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好きなのは私だけ 後編
しおりを挟む結婚して数ヶ月が経ったある日。カリナはフィデルと共にお茶会に招待されていた。
夫婦としてこういう場に参加するのははじめてだ。緊張していたカリナだが、フィデルが常に隣にいてリードしてくれて、挨拶も問題なく済ませる事ができた。
大分緊張も和らぎ、フィデルと一緒にお茶を楽しんでいた時だ。
「フィデル?」
女性の声がフィデルを呼んだ。
カリナとフィデルは同時にそちらへ顔を向けた。
目を引くような美女が、フィデルを見て微笑んでいた。
「デフィリア……っ」
フィデルは目を見開き、彼女の名前を呼んだ。
「久しぶりね」
「ああ、そうだね。まさか、ここで会えるなんて……」
「そちらの方は、あなたの……?」
デフィリアと呼ばれた女性はカリナに視線を向ける。
「ああ、うん。僕の妻のカリナだよ」
「はじめまして、カリナです」
カリナは会釈する。
「カリナ、彼女はデフィリア。彼女は画家なんだよ。僕は彼女に色々と絵の事を教わったんだ」
「デフィリアよ、はじめまして」
デフィリアは微笑み、カリナに手を差し出してくる。カリナはその手を握った。
彼女の顔を、どこかで見た事がある気がした。
意志の強そうな瞳。口元のほくろ。色気の醸し出される美しい顔。
「っ……」
気づいて、声を上げそうになるのを寸でのところでこらえた。
彼女は、フィデルのスケッチブックに描かれていた女性だ。
その事実に、カリナは察した。
彼女こそが、フィデルと思い合う女性なのだと。βだから結ばれる事のできなかった、フィデルの好きな人。
艶やかな魅力に溢れたこの人が。
華やかさに欠ける地味なタイプの自分と比べ、カリナは愕然とした。
「フィデル……私、少し庭を見てくるわ……」
「ん? それなら、僕も……」
「いいの、一人で行くわ。フィデルは彼女と話していて。久しぶりに会えたんでしょう?」
「え……あっ……カリナ……?」
フィデルの返事も聞かず、カリナは彼を残してその場から離れた。早足で庭へと出る。
一人になり、改めて深く落ち込んだ。
フィデルは不審に思っただろう。でも、あの場にいたくなかった。フィデルに彼女とカリナを比べられるのが嫌だった。
あまりにも違いすぎる。
せめてもう少し雰囲気が似ていたなら、いつかフィデルがカリナを好きになってくれたかもしれない。
そんな希望など抱けないほどに、カリナとは何もかもが違う。顔立ちも体つきも雰囲気も何もかも。
華やかで色気のある魅力的な人だった。フィデルが好きになるのだから、外見だけでなく内面も素敵な人なのだろう。
あんな完璧な人を好きになった後で、カリナを好きになってくれるとは思えない。
人を描くのは苦手だと言っていたフィデル。それなのに、彼女の絵を描いたのは。
描きたいと思うほどに彼女に魅力があるからか。
絵に残したいと思うほどに好きなのか。
なんにせよ、それほどまでにフィデルの中で彼女の存在は特別なのだ。
カリナなど、到底及ばない。
どれだけ時間がかかっても、フィデルの彼女への気持ちより、カリナに向けられる気持ちが上回る事などない。
妻として傍にいれば、いつか彼はカリナを愛してくれるかもしれない。
それでもきっと、この先ずっと、カリナは彼の一番にはなれないのだろう。
彼の心にはずっと彼女が存在し続ける。
その事実を突きつけられ、涙が込み上げてきた。
それをぐっとこらえて顔を上に向ける。こんなところで泣くわけにはいかない。
唇を噛み締め耐えていると、後ろから名前を呼ばれた。
「お前、カリナか……?」
「えっ……あっ、ウィル……!」
振り返るとウィルフレドがそこにいた。フィデルと結婚してから彼に会うのははじめてだ。
幼馴染みとの久々の再会に驚き、懐かしさに笑顔が零れる。
「久しぶりね、元気にしてた?」
「ああ。カリナも来てたんだな」
「ええ。……あれ? 奥様は?」
「置いてきた。腹に子供がいるからな。あんまり連れ出したくないんだ」
「まあっ! そうなの、おめでとう……!」
ウィルフレドは小さく微笑む。相変わらず表情は乏しいが、けれど嬉しそうなのが伝わってくる。
「ふふ……幸せなのね」
「まあな」
ウィルフレドは素直に頷く。
本当に幸せなのだ。
彼が運命の番と出会い結婚した時は、無理やり笑顔を浮かべて「おめでとう」と言った。決して泣かないように悲しみを押し殺していた。
けれど今は、心から彼の幸せを祝福できる。
カリナにとって、彼はもう好きな人ではないのだ。彼に抱いていた恋心は、傷つき壊れ、そしてフィデルに癒されたことで消えていった。
「彼女を大切にね。なんて、私が言わなくても過保護なくらい大切にしてたわよね」
「ああ。過保護が過ぎるっていつも言われてる」
「ふふっ……」
ウィルフレドはカリナをじっと見つめ、言った。
「お前は?」
「え……?」
「お前はどうなんだ?」
「ど、どうって……?」
「結婚したんだろ?」
「え、ええ……」
「幸せなのか?」
「それは……幸せよ。国に決められた相手だけど、すごく、優しい人で……私のこと、大切に、してくれて……」
それは事実だ。カリナは確かに大切にされている。彼は優しくて、思いやりのある人で。
好きでもないカリナに、花が綻ぶような笑顔を向けてくれた。
カリナの描いた下手くそな絵を、好きだと言ってくれた。
それだけで、充分幸せだ。
「っ……」
ぽろりと涙が零れて、慌てて拭う。
ウィルフレドは眉を顰めた。
「お前、まさか……辛い目にあってるのか……?」
「違うっ……違うの、ほんとに、全然っ……すごくよくしてもらってるの、辛いことなんてなにもないわ……」
「じゃあ、なんで泣くことがあるんだよ」
「これは……違うの……私の気持ちの問題で……。結婚生活は、ほんとに上手くいってるのよ。皆優しくしてくれるし……」
「辛いなら、無理に笑うな」
「っ……」
ウィルフレドの言葉に促されるように、また涙が落ちる。
「カリナ……」
「違っ……本当に、私……っ」
溢れる涙を何度も拭う。
その時。
「何してる……!」
突然怒鳴るような声が聞こえ、ビクッと肩を竦ませる。
驚きに固まっているカリナの前に現れたのはフィデルだった。
彼は見たこともない怒りの形相でウィルフレドの胸ぐらを掴む。
「フィデル……!?」
「僕の妻に何をした!?」
「別に、何も」
「だったらどうして泣いてるんだ!」
泣いているところを見られてしまったようだ。カリナは慌てて彼を止める。
「ま、待ってフィデル! 違うの、彼は私の幼馴染みよ! 何もされてなんかないわ!」
「っ……でも、泣いていただろう……!?」
「久しぶりに会ったから……嬉しくて、ちょっと泣いちゃったの。話をしていただけよ、彼は何もしてないわ……」
必死に説明するが、フィデルはまだ納得していないような顔でウィルフレドを睨んでいる。
いつも穏やかな彼がこんなに怒るなんてどうしたのだろう。
ウィルフレドから手を離した彼は、カリナの腕を掴む。
「帰ろう」
「えっ、で、でも……っ」
「行くよ」
強引に手首を引かれ、カリナは彼についていくしかない。
ウィルフレドの方へ顔を向ければ、彼は気にするなと言うように手を振っていた。
ウィルフレドを気にかけるカリナを咎めるように、手首を引く力が強くなる。
「ま、待って、ねえ、まだ、帰らなくても……」
「泣いたとわかる顔で戻れないだろう」
「だったら、私一人で帰るわ。フィデルはまだ残っていても……」
「僕も帰る。早く乗って」
有無を言わせず馬車に乗せられる。隣に並んで座るフィデルはカリナの手首から手を離そうとしない。
馬車は静かに走り出した。
フィデルはずっと無言で、明らかに怒っていた。カリナもそんな彼に声をかける事はできず口を閉ざしていた。
車内は空気が重く静まり返っている。
どうして彼がここまで憤りを露にしているのかわからない。普段怒ることなんてないのではないかと思うほど穏やかな彼が。
カリナが夫以外のαと話していたからだろうか。人気のない場所で二人きり。もし誰かに見られたら、誤解されかねない状況だった。
そんなことも考えられない浅はかなカリナに怒っているのだろうか。
カリナのせいで帰らなければならなくなってしまった。カリナを一人で帰しフィデルだけが残っては外聞も悪い。本当はデフィリアともっと話していたかったのに、できなかった。次にいつ会えるかもわからない。
好きな人との貴重な時間を邪魔した事に怒っているのかもしれない。
フィデルが、こんなに怒るなんて。それほどまでに彼にとって彼女の存在は大きいのだ。カリナなど比べられないくらいに。
カリナがどれほどフィデルを好きになろうと、きっと同じように彼がカリナに思いを寄せてくれる事はない。
それを改めて突きつけられ、再び涙が込み上げてくる。
それでも泣くわけにはいかない。泣きたいのは好きな人と引き離されたフィデルの方だろう。
だからカリナは必死に涙が零れてしまわないよう耐えた。
屋敷に着くと、腕を引かれ寝室に連れてこられた。
「フィデル……? あっ……」
ベッドに倒され、カリナは戸惑う。
どうして寝室に。何をするつもりなのか。
フィデルが何を考えているのかわからず、困惑した。
いつも柔らかく微笑んでいる事が多いフィデルだが、今は感情が抜け落ちたかのように無表情だ。けれどその瞳には強い憤りを宿している。
怖かった。もしかして、自分は彼に捨てられるのだろうか。彼の怒りを買い、もう顔も見たくないと思われてしまったのかもしれない。傍にいる事も許されなくなってしまうのか。
「ぁ……フィデル……ごめんなさい、私……」
デフィリアとの逢瀬を邪魔するつもりはなかった。
謝ろうとするカリナの首にフィデルの手が伸びてくる。
「黙って」
「っ……!」
首を絞められるのではないかと身を竦めたが、フィデルが掴んだのは首ではなく項を守るチョーカーだ。
「っあ……!?」
チョーカーを毟り取られ、首が晒される。カリナは本能的に不安を覚えた。
「フィ、デル……なに……を……?」
仰向けの体を横臥させられる。肩を掴まれ、項に彼が顔を近づけるのがわかった。
「ダメッ──!!」
カリナは反射的に拒んでいた。
「だ、めっ、だめ、フィデル……!」
「どうして? 僕達は夫婦だ。番になるのはおかしい事じゃない」
「それは……」
そうだ。カリナは彼の番になりたいと望んでいる。
でも、どうして彼が急に項を噛もうとするのか理由がわからない。だって、フィデルはデフィリアが好きなのに。
そこでハッとした。
もしかして、彼女に恋人ができたとか、結婚したとか、そういうことだろうか。そのショックで自暴自棄になっているのではないか。
だとしたら、今項を噛めば彼はきっと後悔する。勢いでカリナと番になってしまえば、後から冷静になった時、後悔の念に苛まれる事になるだろう。
彼の番にしてほしい。けれど、こんな形で番になりたいわけではない。
「お、落ち着いて、フィデル……。冷静になって……」
「僕は冷静だよ。カリナ、どうして嫌がるの?」
「嫌なわけじゃ、ないわ……。でも、まだ……もっと時間を置いた方がいいと思うの……」
フィデルは今、デフィリアの事で傷ついている。その傷を癒さずに無理やり埋めようとしているのだ。そんな事をしても、フィデルが苦しむだけだ。
カリナと番になったって、彼の傷は消えない。カリナではデフィリアの代わりにはなれないのだから。
彼の心の傷をどうしたら癒せるのかわからなくて悲しくなる。
「どうしてそんな、泣きそうな顔をするの? 泣くほど僕とは番になりたくないの?」
「違っ……違うわ、フィデル……。でも、今は、あなたの番には、なれないの……」
本当は心から番になりたいと望んでいる。
彼がデフィリアではなくカリナを選んでくれて、彼女よりもカリナを愛してくれて、番になりたいと言ってくれたのならよかったのに。
でも、そうじゃない。彼が愛しているのは自分じゃない。
「番は、愛し合う者同士がなるのよ……」
泣きそうになりながらその言葉を絞り出せば、フィデルの顔が激情に歪む。
「やっぱり……っ。カリナは、あの男が好きなんだ……。あの男を愛してるんだ……っ」
「っ…………え?」
吐き捨てるように言われた言葉の意味がわからず、カリナは戸惑う。
「あの男……って……?」
「さっき一緒にいただろう! 幼馴染みの……っ。彼と会えて、泣くほど嬉しかったんだろう……!?」
「そ、それは……」
「最初から、思ってたんだ……。カリナには好きな人がいるんじゃないかって……。僕との結婚に全く無関心で、諦めたような顔をしてたから……。他に好きな人がいるけど、その人とは結婚できなかったんだろうって……」
「ぁ……」
確かに最初はそうだった。どうでもいいと思っていたから、結婚式の段取りも何もかも言われるがまま無気力に受け入れていた。
「カリナは、あの男が好きなんだろう!? だから、僕と番になりたくないんだ!」
「ち、違うの、そうじゃなくて……っ」
「涙を見せるなんて、よっぽど心を許してる証拠だ……! カリナは僕じゃなくて、アイツと結婚したかったんだろう!? 僕と結婚した今も、アイツが好きで……アイツの番になりたいんだろう!?」
いつも穏やかなフィデルが激昂し問い詰めてくる。見たことのない彼の様子に驚き、狼狽する。やはりデフィリアとの間にショックな事が起きて、感情を抑えられなくなっているのだ。
どうしてこんなにもウィルフレドとの仲を疑っているのかわからないが、誤解されたくなかった。
「違うわ! 私の話を聞いて、フィデル!」
「っ……」
大きな声を上げれば、フィデルはハッとしたように口を閉ざした。
「フィデル、確かに私はウィルフレドの事が好きだったわ」
「……っ」
「でも、元々私の片思いで……彼が運命の番と出会ったことで、私は完全に失恋しているの。だからあなたの言う通り、最初は誰と結婚しても同じだと思って……結婚なんてどうでもいいって、投げやりになってた……」
「…………」
「だけどね、今は違うわ。もうウィルフレドに対する気持ちも変わって、彼のことは幼馴染みで、友人としてしか見てないの。彼と結婚したいとか、番になりたいなんて、全く思ってないわ」
フィデルのお陰で、今では心からウィルフレドの幸せを喜べる。フィデルが傍にいてくれたから、カリナの気持ちはゆっくりと穏やかに変化していった。変化したこの気持ちの行き場がないとしても、この気持ちを大切にしたい。
フィデルは俄には信じられないようで、困惑気味に瞳を揺らす。
「……だったら、どうして……。僕の、番になってくれないの……?」
「だって……他に、好きな人がいるのは、フィデルの方でしょう……?」
「え……?」
驚いたように目を瞠るフィデルを、まっすぐに見つめる。
「ごめんなさい……。前に、聞いてしまったの。フィデルには思い合う相手がいたって……。その人はβだから……αのフィデルは結婚できなかったんだって……」
「っ……」
「今日、会った……デフィリアさんのことでしょう……?」
確信を持って尋ねれば、フィデルは更に目を見開いた。
「フィデルは、彼女のことが今でも好きなのよね……? すごく、素敵な人だもの……思い合っていたなら、すぐに忘れられるわけない……忘れるなんて、できないわよね……」
気持ちが離れたわけではない。αとβだから。そんな理由で引き離されてしまったのなら、簡単に好きな気持ちを捨てられるわけがない。寧ろ、いつまでも忘れられず心に残り続けるのだろう。
「彼女のことが好きなのに、無理に私と番になろうとしないで……。番になりたくないのなら、ならなくてもいいのよ。フィデルの気持ちを優先して。デフィリアさんへの思いを抱えたまま、勢いで私と番になれば、フィデルはきっと後悔するわ。だから……」
「ま、待って、カリナ……!」
フィデルは慌てた様子で話を遮る。
「違う、違うんだっ」
「フィデル……?」
「僕とデフィリアはそんな仲じゃないよ!」
「え……で、でも……」
「彼女には絵を教わっていたから、一緒にいる時間が長くて……距離も近かったから……端から見ると恋人に見えたみたいで……そういう仲だと誤解されているような気はしてたけど……」
「誤解……」
カリナは呆然と呟く。
「誓って、恋人とか、そういう仲ではなかったよ。もちろん人として彼女のことは好きだし、彼女の描く絵に惹かれていた。彼女に対する気持ちは憧れで、恋愛感情はないよ。本当に」
きっぱりと否定され、カリナは呆然となる。彼はずっと他に好きな人がいるのだと思い込んでいたので、彼の言葉をすんなりと飲み込めない。
動揺し揺れるカリナの瞳を、フィデルがまっすぐに見つめ返す。
「僕が好きなのはカリナだよ。好きだから、番になりたいんだ」
「っ、え、ぁ……?」
「カリナがあの幼馴染みと二人きりで……しかも泣いてるのを見て、カッとなっちゃって……カリナを僕だけのものにしたくて、我慢できなくて……。ごめん……ちゃんと先に気持ちを伝えるべきだったね」
「そんな……だって、私の片思いだって……そう思ってたのに……」
「え……? 片思いって……」
「あっ……」
うっかり口を滑らせてしまい、カリナは頬を赤く染める。
「カリナ?」
「あ、あの、それは……」
気持ちを言ってはいけないと思っていた。他に好きな相手がいるフィデルに思いを伝えても、彼を困らせるだけだと。
でも、違うのだ。この気持ちは、伝えてもいいのだ。
いざとなると、なかなか言葉が出てこない。はくはくと、口を何度も開閉する。
フィデルは期待に瞳を輝かせつつ、穏やかに微笑みながらカリナの言葉を待っている。
伝えなくては。伝えたい。好きだと言いたい。
「っ…………私、もっ……フィデルが、好きっ……です」
伝えた途端、フィデルはくしゃりと嬉しそうに顔を綻ばせた。
「カリナ……っ」
「きゃっ……」
フィデルは子供のようにいきなりぎゅっと抱きついてくる。
彼の腕に包まれて、カリナは羞恥と緊張と喜びに心臓をバクバクと高鳴らせた。
「嬉しいよ。僕のこと、好きになってくれてありがとう」
「こ、こちらこそっ……私なんかを……」
「『なんか』なんて言っちゃダメだよ。カリナはすごーく可愛い素敵な女性なんだから」
「そ、そんな、ことは……っ」
「ふふっ……耳、真っ赤になってる……。照れてるの? 可愛い」
「言わな、ぃでっ……」
「はははっ、可愛いっ」
「もうっ、からかわないで……!」
「からかってないよ。ほんとに可愛いんだもん」
好きな人に言われる「可愛い」は心臓に悪いものなのだとカリナは知った。
するりと頬を撫でられ、自然と顔を彼に向ける。
至近距離で目が合って、心臓が跳ねた。
ゆっくりと距離が縮まり、カリナは目を閉じる。
そっと、唇が重なった。
胸がドキドキして、頭がふわふわする。顔が熱くてじんじんするし、触れ合う箇所がとろとろになるような感覚だった。
触れ合う時と同じように、ゆっくりと唇が離れていく。
フィデルの熱い視線が注がれ、落ち着かない。
「カリナと、番になりたい……」
「っ……」
「項、噛んでもいい……?」
窺うように尋ねられ、Ωとしての本能が反応する。好きな人の番になりたい。項を噛まれたいと、心と同時に体もそれを強く求める。
「は、はい……っ」
気持ちが昂りすぎて声が震えた。
「私も、フィデルの番になりたい……」
素直に求めれば、フィデルは嬉しそうに目を細めた。
うっそりと微笑むフィデルがカリナの頬にキスをする。
ピクリと反応するカリナに笑みを深め、フィデルの手が首筋に触れた。
緊張と歓喜に震えながら、カリナは彼に項を晒す。心臓が飛び出しそうなほどに激しく脈打つ。
「噛むよ、カリナ」
項に彼の熱い吐息が触れ、ぞくぞくっと肌が粟立つ。
「は、いっ……」
しっかりと頷いた次の瞬間、がぶりと項に噛みつかれた。
「あ……ッ」
彼の歯が肌に食い込む感覚に、思わず声が漏れた。
ぞくぞくぞくぅっと背筋が震え、何かが込み上げてくる。
体が熱い。腹の奥がじんじんする。
「あっ……あ……っ」
びくっびくっと震えるカリナの項から、フィデルはゆっくりと唇を離した。それから、噛み痕にねっとりと舌を這わせる。
「ふぁっ、ひぁあんっ」
首筋を舐められる感覚に、カリナの口から甘ったるい嬌声が上がる。
「カリナ……?」
「ぁ……フィデル……私、体、おかしいの……」
瞳が潤み、頬は紅潮し、息が乱れる。
とろりとした視線をフィデルに向ければ、彼はごくりと喉を鳴らした。
「カリナ……発情してるの……?」
「え……えっ? ……そんな、わけ……」
次の発情期はまだ先だ。発情するなんてあり得ない。
「でも、フェロモンすごいよ。カリナの甘い匂い……とても濃くて……吸い込むだけで……僕も……」
フィデルの息もどんどん乱れていく。
情欲を滲ませる彼の瞳に見つめられ、ずくん、と胎内が疼いた。じわじわと全身に熱が広がる。下半身がむずむずして、甘く痺れるような感覚にくらりと目眩を覚えた。
「わ、私……はつじょ、して……?」
今まで発情期が来る前に抑制剤を飲んできた。だから、カリナは発情期を体験した事がないのだ。
襲いくる強烈な感覚に戸惑うカリナに、フィデルは艶然と微笑む。
「項を噛まれて発情しちゃったの? 可愛いね、カリナ……」
「っ……」
彼の笑みに、声に、言葉に、堪らなくぞくぞくする。体の疼きが激しくなり、カリナは身動いだ。
「フィ、デル……ど、したら……ぁっ……こ、怖い、の……」
「大丈夫だよ。僕が傍にいるからね」
「んっ……」
優しく口付けられて、安堵と興奮が押し寄せる。
触れ合うだけのキスが心地好いのに、もっと深く繋がりたいと体が望む。
その望みを叶えるように、フィデルの舌が口腔内へと入ってきた。
はじめての感覚に一瞬びくりとするカリナだが、すぐに粘膜の触れ合う気持ちよさにうっとりと酔いしれる。
「んっ、ふぁっ……んんっ」
舌が絡むとぴちゃりと濡れた音が耳に届き、恥ずかしくて、でも体はどんどん昂っていく。
脚の間からとろりと体液が溢れるのを感じ、羞恥と興奮は増していった。
キスをしながら噛まれたばかりの項を指先で撫でられて、ビクンッと体が跳ねた。
「んっ……ふふっ……項、気持ちいい?」
顕著に反応を見せるカリナに、フィデルは嬉しそうだ。
「んっ、あっ……待って……あっ、だめっ……私、今、変だから……あっ」
「カリナ、大丈夫だよ。大丈夫だから」
びくんっびくんっと震えるカリナを宥めるようにフィデルは項を撫でる。
フィデルの触れる箇所から気持ちいいのが全身に伝わる。
こんな、キスをして少し触れられただけで身も心も蕩けておかしくなりそうになってしまう。これが発情期なのだ。
はじめての経験に、カリナはどうすればいいのかわからない。
「ぁっんっ……フィデル、私っ……フィデルに、触られたら……体が、どんどん、おかしくなっちゃ……あっんっんっ」
「大丈夫。いいんだよ。おかしなことじゃないから……怖がらないで」
「でも、きっと私……変なふうに、なっちゃう……」
彼の前で理性を手放すのが怖い。
泣きそうになるカリナを見下ろし、フィデルは凄絶な色気を孕んだ笑みを浮かべる。
ぶわっと、彼のフェロモンが放出された。
それを吸い込み、甘く蕩けるような香りを感じ、カリナはそれだけで深く感じ入る。
脚の間からとろとろと蜜が溢れて止まらない。
「可愛いよ、カリナ……。おかしくなったカリナが見たい、見せて、僕だけに……」
「っあ……」
ぞくんっと震え、また蜜を漏らす。
「ふぃで、るぅ……っ」
自分で自分の体が制御できず、助けを求めるようにフィデルを呼ぶ。
フィデルの手が、優しくカリナから衣服を剥いでいった。
肌を晒す羞恥よりも、番と繋がりたいという欲求が上回る。
けれど、濡れて張り付くショーツを見られた時は恥ずかしさに泣きそうになった。
「もう、こんなに……」
「やっ……見ちゃ、やぁ……っ」
食い入るように恥ずかしい染みをつけた下着を見られ、身を捩る。
堪らなく恥ずかしいのに、興奮を滲ませる彼の視線にぞくぞくっと体は悦んだ。
「脱がせるよ……」
「ぁっ、う……っ」
にちゃりと糸を引いて下着を脱がされる。
どれだけ恥ずかしくてもカリナは抵抗しない。できない。番である彼に全てを晒したい。身も心も彼のものにされたい。発情した体は何よりも強く番を求めていた。
「はっ、ぁっ……フィデル……フィデル……っ」
「うん」
全裸になったカリナに、上半身裸になったフィデルが覆い被さってくる。
「んっ、は、ぅんっ……」
顔を寄せられれば、カリナは自ら唇を開いて彼の唇を受け入れる。
舌を絡め合う濃厚な口づけに、カリナの理性がとろりと溶けていく。
口の中をフィデルの舌が余すところなく舐め回す。口内を彼に支配されているような感覚にぶるっと震えた。嬉しくて、気持ちいい。
「んぁっ……ふぃでる、ぅ、んっんっ」
「はっ……ぁ……カリナ……」
カリナの唇を食みながら、フィデルの指が肌の上を這う。軽くなぞられただけでも、大袈裟に体が反応してしまう。
「ふっ、あっ、んんっ」
彼の手がカリナの胸に触れる。やんわりと揉まれ、そんな僅かな刺激に背中が仰け反ってしまう。
「んぁっ、あっ、フィデル……っ」
「っふ……可愛い声」
「んゃあっ」
胸の先端を指先で撫でられ、更に激しく背中が浮き上がる。
ちょっと触られただけでこんな反応をしてしまうなんて、はしたない。恥ずかしい。でも、彼から与えられる快感がカリナをこの上なく喜ばせた。
「あんっ、んっ、ふぃで、ぁあっ、んっ、ふぃでるぅっ」
「はっ……あー……可愛い……そんな蕩けた声で名前呼ばれると、理性飛んじゃいそうだなぁ……」
色香を放ち舌舐めずりするフィデルに、背中がぞくぞくして腹の奥がきゅんきゅんする。
びくびく震えるカリナの乳首を、フィデルが指で捏ね回す。
「あっあっ、だ、めぇっ、そこっ、んっ、ぁんっ」
「だめ? そんなに気持ちよさそうなのに?」
こりゅんっと押し潰されて、甲高い嬌声が口から漏れる。
「ひあぁっ、あっ、だめ、だめぇっ、いっぱい、いじられたら、あっあっんんぅっ」
「弄られたら? どうしたの、カリナ?」
「わからな、ぁあっ、お腹、むずむずって、あっあっあっ、へん、あっ、フィデルっ」
下半身が疼いて、じっとしていられない。
身をくねらせるカリナを宥めるように、フィデルのキスが頬に落とされた。彼の指はずっとカリナの乳首を刺激し続けている。
「気持ちいいんだね、カリナ。大丈夫、いっぱい気持ちよくなっていいんだよ」
「あっんっ、きもち、いっ、のっ?」
「うん。僕と一緒に、いっぱい気持ちよくなろう」
「あっあっあっ、ふぃでると、いっしょ……? あっひぁっ、んんっ、いっしょに、ふぃでるといっしょ……きもちよく、なりたいっ、あっあぁっ、いっぱい、してぇっ……」
きちんと意味を理解できていなかったけれど、彼と一緒ならば怖くない。
「っ……」
フィデルは一瞬目を見開き、動きを止めた。
「っあー、ほんっと、可愛い……めちゃくちゃにしたくなる……可愛い、好きだよ、カリナ……」
「っ~~……ぁっ」
Ωを支配する、強い情欲を孕んだαの雄の目で見下ろされ、カリナはその視線に胴震いする。彼の視線に体が歓喜し、どぷっ……と脚の間から蜜が溢れた。
「ふぃでる、好き、すき……っ」
「うん。いっぱい気持ちよくなろうね」
微笑んだフィデルがカリナの胸へと顔を寄せる。
「んひっ……!?」
敏感な乳首をぺろりと舐められ、カリナは快感に悶える。
「んあっあっあっ……だ、めぇっ、んっあっ、そんな、あっ、なめちゃ、あっあっあっ、あんっ」
ちゅぱっ、ちゅぷっ、と卑猥な音を立てて舐めしゃぶられ、指でも刺激され、カリナははしたない喘ぎ声を止められなくなる。
気持ちよくて、蜜を滴らせる秘所が疼いて仕方がない。カリナは無意識に太股を擦り合わせ、快楽に震える。
「あっんっんぅっ、ふぃでる、ぅんんっ、んっひぁっ、ふぃでるぅっ」
「そんなに甘えた声を出して……。もっとカリナの全身を舐めて味わいたいけど、はじめての発情期だから、我慢するのは辛いよね」
「んんっ? ふぁっ、あっ、んっ」
フィデルの言葉の意味を理解する前に、彼の手がするりと下半身へ伸ばされた。内腿を指が辿り、びくっと震える。
「っあ、フィデル、そ、そこは、あっんっ」
「大丈夫だよ。脚を開いて」
「あっ、ふぅ……っ」
つう……と肌の上を指でなぞられ、脚が勝手に開いていってしまう。
滴るほどに濡れているそこに、フィデルの指がそっと触れた。
「あぁ……っ」
表面を優しく撫でられただけで、強い快感に襲われた。
フィデルは興奮した様子で熱い吐息を漏らす。
「はあっ……すごい……こんなに、濡れて……」
「んっあっあっあっ、だめぇっ、指、動かしちゃ、あっあっあぁんっ」
表面を指でやんわりと擦られ、動きに合わせてくちゅくちゅと濡れた音が響く。
「やっ、んんっ、ぬれてるの、はずかし、ひぁっ、あっあっんっ」
「僕は嬉しいよ。僕を欲しがってくれてるってことだから」
「ひはぁあっ……!?」
蜜に濡れたフィデルの指が、膣口の上の花芽に触れる。その瞬間、強烈な快感が全身を駆け抜けた。
「ひっ、あっあっ、まっ、待って、んぁあっ、あっ、ふぃでるっ、んっあっ、そこ、いじっちゃだめ、だめぇっ」
強すぎる刺激に、カリナはかぶりを振って制止の声を上げる。
けれどフィデルの指は止まらず、コリコリと転がすようにそこを弄り続けた。
「ひあぁっあっあーっ、まってぇっ、ふぃでるっ、ふぃでるぅっ、んっあっあっあぁっ」
びくびくと腰が跳ねる。強烈な感覚が込み上げて、逃げるように身をくねらせるけれどその感覚はどんどん強くなっていく。
「あっひぅっ、んっんんっ、あっ、だめっ、あっあっ、まってぇっ、へん、なのぉっ、あっあっんぅっ、こわ、いぃっ、ふぃでるぅっ」
「大丈夫だから、そのまま感じて」
「んんーっ」
宥めるようにキスをされ、口の中をねぶられた。
キスの気持ちよさと花芽を擦られる快感にわけがわからなくなる。
「んっんっ、ふぅっ、んっあっ、んっぁんっ、っ、~~~~っ」
快感がピークに達し、カリナは全身をびくびくと震わせ膣口から蜜を漏らした。
「ん……上手にイけたね。可愛いよ、カリナ」
「はっ、ひっ……あっあっ……」
絶頂の快感に呆けるカリナの頬に、フィデルの口づけが落とされる。
優しく甘やかされて、カリナの理性はとろりと蕩けた。
「あっんっ、ふぃでるぅっ……」
「うん。カリナ、今度は中に指を入れるからね」
「ひぁっ……!?」
「ゆっくり入れるから、痛かったら言って」
「あっあっあっ、はっ、入って、フィデルの、ゆびぃっ」
ぬぷぬぷ……っと、フィデルの指が胎内に埋め込まれていく。
はじめてそこに何かを受け入れる感覚に、カリナは目を見開きぶるぶると内腿を震わせた。
「あぅっ、んっんっあっあぁっ」
「大丈夫? 痛くない?」
「いたく、なぃっ、あっあっ、ゆび、フィデルのゆびっ、私のなか、はいって……あっひぅんっ」
「動かすよ」
「んぁあっあっあっ、ふぃでる、にっ、なかっ、私のなかぁっ、こすられてるのっ、あっあっあっあーっ」
膣内は彼の指を喜んで受け入れ、きゅうきゅうと中を締め付ける。新たな蜜が溢れ、中をぬるぬるに濡らしていった。
指が中を探り、敏感な部分を擦り上げる。
「~~~~っ!」
「ここ? ここ、気持ちいいの、カリナ?」
「ひっあっあっ、まって、あっあっ、そこっ、こすられるとっ、んぁっあっ、だめぇっ」
「気持ちよくなっていいよ」
「んっあっあぁっ、ひっ……ぅうんっ、んっあっ」
ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅと何度も小刻みにそこを擦られ、再び強い感覚が込み上げてくる。
「あぁっあっ、だめっ、わたしっ、またっ、あっあっんっんぁあっ」
「うん。イッていいよ」
「ひっあああぁ……っ」
はしたなく腰を突き上げ、カリナはまた絶頂を迎える。
脱力し、荒い呼吸を繰り返す。
綻んだ蜜口に、二本目の指がぬぷりと挿入された。
「ひはっ、あっあっ、あぁんっ」
「気持ちい? 苦しくない?」
「んっあっ、きもちぃっ、あっあっんっ、ふぃでるのゆび、きもちいいのっ」
気持ちよすぎて怖いくらいだ。番に愛撫され喜ぶ体は必要以上に快楽に溺れてしまう。
二本の指にゆっくりと中を押し広げられていく。
胎内を彼に侵されていくような感覚に、体は歓喜し奥が疼いた。
とろとろにぬかるむ膣内に、更にもう一本指が追加される。体はそれを喜んで受け入れ、もっととねだるようにしゃぶりつく。
「っは……すごい、カリナの中……僕のこと、欲しがるみたいに……指に吸い付いて……っ」
フィデルは興奮したように息を荒げる。
彼の欲情した視線に見つめられ、胎内が激しく疼いた。
「あっ、ふぃでるぅっ、んっあっ、ほしい、ほしいのっ……ふぃでるぅっ」
熱にうかされ、カリナは素直に彼を求めねだった。
発情した体だけでなく、心も彼を強く求めている。
番の熱で満たされたい。
「っ、カリナ……っ」
ゆっくりと指が抜かれ、蜜口が物欲しげにひくひくと蠢く。
「あっ、やっ……ふぃでるぅっ」
「うん。すぐに入れてあげるからね」
脚を広げ抱えられ、硬い熱塊が蜜口に押し当てられる。
「っあ……」
「好きだよ、カリナ……愛してる……っ」
「ひっあっ、あ────っ」
ぐぷぐぷぐぷ……っと太い楔が押し込まれていく。
まんべんなく中を擦り上げられ、強烈な快感に襲われる。番と一つになる喜びから、破瓜の痛みすら快感へと塗り変わる。
「はっひっ、あっあっ、ふぃでるぅっ」
「っは……あっ……カリナ……っ」
両手を強く握られ、シーツに押し付けられる。カリナは縋るように彼の手を握り返した。
ゆっくりと埋め込まれていく陰茎が、やがて最奥へと辿り着く。こりゅっと奥を亀頭で擦られ、カリナは甘い悲鳴を上げた。
「ひあぁっあっ、あ~~っ」
「っ、すごい、中っ、締まって……っ」
「あっあぁっ、ふぃでるぅっ、きもちいの、とまらなっ、~~っ、あっあっあーっ」
「っふ……よかった、いっぱい、感じてくれて……」
「ふぃでる、はっ? あぁっあっ、ふぃでるも、きもちぃっ? いっしょっ……? わたしと、いっしょに、いっぱい、きもちぃっ?」
「っ……うん……すごく、気持ちいいよ……っ」
「んぁっ、うれしっ、ふぃでると、いっしょっ……ひっあっ、うれし、のぉっ、あっあっあっあぁっ」
「はっあっ……カリナが、可愛いことばっかり、言うからっ……優しくしたいのに……めちゃくちゃに、したい……っ」
ぐちゅっぐちゅっぐちゅっぐちゅっと腰の動きが徐々に激しくなっていく。
剛直に膣壁を擦られ、奥を突き上げられ、カリナは何度も絶頂を迎え身悶えた。
「~~~~っ、ひっあぁっ、ふぃでるぅっ、あっあ~~っ、ふぃでる、すきっ、すきっ」
「カリナ……っ」
「んむっ、んっぅっ、ん~~っ」
噛みつくようにキスをされ、唇を貪られる。
愛する番のものにされていると強く感じ、心も体も喜びで満たされていく。
幸せを噛み締めながら快楽に飲まれ、カリナはただフィデルを求めた。
番の精を欲しがって、膣内がぎゅうぎゅうと蠢動する。
「っく、あっ、カリナっ……孕ませたいっ、僕の番っ……カリナっ、カリナ……っ」
「んひぁっ、あっあーっ、してっ、ふぃでるっ、んっあっあっ、ふぃでるの、ものに、なりたいのっ、あっあっあっ、~~っ、ひぅぅぅっ」
とちゅっとちゅっとちゅっとちゅっと断続的に最奥を刺激され、カリナは激しく絶頂を迎える。
収斂する膣内が陰茎をきつく締め付けた。
その締め付けに促されるように、低い呻き声と共にフィデルは射精する。
番の精を胎内に注がれ、カリナは幸福に包まれる。恍惚とした顔で吐き出される精液を受け入れた。
「きもちぃ、ふぃでるぅ……っ」
「っ……中に、出されて……そんな顔、して……っ」
ふーっふーっと息を吐き、ギラギラと情欲に濡れたフィデルの瞳がカリナを捕らえる。
彼の視線に、カリナはぞくぞくと悦楽に震えた。
挿入されたままの陰茎が再び体積を増し、膣内を圧迫する。
「ひぁっんっ、また、きもちよく、なるぅっ……んっあっ、ふぃでるっ」
「まだまだ……これからだよ……。発情期が終わるまで、一緒にいっぱい気持ちよくなろうね、カリナ……っ」
「あぁんっ」
フィデルが腰を回せば、精液と愛液でぐちゅぐちゅに濡れる膣内が陰茎に刺激される。きゅんきゅんと疼く子宮口を亀頭でぐりゅぐりゅと捏ねられ、目も眩むような快楽に支配された。
膣壁はしっかりと彼の熱に絡み付き締め付け、更なる種付けをねだっている。
「はっ……すごい、気持ちいいよ、カリナ」
「あっあぁっあんっ、わたし、もぉっ、きもちいいっ、ふぃでるぅっ」
腕を伸ばしてぎゅうっとしがみつけば、深く口づけられた。腰を動かされ、乳首も弄られ、カリナは再び深い快楽の波にさらわれる。
堪らなく気持ちよくて幸せで、理性を手放したカリナはただひたすらフィデルを求め続けた。
発情期は数日間続き、カリナはフィデルとたっぷり濃密な時間を過ごした。
疲れきったカリナはそのままぐっすりと深い眠りに落ちた。充足感に包まれ、疲れのせいもあり随分長く熟睡していた。
暖かく心地よい陽の光を感じ、カリナの意識は浮上する。
サリサリ、シャッシャッ……と微かな音が聞こえた。
フィデルと一緒にいるようになって耳に馴染んだ音。彼が絵を描いている、鉛筆を紙に走らせる音だ。
近くから聞こえる。部屋の中で描くなんて珍しい。窓の外の景色でも描いているのだろうか。
そんな事を考えているうちに意識もはっきりしてくる。カリナはそっと瞼を開けた。
とろんと眠たげな目に映ったのは、真剣な顔で絵を描くフィデルだ。窓の外を見てると思ったのに、彼はベッドの上、カリナの隣にいてカリナの方を見ていた。彼の手にはスケッチブックと鉛筆があるから、確かに絵を描いているはずなのに。
目を開けたカリナに、フィデルは蕩けるような甘い笑みを浮かべる。
「おはよう、カリナ」
「おはよう、フィデル……。今、絵を描いてた……?」
「うん。カリナの寝顔が可愛くて」
「っ、え……?」
さらりと告げられた言葉の意味がわからなくて、カリナはポカンと彼を見る。
「えっと……絵を描いてたのよね……?」
「うん」
「なんの絵……?」
「カリナの可愛い寝顔だよ」
「えっ……!?」
思わず大きな声を出してしまう。
「すごーく可愛くて、ずっと見てたんだけど、あんまり可愛いから絵に残しておきたくて」
「っ、っ、っ……!?」
寝顔をずっと見られていた。しかもそれを絵に描かれていた。
それについても色々言いたいが、それよりも言いたい事がある。
「ま、待って……フィデル、人の絵は描かないんじゃ……?」
「苦手だからあんまり描かないけど、全く描かないわけじゃないよ。前にデフィリアに苦手を克服しろって無理やり彼女の顔を描かされたことがあるから、描けないわけじゃないし」
「っえ……」
じゃあ、あのスケッチブックに描かれた絵は……。フィデルが彼女を描きたくて描いたわけではなかったのか。彼女の姿を絵に残したかったとか、そういう理由で描かれたものではなかったということか。
全てこちらの勝手な思い違いだったのだという事をフィデルの口からあっさりと明かされ、カリナは複雑な気持ちになった。あの絵の存在にあんなにも苦しめられたのに、カリナの憶測は全部間違っていたのだとわかると何ともやるせない。ただの勘違いだったとわかって嬉しいのだけれども。
「…………っていうか、私の寝顔描いたの!?」
「えっ、今そこに驚くの?」
「やめて、恥ずかしいっ! 私絶対変な顔して寝てるもの!」
「変じゃないよ。可愛いってば」
「かっ、可愛くなんてないもの……!」
「ふふっ……照れてる顔も可愛い。大丈夫、カリナの絵は誰にも見せないから安心して」
「それは、安心だけど……そういう事じゃなくて……っ」
「本当はもっと描きたいんだけど、難しいんだよね。モデルのカリナを描きたいんじゃなくて自然なカリナを描きたいから……僕に見せてくれる照れた顔とか、僕に見せてくれる笑顔とか……残しておきたいのに……」
そう言いながら、フィデルはスケッチブックの中を捲って見せてくれる。
「こ、これ……全部私……?」
「うん。このスケッチブックはカリナ用だから」
「私用……!?」
スケッチブックの中はカリナの絵でいっぱいだった。けれどカリナは彼に描かれているなんて全く知らなかった。
モデルのカリナを描きたいんじゃなくて自然なカリナを描きたい、というのはこういう事なのだろう。描かれていると意識していない、自然なカリナの姿が描かれている。
「いつの間に、こんなに……」
「カリナも僕の絵を描いてくれただろう? それが嬉しくて、僕もカリナを描きたくなって……。カリナを知っていくにつれて、色んなカリナを記憶だけじゃなくて絵に残したいって思うようになって……。閉じ込めて、僕だけのものにしたいって……そういう願望の表れというか……気づいたらこんなに描いてたんだ」
照れたように微笑むフィデルに胸がきゅんと締め付けられる。
驚きと喜びと、色んな感情が込み上げて言葉にならない。
「あ、今の顔もすごく可愛い」
「っ……」
「カリナはいつも可愛いんだけどね」
「っ!!」
フィデルの言葉にいちいち反応するカリナ。それを見て、フィデルは声を出して笑う。
「っ、っ、もうっ、からかわないでってば……!」
「だからからかってないってば。本心だよ」
心から愛おしむような瞳で見つめられてしまうと、もう怒る事などできなかった。
「うぅ……」
「僕はカリナのことが可愛くて仕方なくて、独り占めしたいくらい大好きなんだよ」
「っ……」
「僕がどれだけカリナを愛してるのかわかってないみたいだから、これからゆーっくりじーっくり教えてあげるね」
冗談のような事を本気の滲む極上の笑顔で告げられて、カリナはびくりと肩を竦ませた。
「お、お手柔らかに、お願いします……」
でなければ、心臓がもたない。
身も心も蕩けるほどの大きな愛に包まれる予感に、カリナの胸は期待と不安でいっぱいだった。
───────────────
読んで下さってありがとうございます。
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