魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

文字の大きさ
21 / 84
2.すこや課、現場入りします

10話

しおりを挟む
「ガルオン、話は済んだのか」

 レヴィアスがガルオンを真っ直ぐに見つめた後、視線を外してシオンを見やる。


(心配してもらってる……のかな?)


 表情はほとんど変化がないが、シオンはなんとなくその視線に柔らかな温度を感じた。


「は、はい!……こいつ、ここで頑張るって言うから……なんかあったら俺が守ってやるって話をして……」

「あっ、ガルオンさん」
 

 カイレンの鋭い声が横から飛んできて、ガルオンはびくりと尻尾を硬直させる。

 ん? 何か変なことを言っただろうか?
 シオンは不思議な気持ちでカイレンを見つめる。


「あ、いや、守ってやるっていうのは言葉の綾っていうか……出過ぎた真似をするつもりじゃなくてっ」

 急にしどろもどろになるガルオンを、レヴィアスは相変わらずの無表情で見つめて「そうか」とだけ呟いた。

 気づけばガルオンは汗びっしょりになっていた。
 体調不良を疑って、シオンはガルオンの顔を覗き込み、声をかけようとする。

「ガルオンさん、」

  
「あー、あー、シオンさん!食器の片付けは私とガルオンさんがやりますから、ノイル様のご用件の方をお願いします!」

「えっ?でも……」

「私はその足で、補充品の最終チェックに行ってきますね」
 
 カイレンは、さっさと食べ終えた食器を重ねてガルオンへと手渡す。
 その食器をやけに有難そうに受け取りながら、ガルオンが「行け」というようにシオンに向かって頷いた。

「じゃあ、お言葉に甘えて。ガルオンさんも、お願いできますか?」

「おう、じゃあ、また」

「あっ、さっきの話!……頼りにしてますからね、ガルオンさん!」


 カチャカチャと音を立てながら食器を運んでいたガルオンの後姿に、シオンが手を振って声をかける。


 ビシっ、と凍り付いたように、ガルオンは一瞬全身をこわばらせる。
 やがて背を向けたまま、声の方に向かって尻尾を緩やかに振って見せた。


「……よかった……」

 
 ようやく、シオンは安堵の息をついていた。
 

 今日のように会話が出来るのであれば、ガルオンを育成の担当者として据えた場合にも大きな問題は起こらなさそうだ。
 
 そうなれば、レヴィアスの配下で起きている『補佐役の不在問題』を解決する一助になるかもしれない。
 シオンは思わぬ収穫に微笑みながら、なぜかぎこちなく早歩きで退場していくガルオンを見送った。



「お待たせしました、ご用事は何ですか?」

 シオンは、ノイルとレヴィアスに向き直って尋ねた。


「魔塔の実験に進展があったので、共有を。……ガルオンとは随分打ち解けたようですね」

「ぷっ!」

 いつもと変わらぬ淡々とした口調で語るレヴィアスの横で、ノイルが小さく噴き出した。
 レヴィアスとシオンが、ともに不思議そうな顔をしながらほぼ同時にノイルの顔を見やる。
 

「だ……大丈夫ですか?」
 

 表情を伺うようなシオンの視線に気づいたのだろう。
 ノイルは一度こほんと咳ばらいをしてから本題について語り始めた。

「ああ、ごめんごめん。そう、水と土壌の浄化に役立ちそうな成分が特定できたんだ」

「えっ!!良かった……!」


 思わず漏れたシオンの喜びの声に、ノイルはふにゃりと笑った。 


「で、これからは解毒薬を大量に作る必要があるから、物資調達の相談をしたくてねえ」

 眠そうな目を擦りながら、ノイルは実験用のテントへと誘うように手を招きながら歩き出した。
 その後姿を数歩遅れて、シオンが小走りで追いかける。
 

 ノイルはテントの入口をバサリと開く。

 
 ……死屍累々。

 テントの中では研究者たちが床でごろりと寝転んで仮眠を取っていた。

(えっ、これ、仮眠だよね……?)


 仮眠だと信じたいが、その寝顔がいくらか安らかに見えるのが救いだ。
 きっと彼らが床に伏せたのは、解毒成功の一報を受けてからのことなのだろう。


 シオンは心の中で、横たわるその姿に手を合わせる。
 後で甘いものでも差し入れしよう。 


「解毒薬の原材料について、レヴィと話をしてたんだけど」

「汚染の規模を考えると、城内の資材だけで賄うのは困難です。商人から相応の量を購入する必要があるでしょう」


 なるほど。
 汚染源は特定できているが、そこからじわじわと日々被害範囲が拡大し続けている。
 スピードと、汚染源を根絶できるくらいに余裕を持った解毒剤の分量が求められそうだ。


「わかりました。取引内容の決裁についてはレヴィアスさんに改めて相談しますね」

 シオンはここから始まるであろう今後の動きの説明に備え、愛用のノートを開いた。


 彼が言う商人というのは、魔王城に出入りする数少ない『人間の商人』のことを指している。
 現状、魔王城と人間が営む国家の間には、まだ正式な貿易ルートが確立していない。


 だが、個別にアプローチをかけてきた、ある意味『命知らず』な商人と独自の関係性は構築され始めていた。
 
 現状、魔王城は外貨の獲得に苦慮している。

 人間の国家がこれらの商人を好意的に見ているのかは分からず、彼らの立ち位置は安泰ではない。
 しかし、物々交換と通貨による商談、両方に柔軟に対応してくれる商人の存在は正直有難かった。


 頭の中で、付き合いのある商人を数名ピックアップする。
 迅速に、規模感をもって対応してくれるところは……

 かなり限られてくるが、早めにアプローチしないと。


「とにかく、浄化の手段が見つかったのは喜ばしいです」

 これで魔塔の皆さんも少しゆっくりできますね、と晴れやかな気持ちでノイルに話しかけた。
 すると、ノイルはにっこりと笑うだけで何も答えない。

 その笑顔に、シオンはハッとし口を手で覆う。


「……解毒薬の生産は、魔塔の皆さんがこの後着手されるんです……ね?」

「さすがに、ちょっと寝てもらうけどねー」


 あはは、とノイルが明るく笑う。

 彼が纏った白衣が、なんだかいつも以上にくたびれているようにも見えた。

 解毒薬の生産までうまくやり遂げられたら、さすがに皆には少し長めの休暇を取ってほしい。
 
(タイミングを見て、分散させて取得とか……どうだろう)

 シオンは心のメモ帳に、そんなことを書きつけた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...