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2.すこや課、現場入りします
10話
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「ガルオン、話は済んだのか」
レヴィアスがガルオンを真っ直ぐに見つめた後、視線を外してシオンを見やる。
(心配してもらってる……のかな?)
表情はほとんど変化がないが、シオンはなんとなくその視線に柔らかな温度を感じた。
「は、はい!……こいつ、ここで頑張るって言うから……なんかあったら俺が守ってやるって話をして……」
「あっ、ガルオンさん」
カイレンの鋭い声が横から飛んできて、ガルオンはびくりと尻尾を硬直させる。
ん? 何か変なことを言っただろうか?
シオンは不思議な気持ちでカイレンを見つめる。
「あ、いや、守ってやるっていうのは言葉の綾っていうか……出過ぎた真似をするつもりじゃなくてっ」
急にしどろもどろになるガルオンを、レヴィアスは相変わらずの無表情で見つめて「そうか」とだけ呟いた。
気づけばガルオンは汗びっしょりになっていた。
体調不良を疑って、シオンはガルオンの顔を覗き込み、声をかけようとする。
「ガルオンさん、」
「あー、あー、シオンさん!食器の片付けは私とガルオンさんがやりますから、ノイル様のご用件の方をお願いします!」
「えっ?でも……」
「私はその足で、補充品の最終チェックに行ってきますね」
カイレンは、さっさと食べ終えた食器を重ねてガルオンへと手渡す。
その食器をやけに有難そうに受け取りながら、ガルオンが「行け」というようにシオンに向かって頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ガルオンさんも、お願いできますか?」
「おう、じゃあ、また」
「あっ、さっきの話!……頼りにしてますからね、ガルオンさん!」
カチャカチャと音を立てながら食器を運んでいたガルオンの後姿に、シオンが手を振って声をかける。
ビシっ、と凍り付いたように、ガルオンは一瞬全身をこわばらせる。
やがて背を向けたまま、声の方に向かって尻尾を緩やかに振って見せた。
「……よかった……」
ようやく、シオンは安堵の息をついていた。
今日のように会話が出来るのであれば、ガルオンを育成の担当者として据えた場合にも大きな問題は起こらなさそうだ。
そうなれば、レヴィアスの配下で起きている『補佐役の不在問題』を解決する一助になるかもしれない。
シオンは思わぬ収穫に微笑みながら、なぜかぎこちなく早歩きで退場していくガルオンを見送った。
「お待たせしました、ご用事は何ですか?」
シオンは、ノイルとレヴィアスに向き直って尋ねた。
「魔塔の実験に進展があったので、共有を。……ガルオンとは随分打ち解けたようですね」
「ぷっ!」
いつもと変わらぬ淡々とした口調で語るレヴィアスの横で、ノイルが小さく噴き出した。
レヴィアスとシオンが、ともに不思議そうな顔をしながらほぼ同時にノイルの顔を見やる。
「だ……大丈夫ですか?」
表情を伺うようなシオンの視線に気づいたのだろう。
ノイルは一度こほんと咳ばらいをしてから本題について語り始めた。
「ああ、ごめんごめん。そう、水と土壌の浄化に役立ちそうな成分が特定できたんだ」
「えっ!!良かった……!」
思わず漏れたシオンの喜びの声に、ノイルはふにゃりと笑った。
「で、これからは解毒薬を大量に作る必要があるから、物資調達の相談をしたくてねえ」
眠そうな目を擦りながら、ノイルは実験用のテントへと誘うように手を招きながら歩き出した。
その後姿を数歩遅れて、シオンが小走りで追いかける。
ノイルはテントの入口をバサリと開く。
……死屍累々。
テントの中では研究者たちが床でごろりと寝転んで仮眠を取っていた。
(えっ、これ、仮眠だよね……?)
仮眠だと信じたいが、その寝顔がいくらか安らかに見えるのが救いだ。
きっと彼らが床に伏せたのは、解毒成功の一報を受けてからのことなのだろう。
シオンは心の中で、横たわるその姿に手を合わせる。
後で甘いものでも差し入れしよう。
「解毒薬の原材料について、レヴィと話をしてたんだけど」
「汚染の規模を考えると、城内の資材だけで賄うのは困難です。商人から相応の量を購入する必要があるでしょう」
なるほど。
汚染源は特定できているが、そこからじわじわと日々被害範囲が拡大し続けている。
スピードと、汚染源を根絶できるくらいに余裕を持った解毒剤の分量が求められそうだ。
「わかりました。取引内容の決裁についてはレヴィアスさんに改めて相談しますね」
シオンはここから始まるであろう今後の動きの説明に備え、愛用のノートを開いた。
彼が言う商人というのは、魔王城に出入りする数少ない『人間の商人』のことを指している。
現状、魔王城と人間が営む国家の間には、まだ正式な貿易ルートが確立していない。
だが、個別にアプローチをかけてきた、ある意味『命知らず』な商人と独自の関係性は構築され始めていた。
現状、魔王城は外貨の獲得に苦慮している。
人間の国家がこれらの商人を好意的に見ているのかは分からず、彼らの立ち位置は安泰ではない。
しかし、物々交換と通貨による商談、両方に柔軟に対応してくれる商人の存在は正直有難かった。
頭の中で、付き合いのある商人を数名ピックアップする。
迅速に、規模感をもって対応してくれるところは……
かなり限られてくるが、早めにアプローチしないと。
「とにかく、浄化の手段が見つかったのは喜ばしいです」
これで魔塔の皆さんも少しゆっくりできますね、と晴れやかな気持ちでノイルに話しかけた。
すると、ノイルはにっこりと笑うだけで何も答えない。
その笑顔に、シオンはハッとし口を手で覆う。
「……解毒薬の生産は、魔塔の皆さんがこの後着手されるんです……ね?」
「さすがに、ちょっと寝てもらうけどねー」
あはは、とノイルが明るく笑う。
彼が纏った白衣が、なんだかいつも以上にくたびれているようにも見えた。
解毒薬の生産までうまくやり遂げられたら、さすがに皆には少し長めの休暇を取ってほしい。
(タイミングを見て、分散させて取得とか……どうだろう)
シオンは心のメモ帳に、そんなことを書きつけた。
レヴィアスがガルオンを真っ直ぐに見つめた後、視線を外してシオンを見やる。
(心配してもらってる……のかな?)
表情はほとんど変化がないが、シオンはなんとなくその視線に柔らかな温度を感じた。
「は、はい!……こいつ、ここで頑張るって言うから……なんかあったら俺が守ってやるって話をして……」
「あっ、ガルオンさん」
カイレンの鋭い声が横から飛んできて、ガルオンはびくりと尻尾を硬直させる。
ん? 何か変なことを言っただろうか?
シオンは不思議な気持ちでカイレンを見つめる。
「あ、いや、守ってやるっていうのは言葉の綾っていうか……出過ぎた真似をするつもりじゃなくてっ」
急にしどろもどろになるガルオンを、レヴィアスは相変わらずの無表情で見つめて「そうか」とだけ呟いた。
気づけばガルオンは汗びっしょりになっていた。
体調不良を疑って、シオンはガルオンの顔を覗き込み、声をかけようとする。
「ガルオンさん、」
「あー、あー、シオンさん!食器の片付けは私とガルオンさんがやりますから、ノイル様のご用件の方をお願いします!」
「えっ?でも……」
「私はその足で、補充品の最終チェックに行ってきますね」
カイレンは、さっさと食べ終えた食器を重ねてガルオンへと手渡す。
その食器をやけに有難そうに受け取りながら、ガルオンが「行け」というようにシオンに向かって頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ガルオンさんも、お願いできますか?」
「おう、じゃあ、また」
「あっ、さっきの話!……頼りにしてますからね、ガルオンさん!」
カチャカチャと音を立てながら食器を運んでいたガルオンの後姿に、シオンが手を振って声をかける。
ビシっ、と凍り付いたように、ガルオンは一瞬全身をこわばらせる。
やがて背を向けたまま、声の方に向かって尻尾を緩やかに振って見せた。
「……よかった……」
ようやく、シオンは安堵の息をついていた。
今日のように会話が出来るのであれば、ガルオンを育成の担当者として据えた場合にも大きな問題は起こらなさそうだ。
そうなれば、レヴィアスの配下で起きている『補佐役の不在問題』を解決する一助になるかもしれない。
シオンは思わぬ収穫に微笑みながら、なぜかぎこちなく早歩きで退場していくガルオンを見送った。
「お待たせしました、ご用事は何ですか?」
シオンは、ノイルとレヴィアスに向き直って尋ねた。
「魔塔の実験に進展があったので、共有を。……ガルオンとは随分打ち解けたようですね」
「ぷっ!」
いつもと変わらぬ淡々とした口調で語るレヴィアスの横で、ノイルが小さく噴き出した。
レヴィアスとシオンが、ともに不思議そうな顔をしながらほぼ同時にノイルの顔を見やる。
「だ……大丈夫ですか?」
表情を伺うようなシオンの視線に気づいたのだろう。
ノイルは一度こほんと咳ばらいをしてから本題について語り始めた。
「ああ、ごめんごめん。そう、水と土壌の浄化に役立ちそうな成分が特定できたんだ」
「えっ!!良かった……!」
思わず漏れたシオンの喜びの声に、ノイルはふにゃりと笑った。
「で、これからは解毒薬を大量に作る必要があるから、物資調達の相談をしたくてねえ」
眠そうな目を擦りながら、ノイルは実験用のテントへと誘うように手を招きながら歩き出した。
その後姿を数歩遅れて、シオンが小走りで追いかける。
ノイルはテントの入口をバサリと開く。
……死屍累々。
テントの中では研究者たちが床でごろりと寝転んで仮眠を取っていた。
(えっ、これ、仮眠だよね……?)
仮眠だと信じたいが、その寝顔がいくらか安らかに見えるのが救いだ。
きっと彼らが床に伏せたのは、解毒成功の一報を受けてからのことなのだろう。
シオンは心の中で、横たわるその姿に手を合わせる。
後で甘いものでも差し入れしよう。
「解毒薬の原材料について、レヴィと話をしてたんだけど」
「汚染の規模を考えると、城内の資材だけで賄うのは困難です。商人から相応の量を購入する必要があるでしょう」
なるほど。
汚染源は特定できているが、そこからじわじわと日々被害範囲が拡大し続けている。
スピードと、汚染源を根絶できるくらいに余裕を持った解毒剤の分量が求められそうだ。
「わかりました。取引内容の決裁についてはレヴィアスさんに改めて相談しますね」
シオンはここから始まるであろう今後の動きの説明に備え、愛用のノートを開いた。
彼が言う商人というのは、魔王城に出入りする数少ない『人間の商人』のことを指している。
現状、魔王城と人間が営む国家の間には、まだ正式な貿易ルートが確立していない。
だが、個別にアプローチをかけてきた、ある意味『命知らず』な商人と独自の関係性は構築され始めていた。
現状、魔王城は外貨の獲得に苦慮している。
人間の国家がこれらの商人を好意的に見ているのかは分からず、彼らの立ち位置は安泰ではない。
しかし、物々交換と通貨による商談、両方に柔軟に対応してくれる商人の存在は正直有難かった。
頭の中で、付き合いのある商人を数名ピックアップする。
迅速に、規模感をもって対応してくれるところは……
かなり限られてくるが、早めにアプローチしないと。
「とにかく、浄化の手段が見つかったのは喜ばしいです」
これで魔塔の皆さんも少しゆっくりできますね、と晴れやかな気持ちでノイルに話しかけた。
すると、ノイルはにっこりと笑うだけで何も答えない。
その笑顔に、シオンはハッとし口を手で覆う。
「……解毒薬の生産は、魔塔の皆さんがこの後着手されるんです……ね?」
「さすがに、ちょっと寝てもらうけどねー」
あはは、とノイルが明るく笑う。
彼が纏った白衣が、なんだかいつも以上にくたびれているようにも見えた。
解毒薬の生産までうまくやり遂げられたら、さすがに皆には少し長めの休暇を取ってほしい。
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シオンは心のメモ帳に、そんなことを書きつけた。
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