすらと笑みすら浮かべていた。恍惚とした表情で、実の兄を絶えず陵辱しつづける。
「はあっ、兄さん、兄さんっ、兄さんの中、僕の精子でたぷたぷだね、はっ、あっ」
「んあぁっ、あっ、ひ、ひうぅっ」
「ねぇ、そろそろ、僕の形、覚えた? もっと、奥まで犯さないと、上書きにならないけど……もう少し、待ってね……もっと背が伸びて、体が大きくなったら、きっとここも成長すると思うから……そうしたらもっと奥まで、僕が犯して、上書きしてあげるからね」
「ひあっ、あっ、あぁっ」
ぐちゅっと内部の敏感な膨らみを亀頭で強く押し潰され、セシリオのぺニスから少量の精液が漏れる。
既に何度も射精して、吐き出された精液がエミリオにかかり、それを見るたびに弟を汚してしまった罪悪感に胸が痛んだ。
それなのに散々開発され尽くした体は容易く快楽に溺れ、弟に与えられる刺激にはしたなく反応してしまう。
血が滲むほどに強く乳首に噛みつかれ、それなのに萎えることなく勃起したぺニスを弟に見られたときは消えてなくなりたくなった。
ナイフで切られた脇腹はじんじんと痛みを訴えている。
痛いのに、体はそれを快感に変換する。
散々嬲られ、もう体は疲れきっているのに、貪欲に快楽を求め、咥え込んだ弟の肉棒を締め付ける。
「はっ、はあっ、兄さん、また出すよ、兄さんの中に、僕の精子出すからね……っ」
そう言われれば、仕込まれた胎内は勝手に精を搾り取るように蠕動する。
「はひっ、ひ、あっ、あぁっ」
「ああ、すごいっ、兄さんの中、動いて、ん、うぅっ」
「んひゃああぅっ」
腹の奥で熱が弾けるのを感じ、セシリオは腰を震わせた。
ぴくぴくと痙攣するセシリオの体を、エミリオは慈しむように撫でる。
「兄さん、兄さん、僕の、僕だけの、兄さん……」
セシリオを見つめるエミリオの瞳には、純粋に自分を慕ってくれた頃の輝きはない。
止まらない涙が頬を濡らすのを感じながら、セシリオはきつく目を閉じた。
それから、セシリオは弟に監禁された。
首輪を嵌められ、鎖をベッドに繋がれた。セシリオが寝室を出られるのは、エミリオに鎖の鍵を外してもらい、彼と一緒にいるときだけだ。
エミリオに連れられて浴室へ向かうとき、父の死体がなくなっていることに気づいた。綺麗に掃除され、痕跡は全く残っていなかった。
数日後に母が家に帰ってきて、エミリオはセシリオの目の前で母も殺した。
目を逸らしたくても逸らせなかった。
父と母が死んだのも。
弟が両親を殺したのも。
全部自分のせいなのだと思った。
だからエミリオが母を殺す姿から、目を逸らしてはいけないのだと思った。
父も母もいなくなり、セシリオはエミリオと二人きりになった。
仕事に就いていなかった両親を、いなくなって心配する者などいなかった。愛人はいたが体だけの関係だったので、わざわざ捜しだそうとする者もいなかった。
セシリオを買い取ろうとしていた人物も、身分が高く立場上目立つ動きはできず自分からこちらへは来れないようで、その話は自然と流れた。
干渉してくる者はおらず、セシリオの世界はこの家の中に閉ざされた。
監禁されるようになって、どれ程の時間が過ぎたのか、セシリオに正確なことはわからない。
幼かったエミリオは成長し、いつの間にか兄の身長を追い越していた。
数年も監禁され、それでもセシリオは逃げようとする。
別に弟から逃げたいわけではない。
自分が彼の前から姿を消せば、弟がまともに戻るのではないかと思ったからだ。
自分の存在が弟を縛り付け、狂わせた。だから自分さえ消えれば、エミリオは普通の人生を送れる。そう思っていた。
エミリオはセシリオを養うために仕事に就いたが、恐らく真っ当な仕事ではない。殺人か、それを片付ける仕事をしている。
仕事から帰ってきたエミリオは、いつも濃い血の匂いを纏っているのだ。
どうしてこんなことになってしまったのかと、何度も何度も繰り返し考える。
どこで間違えてしまったのだろう。
もっと早くに、あの両親から逃げるべきだったのか。祖父母が亡くなり、頼れる者がいなくなったあのときに。誰かに助けを求めるべきだったのか。そうすれば、誰かが救いの手を差し伸べてくれたかもしれない。
そんなことを、繰り返し考える。
「兄さん、泣いてるの?」
気づかぬうちに流れていた涙を、エミリオの指がそっと拭う。
セシリオはベッドに仰向けに寝かされ、エミリオはベッドに腰かけ兄の顔を覗き込んでいた。
こちらをまっすぐに見下ろすエミリオを、じっと見つめた。
「俺は……」
自然と口から声が零れた。
「俺は、エミリオには……エミリオにだけは、幸せになってほしかったんだ……っ」
セシリオの悲痛な叫びに、エミリオは首を傾げる。
「なに言ってるの、兄さん」
涙に濡れた頬を、エミリオの掌が撫でる。
「僕は幸せだよ。誰にも邪魔されることなく、兄さんと二人でいられるんだから」
「違うっ……こんなんじゃなくて、もっと、普通に……」
「普通ってなに?」
「え……?」
「普通の幸せってなんなの?」
エミリオの瞳が、純粋にセシリオに問いかける。
エミリオにはわからないのだ。彼にとっての幸せとは兄と一緒にいることで、それ以外の幸せなど知らない。
「兄さんは、幸せじゃないの?」
「俺……?」
「兄さんの幸せってなに?」
「俺の、幸せは……」
それは、エミリオが幸せになることだ。
エミリオが幸せになってくれるなら、他のことなんてどうでもいい。他になにも望まない。
エミリオの幸せが、セシリオの幸せだ。
ならば、今の、この現状は。
決して不幸などではないのではないか。
「ねぇ、兄さん」
エミリオがセシリオの手を取る。
手首に残る擦り傷は、無理やり手錠を外そうとした結果だ。
赤く擦れた手首の痕に、エミリオの唇が触れる。
「ずっと僕と一緒にいてくれるんだよね?」
「ぁ……」
「僕を一人にしないよね? 僕の傍にいてくれるよね?」
縋るようなエミリオの視線に、かつて自分が口にした言葉を思い出す。
そうだ。セシリオはずっと彼の傍にいると言った。
離さないでと訴えるように、強く握られた手。セシリオはそれを握り返した。
エミリオはセシリオの弟だ。守るべき、大切な、なによりも大事な弟。それだけは、なにがあろうと絶対に変わらない。揺るぎない事実だ。
セシリオは手を伸ばし、弟の頬に触れた。
「いるよ、ずっと、エミリオの傍に……」
「ほんと、兄さん……?」
「ああ。約束する」
誓いを立てるように、セシリオは自分から弟へと口付けた。
弟の罪は、セシリオの罪でもある。
弟の幸せは、セシリオの幸せでもある。
全てを背負い、支え合い、二人で生きていく。
決意を胸に、セシリオは弟に向かって微笑んだ。
─────────────
読んでくださってありがとうございます。
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