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しおりを挟む清一郎は気づいていなかったが、伊吹は既に彼を恋愛対象として見ていた。そして彼への自分の恋心を自覚もしていた。
ただし、清一郎が同じように自分を思ってくれているだなんて気づいていなかったので、決して気持ちを打ち明けるつもりはなかった。清一郎は自分を家族としてしか見ていないと思っていたから。
恋愛感情を抱いているなど清一郎に知られれば、不快な思いをさせてしまうかもしれない。ひょっとしたら、清一郎のトラウマを呼び起こしてしまう危険もある。彼の父親は清一郎を性的な目で見ていたわけではないが、家族に歪んだ愛情を向けられて、清一郎の精神はあんなにも傷つけられたのだ。
普通に生活を送れるようになるまで、どれだけ大変だったのか。伊吹には想像することしかできないが、決して容易なことではなかった。時間をかけて恐怖を乗り越え、克服することができたのに。
伊吹のこの気持ちはそれを台無しにしてしまうかもしれないのだ。
せっかく家族としてうまくやってきたのに、伊吹が清一郎に対し抱く感情はそれを壊してしまいかねない。今まで築いてきたもの全てが崩れ去ってしまう。
そんなことになるくらいなら、この気持ちは一生胸に秘めておいた方がいい。
決して悟られてはいけない。
絶対に隠し通すと伊吹は心に決めていた。
そのためには、清一郎と離れるのが一番いいのだろう。このまま同じ家で生活を続ければ、いつかバレてしまうかもしれない。
いつまでも、貴生と栞の世話になり続けるのも申し訳ない。
子供のいない二人はこのままここにいていいと言ってくれているが、ずっとというわけにもいかないだろう。
だから伊吹は大学を卒業したら一人暮らしをはじめようと計画していた。
その為には、今からお金を稼いでおきたい。けれど貴生と栞にはバイトを禁止されていた。学生の内は勉強と遊びに専念しなさいと言われているのだ。伊吹も清一郎も素直に従っている。
しかし、できるだけ早くここを出ていくにはやはりバイトをしてお金を貯めなければならない。
伊吹は貴生と栞を説得しようと考えていた。ちゃんと話せば、二人も納得してくれるはずだ。
そんなとき、貴生と栞の二人が出張で二日間家をあけることになった。
そんなに長く清一郎と二人きりで過ごしたことなどなかった。意識して挙動不審にならないように気をつけなければ。
貴生と栞の二人は朝のうちに家を出た。学校から帰れば、もう清一郎と二人きりだ。
気を引き締め、伊吹は清一郎の部屋へ行った。ノックすれば、すぐにドアを開けてくれた。
「伊吹? どうした?」
「今日の夜ご飯、どうしようか」
「あー、冷蔵庫の中見て考える」
二人で一階に下りてキッチンへ。並んで冷蔵庫の中を見る。
「あ、オムライス作れるな」
食材を眺め夕飯のメニューを考えている清一郎を、伊吹は横目で見上げる。
出会った頃は、少女と見紛うほど可愛らしい中性的な美少年だった。美しさは変わらぬまま、すっかり男らしく成長した清一郎。身長も体格も完全に追い抜かれ、並んでいれば彼の方が年上に見られることも多い。
何年も一緒に過ごし成長を見守ってきたのに、全く見慣れることがない。ふとした瞬間に彼に心を奪われ見惚れてしまう。
「伊吹?」
ぼうっと見つめていると名前を呼ばれ我に返る。
「あ、ご、ごめん」
「なんだよ、そんなにじっと見て……」
「大きくなったなって……。出会ったときは見下ろしてたのに、いつの間にか見上げるのが当たり前になったなーって」
見惚れていたなどとは言えず、適当な言い訳を口にする。
清一郎は拗ねたように唇を尖らせた。
「なんだよ、小さいままの方がよかったって思ってるのか?」
「まさか。すごくカッコ良く成長してくれて嬉しい……自慢の弟だよ」
弟だと思えていれば、なんの憂いもなかったのだが。
清一郎は本当に、誰もが認めるイケメンへと成長してしまった。きっと学校では人気者なのだろう。毎日告白されていてもおかしくない。
そしていつか、彼も好きな人を見つけるのだ。既にいるのかもしれない。
気になるけれど知りたくなくて、伊吹は清一郎と恋愛の話は一切していなかった。
だから伊吹が知らないだけで、もう恋人がいる可能性だってある。
自分の考えにひっそりと落ち込む伊吹だが、「弟」と言われて清一郎も落ち込んでいたことには気づかなかった。
夕飯のメニューはオムライスに決まり、幼い頃から料理を手伝ってきた二人は慣れた手付きで夕飯作りをはじめる。
この家を出たらこうして一緒に料理を作ることもなくなるのだと思うと、伊吹は悲しくて寂しくて堪らなくなる。
だからこそ彼と過ごすこの時間を大事にしたい。 伊吹は清一郎の姿を、彼との会話を、少しも逃さず記憶に刻み付けた。
食事を済ませ、清一郎を先に浴室へと促した。彼が入浴している間、伊吹は自室に戻りノートパソコンを開く。
不動産屋のサイトを開き、一人暮らし用の部屋を見る。一人暮らしするとしてもまだ先のことだが、どんな物件があるのか気になった。
家事は一通り教わっているので問題はないが、一人になればガラリと生活は変わるだろう。
部屋の広さも家賃も様々だ。色々な部屋を見ながら、一人暮らしがどんなものなのか想像を膨らませる。
気づいたら結構な時間が経っていたようで、風呂を上がったらしい清一郎にドアをノックされ現実に引き戻される。
「伊吹、風呂あいたぞ」
返事をすれば、ドアを開けて清一郎が報告してくれる。
「うん。わかった、ありがとう」
「そうだ、伊吹。使い終わったらでいいからパソコン貸してもらえるか?」
「あ、それなら持ってっていいよ。暇潰しに見てただけだから」
「じゃあ、持ってく」
清一郎が部屋に入ってくる。
伊吹は電源を落とすために開いていたページを閉じようとした。
それを、清一郎が止める。
「ちょっと待て。なんだこれ? なんでこんなの見てるんだ?」
清一郎は険しい顔でパソコンの画面を見ている。 隠すことではないので、伊吹は正直に答えた。
「大学卒業したらここを出ようと思って。どんな物件あるのかなって気になって、ちょっと見てたんだよ」
「は? ここを出る? ここから出ていくって言ってんのか?」
低い声音で問い質され、伊吹は戸惑う。
何故彼が怒っているような表情を浮かべているのか、理由がわからなかった。
「う、うん……。いつまでも貴生さん達のお世話になるのも悪いし……」
「…………そんなの、許さない」
ギリ……と歯を鳴らした清一郎は、伊吹の腕を掴みベッドへ突き飛ばす。
「っわ……!?」
背中からベッドに倒れ、起き上がろうとすればそれを阻むように清一郎が覆い被さってきた。
「せ、いちろ……? どうしたの……?」
見上げる彼の表情は苦しみに歪んでいた。
「……傍にいるって、言ったくせに」
「え……?」
「俺とずっと一緒にいるって言ったくせに……ウソだったのかよ……っ?」
「それは……」
確かに彼と約束した。
まさか清一郎が、今その約束を持ち出してくるとは思わず困惑する。
できることなら伊吹はずっと彼と一緒にいたい。許されるのならずっと傍にいたい。
今はまだ、清一郎にとって伊吹は離れたくないと思える大事な家族なのかもしれない。
けれどそのうち、伊吹よりも大切な存在を見つけるだろう。
「伊吹はもう、俺と一緒にいたくないのか? 俺から離れたいって思ってるのか?」
「そんなわけないよ」
「じゃあなんで離れようとするんだよっ……?」
「一緒にいたくないとか、そんなんじゃなくて……。さっきも言ったでしょ。貴生さん達はずっといていいって言ってくれてるけど、働きはじめたらやっぱり自立しないと……」
「俺との約束、破るのか……?」
「っ……それは……ごめん……。でも、でもね、清一郎にも、いつか恋人とか……一番大切な人が、できるだろうし……。そうなったら、僕じゃなくてその人とずっと一緒にいることになるんだし……」
「……んなわけ、ないだろ……」
清一郎は辛そうに、絞り出すように言う。
「せいいちろ……」
「俺の一番大切な存在は、これからもずっとお前だけだ」
きっぱりと断言され、喜びそうになる心を叱咤する。彼は、家族として伊吹を大切に思ってくれているだけなのだから。
「そ……それこそ、そんなわけ、ないよ……。今はまだ見つからないかもしれないけど……これから沢山の人と会って、僕よりも大切な人ができるよ……」
「……言ってもわからないんだな」
暗い蔭を帯びた清一郎の瞳が伊吹をまっすぐに見つめる。両手首を掴まれ、シーツに押さえつけられた。
不穏な空気を察し、伊吹は不安に瞳を揺らす。
「せぃ、いちろ……?」
「お前が俺から俺から離れようとするなら、無理やりにでも俺のものにしてやる……」
そう言って、彼は伊吹の唇に唇を重ねた。
「んっ……!?」
驚きに目を見開く。重なる清一郎の唇の感触が伝わってきて、激しく動揺した。
「んまっ、待っ……んんっ、待って、んっ、んっ、なんで、こんな……ぅんんっ」
懸命に顔を背けて抵抗する。
「せいいちろ、だめ、んっ、こんなこと、しちゃ、んんっ……こういう、ことは……好きな人と、しなきゃ……ぁんっ」
「っは……だから伊吹とするんだろ」
「え……?」
「俺は伊吹が好きなんだ。だからずっと傍にいてほしいし、伊吹を俺のものにしたい……」
「っ、っ……」
こちらを見つめる清一郎の双眸は真剣だ。熱の籠った瞳は伊吹だけを映している。
あまりにも突然の告白に、伊吹は言葉を詰まらせた。
「俺がどれだけ伊吹のことを思ってるか……伊吹以上に大切なヤツなんていないってわからせてやる」
「っあ、待っ、待って待って待って……!」
慌てて制止の声を上げる。
「伊吹が嫌だって言ってもやめないから……」
「そうじゃなくて……! 僕も好き、だから……っ」
「俺は、家族としてとか、そういう意味じゃ……」
「僕も、そうだよ……」
「え……?」
漸く、伊吹の言わんとしていることが伝わったようだ。
清一郎は呆然と伊吹を見下ろす。
その彼をまっすぐに見つめ、自分の気持ちを打ち明ける。
「僕も、清一郎が好き……。一番、大好き。ずっと一緒にいたい……清一郎に傍にいてほしい……」
「……ほんとに、伊吹?」
「ほんとだよ。ずっと好き。清一郎が、好き」
「でも、ここ出ていくって……」
「それは、清一郎に自分の気持ちを知られちゃいけないって思ってたから……。清一郎は僕のこと、家族としてしか見てないから……こんな気持ちのまま清一郎の傍にいちゃいけないって、そう思って」
正直に伝えれば、清一郎は深い深い溜め息を吐き出した。
「……なんだよ、俺達、両思いだったってことかよ……」
「そう、みたいだね……?」
「くっそ……こんなことなら、もっと早く言ってりゃよかった……っ」
清一郎は脱力したように伊吹の肩に顔を埋める。
清一郎が好きだと言ってくれなければ、伊吹は一生彼に気持ちを伝えることはなかった。タイミングが悪ければ、彼の気持ちを知らぬまま彼から離れていってしまっていたかもしれない。
「ありがとう、清一郎……。好きって、言ってくれて……」
そっと彼の背中に手を回せば、ぎゅうっと強く抱き締められた。ぐりぐりと首筋に頬擦りされ、伊吹は肩を竦める。
「っふ……せいいちろ、擽ったいよ……」
「…………」
「清一郎……?」
「キスしたい。キスしていい?」
「っ…………うん」
「さっき、無理やりしてごめん……」
「謝らなくていいよ」
優しく頭を撫でれば、清一郎は顔を上げた。
彼の熱を帯びた視線がまっすぐに伊吹をとらえる。
無性に恥ずかしくなって、伊吹はぎゅっと目を瞑った。
ゆっくりと唇が重なる。先程のように性急なものではなく、じっくりと感触を確かめるような口づけだった。
「は……伊吹の唇、柔らかい……」
「せ、清一郎の……口も、柔らかい、よ……」
互いに笑みを零し、再び唇を重ねる。
柔らかくて温かくて、心地よくてドキドキした。
ちゅっちゅっと、何度か角度を変えてキスを繰り返される。
それから、ペロリと唇を舐められた。伊吹はピクッと反応したが、抵抗はせず受け入れる。
彼の舌が中に入りたそうに唇をなぞる。
ねだるようなその仕草に、伊吹は少しだけ唇を開いた。
「んっ……」
すかさず舌が差し込まれ、恥ずかしさに伊吹はきつく目を瞑る。
「ふっ……はあっ……伊吹の唇、甘くて、おしい……」
「んんっ……」
味わうように口の中をねぶられる。動き回る舌に口内の粘膜を擦られ、その感覚にびくっびくっと体が震えた。
「は、ふぅっ……んっ……せいいちろ……」
離れていく彼の唇は艶かしく濡れていた。
羞恥に顔を赤くする伊吹同様、清一郎の頬も紅潮している。興奮した様子で息を乱す彼はあまりにも色っぽくて、伊吹は直視できなくなる。
「伊吹、伊吹……」
「わっ……!?」
熱っぽく名を呼びながら、清一郎は伊吹の服を捲り上げる。胸元を晒され、男同士なのだから恥ずかしいことなどないはずなのに、絡み付く彼の視線に羞恥が募る。
「はっ……はあっ……伊吹の、乳首……」
上擦った声で呟いたと思ったら、清一郎はおもむろに伊吹の胸元に顔を寄せた。
「ひゃぁっ……!?」
いきなり乳首にしゃぶりつかれ、裏返った声が漏れる。
ぬるぬると舌を這わされ、ぞくぞくとした感覚が背中を駆け抜ける。
「ひっあっ、やっ、やだぁっ、せいいちろ、やめてっ、やだぁっ」
身を捩って抵抗すれば、顔を上げた清一郎が悲しそうな目で見てくる。
「嫌? 伊吹、俺にこういうことされるの嫌?」
「違くてっ……僕、お風呂入ってないから……っ」
「なんだ、そんなことか」
そう言ってまた乳首を舐めてくる。
「そんなことじゃないよっ。汚いから、だめ……っ」
「汚くないから、ダメじゃない」
「あっんっ……だめって……んぁっ、ずるい、よっ……清一郎は、お風呂入ってるのに……っ」
清一郎の舌が小さな突起を舐め回す。むずむずするような感覚がそこから生まれ、伊吹は落ち着きなく身動いだ。
「んぁあっ」
ちゅうっと吸われると一際大きな声が出て、びくんっと背中が浮いた。
「んっあっ、待って、んっ、そこ、へんっ、へんな感じ、するっ」
「嫌か?」
「やじゃない、けど……っ」
「じゃあ我慢して」
「あうっ、んんっ」
嫌ではないと伝えれば、清一郎は更に熱心に愛撫を施してくる。両方の乳首を交互に舐めて吸われ甘噛みされ、どんどん赤く色づき膨らんでいく。気づけば唾液でぬるぬるに濡れていた。
「はっぁんっ、せい、ちろっ、んっあっあっ……」
「んっ……はあっ……伊吹の乳首、美味しい……もっと……んっんっ」
ちゅうっちゅうっと音を立てて吸い上げられ、伊吹は羞恥と快楽に身悶える。
「もうっ、だめ、だめぇっ、せいいちろっ、んんっ、だめなのっ」
「なんでダメ? 気持ちよくない?」
「ふあっ、はあっ……じんじん、して……変に、なりそう、だから……っ」
「別に変になってもいいけど……でも、ここばっかりじゃ辛いよな」
唾液に濡れた唇を舐め、清一郎は伊吹の下肢へと手を伸ばす。
「あっ……!?」
ズボンに手をかけられ、慌てて止めようとするけれどその前にずらされてしまう。
「勃ってる……」
「ひうぅ……っ」
緩く勃ち上がったぺニスを下着の上からやんわりと握り込まれ、伊吹は羞恥に悶える。
「んっやっ、触っちゃ、だめっ、あっんっ」
「気持ちいい? 下着の中でどんどん大きくなって……」
「あうっんっんっ、せぃ、ちろぉっ」
「これも脱がせるよ?」
「あっ、やっ、だめ……っ」
制止の声を上げるも、やはり聞き入れられることなく下着をずり下ろされてしまう。勃ち上がったぺニスがぷるんっと飛び出し、更なる羞恥に襲われる。
「やっやだぁっ、せいいちろ、見ないで……っ」
陰部を凝視され、伊吹は恥ずかしさに全身を赤く染めた。
「なんで。見たい、伊吹の体、全部」
「やっ、もう、恥ずかしいよ……っ」
「ああ、そっか、そうだよね。伊吹だけ見せるのは恥ずかしいか。ごめん。俺のも見せるから」
「っえ……?」
言われたことの意味を理解する前に、清一郎はスウェットの下を伊吹と同じように下着ごとずらした。
跳ねるように現れた彼の性器は、既に固く反り返っていた。
長年一緒に暮らしていたけれど今まで一緒に風呂に入ったこともなく、彼のそこを目にするのははじめてだった。
「っ、っ……」
「目ぇ丸くして、可愛い……。そんなに驚いてどうしたんだ?」
「っごめ……んんっ」
慌てて目を逸らせば、にゅるんっとぺニスの裏筋に清一郎のそれを押し付けられた。
「なんで目ぇ逸らしてんの? もっとちゃんとよく見て」
「あっあっあっ、だめっ、くっつけちゃっ……き、汚いからっ、ぁあっんぁっ」
「汚くないっつってんのに」
「あんっ、あっ、汚い、よぉっ、ね、お願い、おふろ、おふろ入らせてっ、おふろ入りたいぃっ」
清一郎は入浴したばかりなのに、自分はまだ済ませていない。清一郎が気にならなくても、伊吹はそのことが気になって仕方がなかった。涙目で訴える。
「終わってから一緒に入ろう。な、いいだろ?」
清一郎に甘えるように頬に頬擦りされる。
彼に甘い伊吹はそんな風にねだられると強く拒めない。
「っふ、ぅ……ずるいぃ……っ」
それを了承と取ったのか、清一郎は嬉しそうに微笑んだ。
「あっあっんっ」
「はっ……擦れて、きもちい……っ」
清一郎は息を乱し、伊吹のぺニスに自身のそれを擦り付ける。
自慰とは違う気持ちよさと興奮に、伊吹ははしたない声が止められない。
「あぅっんっ、せいいちろ、あっあっあぁっ」
「んっ、きもちい? あ、はっ……伊吹も気持ちいい?」
艶を帯びた声音で問われ、伊吹は小さく頷いた。
「あっ……ぅんっ……もち、いいっ……」
「ぅ……はあっ……可愛い、伊吹……っ」
目を向ければ、清一郎は情欲の滲む瞳で伊吹をじっと見つめていた。
「やっ、やだ、見ないで……っ」
「なんで? 気持ちよくなってるエロくて可愛い伊吹のこと、ずっと見てたい……」
「可愛くなんて、ないよ……っ」
きっとみっともない顔をしているに違いない。
それなのに、清一郎は大真面目な顔で「可愛い」と言ってくる。
「伊吹は可愛い。すごく可愛い。伊吹の表情、見逃したくない」
「やっ……僕、清一郎みたいに、かっこよくも、綺麗でもないからっ……変な顔してるから、見ないでっ」
誰もが認める美貌を兼ね備えた清一郎と、どこにでもいるような平凡な自分とではあまりにも違いすぎる。わかりきっていたことだけれど、こんな状況で彼に見られるのが無性に恥ずかしくて堪らなかった。
「俺の好きな人のこと、そんな風に言わないで」
「っ……」
清一郎は優しく微笑む。
「可愛いよ、伊吹は。俺は伊吹が可愛くて堪んない。優しくて強くて可愛くて、世界で一番大好き」
「っ……」
蕩けるような声でそんなことを言われ、伊吹は耳まで赤く染める。
「っ、っ、せ、清一郎だって、可愛いよ……っ」
「ふっ……俺、可愛いんだ?」
「か、可愛くて、かっこよくて、すごく、す、すてき、で……ぼ、僕だって、清一郎のこと、大好きだも……っ」
「嬉しい、伊吹……」
「んんっ……」
ぶつかるような勢いでキスをされる。深く唇を重ねられ、差し込まれた舌が舌に絡み付く。
キスをしながら、清一郎は二人の性器を握る。
「んうっ……ぁ、んっんんぅっ」
互いの性器を擦り合うように扱かれて、快感に体から力が抜ける。どちらのものともわからない先走りが溢れて滴り、くちゅくちゅと卑猥な音を立てた。
「んっんっ、はっ、あっ……せ、いちろ……ひっあぁっ」
「はっ、ああ……ぬるぬる、して……気持ちいい」
上擦り掠れた清一郎の声を聞くだけで、ぞくぞくと快感が走り抜ける。
「んあっあっ、だ、めぇっ、あぁっ、も、離して、んっんんっ、出ちゃう、からぁ……っ」
「いいよ、出して」
「やっ、だめっ、よごしちゃ、んっんっんっあっ」「汚していいよ。伊吹に汚されたい」
「っ……」
凄絶な色気を放つ清一郎が、情欲を孕んだ双眸で伊吹を見下ろす。
「俺も、伊吹を汚したい……」
「っ、っ……」
彼の言葉に、視線に、くらくらするほど興奮した。
「よご、してっ……せぃいちろ……」
「伊吹……っ」
「ああっ、んっんっんっんんぅっ」
激しく唇を貪られ、性器を扱かれる。互いの裏筋が擦れ合い、指で先端を刺激され、快感に腰が動く。
「ぅんっんっぁっ……はっんっ、んんん~~っ」
ぶるぶると内腿を痙攣させ、伊吹は射精した。吐き出した体液が彼の性器にかかる。
伊吹の精液を塗り込めるように自身の陰茎を擦り、清一郎も達した。どぷどぷっと、放たれた精液が下腹部に飛び散る。
荒い息をつきながら、伊吹は彼の体液で濡れる自分の腹を見つめた。
「ぁ……はあっ……ふっ……僕の、体……清一郎に、汚された、の……」
うっとりと目を細める。
「嬉しい……」
無意識に漏れた呟きに、清一郎が息を呑む。
「伊吹、そんな煽るようなセリフどこで覚えたんだ?」
「えっ……? あ、そ、そんな、つもりじゃ……」
恥ずかしいことを言ってしまったのだと自覚し、伊吹は居たたまれなさに身を縮める。
うろうろと視線をさ迷わせる伊吹を見つめ、清一郎はふ……と目を細めた。
「じゃ、約束通り一緒にお風呂入ろうか」
有無を言わせず部屋を連れ出された。脱衣所で裸に剥かれ、互いに全裸で浴室に入る。
はじめて一緒に風呂に入ることに羞恥を感じる前に、向かい合いキスをされた。
ちゅっちゅっと音を立てて唇を食まれ、ねぶられる。
「んっふっ……んうっんっんんっ……」
思う様唇を味わわれ、今度は口の中を舐め回される。口腔内を舐められる感覚に伊吹は体を震わせた。舌先で上顎を擦られると、ビクビクと反応してしまう。
「へぁっあ……せ、ぃちろ……」
「伊吹、舌出して……」
「ぁっ、あっ……待って、僕、もう……」
「ん?」
「っ……また……ぉ、ちんち……勃っちゃう、から……っ」
「はっ……大丈夫。俺ももう勃ってるから」
「あんっ」
ぐっと腰を押し付けられ、既に頭を擡げはじめていた彼の陰茎が下腹に触れる。
「ぁ、あっ……せいいちろ、の、おちんち……こすれて……っ」
「はあっ……伊吹、後ろ向いて……」
清一郎に体を反転させられる。彼に背を向けた状態で腰を引かれ、伊吹は壁に手をついた。
清一郎に尻を突き出すような体勢になり羞恥に狼狽えていると、脚の間に彼の性器が入り込んでくる。
「あっ……せ、ぃちろ……あっあっ」
「はっ、はあっ……伊吹……っ」
太股に挟んだ彼の陰茎が前後に動く。ぱちゅっぱちゅっと肉のぶつかる音が浴室に響いた。
「んあっ、うそ、あっ、こんな……ああっんんんっ」
挿入されていないのに、まるでセックスしているような感覚になる。
「ひっあんっ、んっ、せぃいちろ、のっ、おっきくて、あついの、こすれて、あっあっあっ、きもちよく、なるぅっ」
「はあっ……また、すぐ、そうやって、煽るようなこと、言う……っ」
「ひぁあっ……」
後ろから伸ばされた清一郎の手が胸に触れる。指先で両方の乳首を捏ねられ、快感に背中が反り返った。
「あっあっあぁっ、せぇいちろっ」
「伊吹、こっち向いて、キスしたい……」
「んっ……」
首を後ろに向け、不自由な体勢でキスを交わす。
彼の触れるところ全てが気持ちよくて、伊吹は再び絶頂へと駆け上がる。
「んっんっんっんんんんぅ……っ」
射精の快感にびくびくんっと体が跳ねた。
糸を引きながら唇を離し、清一郎は伊吹の臀部に精液を吐き出す。
また彼の体液を自分の身に浴びて、伊吹は恍惚とした表情を浮かべた。
それから体を洗い合い一緒に湯船に浸かる。合間に何度もキスをして、伊吹はすっかり彼の唇の感触を覚えた。
そして二人は清一郎のベッドで眠ることになった。二人で寝るには少し狭いベッドに向かい合う形で横になり、キスを繰り返す。
「んっはっ……せ、いちろ……んっんっ……」
「はあっ……んっ……伊吹……」
顔を離した清一郎は、唾液に濡れる伊吹の唇を指で拭う。
「伊吹……」
「んっ……清一郎……?」
清一郎はじっと伊吹を見つめる。
話を促すように、伊吹は彼の瞳を見つめ返した。
伊吹の頬を撫でながら、彼は口を開く。
「ここを出るときは、俺と一緒に出て」
「え……?」
「伊吹と少しでも離れるなんて嫌だ。傍にいたい。だから、ここを出るのは俺が大人になるまで待って」
清一郎との問題は両思いだったことで解決し、すぐにここを出なくてはならない理由はなくなった。けれど、それでもいずれは出ていくことになるだろう。清一郎とは歳が離れているから、必然的に伊吹が一足先に出ることになる。
清一郎は、そのことを言っているのだろう。
じっと真剣な瞳で見つめてくる清一郎に、伊吹は柔らかく微笑んで見せた。
「待ってるよ。離れたりしない、僕はずっと清一郎と一緒にいる」
少なくとも、彼が傍にいたいと望む限り彼の傍を離れるつもりはもうない。
「本当か……?」
「うん、約束」
しっかりと彼の目を見て頷く。
清一郎は安堵したように表情を和らげた。
自分を必要としてくれる人がいるというのは、とても幸せなことだった。
ふと家族のことを思い出す。両親も兄も姉も、誰一人伊吹を必要とはしてくれなかった。寧ろ伊吹を疎み、伊吹という存在を排除しようとしていた。
でも、だからこそ清一郎と出会えた。貴生と栞に愛情を注がれ救われたことで、清一郎というかけがえのない存在ができた。
「清一郎……僕ね、清一郎と会えて本当に良かった……。清一郎がいるからこんなに幸せで、楽しくて……産まれてきて良かったって心から思える。ありがとう、清一郎……」
なんだか胸が詰まって、涙が込み上げてくる。それでも笑顔を浮かべ、彼に素直な気持ちを伝えた。
清一郎はくしゃりと顔を歪める。
「そんなの、俺だってそうだ……。伊吹に会えて良かった……。伊吹がいなかったら、俺は今も父親のことで苦しんで、立ち直れずにいた……。伊吹が傍にいてくれたから、俺は今、こうして幸せでいられるんだ……」
両親にも兄姉にも愛されなかった。でも、自分には心から愛しいと思える人ができた。嬉しくて、堪らなく幸せだ。
「愛してる、伊吹」
「うん、僕も愛してるよ、清一郎」
この幸せがずっと続きますようにと願いながら、抱き締め合い眠りについた。
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